オロチとミコトの戦い
「シラト『オーロラの鏡』を使え。どんな呪力もはじき返す神器だ、オロチなど恐れるな。ミコトに協力するのだ」
「承知いたしました、マオ様」
出立前に弟のメイフは言った。
「兄者、本当に一人で大丈夫か?」
「カルナが死んだ後だ、おまえの気分もまだ優れまい。なあに、すぐ戻ってくる」
(オーロラの鏡か、カムイの嵐だけでは戦えない相手だと言うのか、オロチという相手は)
その頃、カムイは追い詰められていた。東方のヤマタは海を渡り、大群でカムイを襲った。ヤマタが空を覆い尽くすほどの矢を放ち、オロチの呪力を加え、それは火矢となりカムイを焼き払っていった。カムイの城はすでに孤立していた。ミコトは『カムイの嵐』と言う名の長剣を使い城の上空の火矢をなぎ払うのが精一杯だった。本来、『カムイの嵐』は攻撃の武器だ、オロチの呪力を防ぐ術がなかったのだ。そのためアガルタに伝わる最強の防具となる『オーロラの鏡』を必要としたのだった。
「ミコト様、もはやカムイはほとんど焼き払われようとしています。このままでは……」
神兵の一人が、彼に報告した。
「時は来た、わしが立とう」
ミコトは剣を天に突き上げると目を閉じた。
「カムイの神よ、再び闇の力を用いる事をお許しください」
その時、聞き覚えのある声がそれを止めた。
「ミコト、お前が闇になってはいかんぞ」
「シラト!来てくれたのか」
「ああ、あの火矢は俺に任せろ!」
オーロラの鏡が上空の火矢に光を放った。ことごとく矢は消滅した。それを見て、城からカムイの兵が一斉に反撃を始めた。敗走するヤマタの兵とは逆方向に、ゆっくり城に近づく巫女がいた。それがオロチであるのはすぐにわかった。巫女は黒い霧とともに巨大な化け物に化身したのだ。八つの頭を持ち、四本の手と足を持ち。さらに尾が二つに避けている、それは蛇とも蛸とも似ている化け物に……。
「あれは、まさにヤマタノオロチ」
ミコトもシラトもその巨大な化け物を見上げて同時につぶやいた。八つの口から炎を吹き出しながら狂ったように四方を焼き尽くし進んでくる。敵も味方も眼中にはない、悪魔の登場とともに鼻につく人肉の焼ける匂いと叫び声は一瞬でカムイの城の中にまで届いた。
「俺をちゃんと制御しろよ、シラト」
「そうだな、ミコト」
遂にミコトは決心し、再び剣を上空に向けた。
雷が彼を貫き、は虫類型知的生命体『キョウリュウ』となったミコトは、シラトが向けたオーロラの鏡により、再び人型に戻る。全身に『カイリュウ』の鱗をまとった他は緑の瞳に変わったくらいにしか見えない。
ミコトの持つ剣はカムイの嵐、その盾はオーロラの鏡が変形したものに変わっていた。
「そうか、よくやったシラト」
オロチを倒したという報告を聞いて、マオは安心した。しかしその後に続くシラトの報告は重いものだった。
「マオ様、ミコトが目覚めません。カムイの嵐でオロチを切り裂いてもすぐに再生し、らちがあかないまま、ミコトはオロチとともにオーロラの鏡に吸い込まれたのです。そして鏡から一人戻ったミコトはそのまま力つき、息を吹返しません」
「カムイはどうなった、シラト」
「全滅は免れたものの、カムイは国のほとんどが焼かれ、兵士は氷のヤリに身体を貫かれています。それに、ヤマタの兵士はどうやらオロチに操られていたらしく。オロチが封印された今、皆正気に戻ってはいますが、やはり傷ついております。このままではこのカムイの国は廃墟となってしまう」
シラトは戦いで失ったものの大きさに驚いていた、マオは彼に命じた。
「シラト、オロチは恐るべき闇の化身かも知れぬ。もしそうならば、ミコトはわしらの力では再びこの世に呼び戻す事はできないだろう」
「ミコトは死んだとおっしゃるのですか」
「いや、ミコトの魂は消えてはいない、身体から離れてしまっているのだ。いいか、よく聞けシラト。すぐにオーロラの鏡を封印するのじゃ、ミコトの身体が引きずり込まれぬようにな。カムイの嵐で鏡を突けば良い、そして結界を張り七日七晩守り通せばミコトの魂は闇の手には渡らない、わしに考えがある」
シラトはマオの言う通りにした。そして石化したミコトをカムイの城に安置した。カムイを復興し、正気に戻ったヤマタのヒトを回復させ、東方の国に戻すために動いたのが、レムリア王国のリカーナ、マンジュそしてアロマだった。時に1997年、ラミナ・エスメラーダがアマトに命を救われ、ラナが生まれるのはその翌年の事だ。




