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二人の人魚と小さな人魚姫

「ラミナ様より、濃いブルーの瞳でいらっしゃいますね、ラナ王女は」

「ダルナ、ラナは『ヒト』として暮らし、一度きりの命を生きて欲しいと思っているのです。

エスメラーダゆえの苦しみをルシナは知っています。それはあなたも知るでしょう。さあ、マオ様の元に戻りましょう」

「しかし、ラナ様はどうされるおつもりですか? 私は予備の『フィン』も持ってきておりませんし」

「そうね『フィン』はあなたのものを借りましょう、ラナはオロスに置いていきます。アマトが何とかしてくれるでしょう」

「そんな無責任な、ここには教育係のイルカたちはいないのですよ、ラミナ様」

「大丈夫。いい、ダルナ。ヒトは助け合ってやっと生きていける。皆が先生、教育係なんていないのよ。それにアマトの妹『メシナ』はオロスの巫女として、ヒメカと同じ術もいくつか使えるの、ラナにその素質があればそれを伝授してくれるかも知れない。私に似た娘に育つかしら? それを見る事が出来ないのが少し残念だけど」


 弱々しく見えたラミナは、すっくと立ち上がり衣服を脱ぎ、ラナにそっと掛けた。そして岩陰に置いてあったダルナの『フィン』をすくいあげると細い腰に巻き付けた。一枚のヒレが下半身に密着し、先が広がり長くしなやかなヒレに変わった。

「アガルタに着いたらすぐに返します、その日までラナを見守っていてね。ダルナ、いえアキナ・エスメラーダ。可愛いラナ、幸せに暮らしなさい。一度きりのヒトの命を使って」

そう言うと、ラミナは紅珊瑚の髪飾りを外しラナの側に置き、頭を撫でた。その顔はダルナが今まで見た事もない母人魚の顔だった。


赤い月も次第に青く輝きを増し、波間に消えていく人魚の姿を静かに映していた。


「ラミナー、ラミナー」

夜明けまでアマトの声がオロスの村中に空しく響き渡っていた。ラナはアマトの妹が引き取りオロスの巫女として育てる事にした。ラナを浜でみつけたダルナと言う娘は、たいそう美しくそして利口であった。また、ラナがなついていた。オロスの巫女メシナはダルナも引き取り、娘のように育てた。ダルナはシャングリラの人魚の力も併せ持っていた。『フィン』を脱いだ足はヒト並みの脚力を持ち、ラナと遜色ない。オロスで既に二度目の春を迎えようとしていた。ラミナの連絡は途絶えたまま、オロスから出る事も出来ないダルナは、メシナの呪力を伝授されていた。


「ダルナ、違う!カムイリカは三の指をこう曲げる!」

指が折れそうなメシナの力に、ダルナは悲鳴を上げた。

「ギャッ」

「なんて声出すの、このくらいで」

「だって、母さん。指が折れそうに曲げるんだから、もう……」

「ダルナ、修行中は先生でしょう!さあいくわよ、オローシャ・カムイリカ!」

岩に砕けた波がそのままの形で凍りついた。ダルナはオロスの術を見事に修得していった。

(ダルナはきっと、私以上の巫女になる。この娘ならこの星を守れるかも知れない)

メシナは、そう思いオロスの術の全てを伝承するつもりだった。


「あれからもう随分経った、マオ様は幽閉されたまま。シャングリラは少しずつメイフに脅かされているが、七色の宝玉はまだ集まっていないはずだ。ベルーガたちによれば、ルシナがやっと全てのシャングリラの意志をまとめたらしい。それにしても何処に行ってしまったの、ラミナ様は」

ラミナの着けた『フィン』の切れ端が、オロスを出た翌日、太平洋上で漁網にかかった事などダルナは知らなかった。ダルナの心には、日が経つにつれて暗いものが芽生え始めた。

「まさか、私を置き去りにして? いや何を考えているの、ラミナ様はそんなお方では、決してない。ラナ様をお守りしなくては」


 ある夜、ダルナが浜へ出て行った。それに気づいたメシナは後を追った。ダルナは海に向かって話しをしているようだ。やがて別の声が応じてダルナ聞こえた。

「ダルナ、すでにオロスに来ていたの。じゃあ安心ね、これをラミナ様に」

その話し振りはルシナの元にラミナは着いていない様だった。

「ルシナ、ラミナ様はここにはもういらっしゃらない、とっくにアガルタに向かわれたはずよ」

 岩陰から返事はなかった。

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