闇の芽生え
「カルナ、一体どうした事だ!マオ様、何故カルナが息をしないのだ」
百年は生きる十二人の人魚は、交互に六人づつエスメラーダとともに再誕する。マッコウクジラのカイリュウ、メイフはカルナを妻にしていた。時空にあった、ナツメの石の影響なのだろうか、カルナが突然全身を硬直させ、息を引き取ってしまった。メイフはそれ以来ふさぎ込み、まるで別人のようになった。
「マオ様、少しでも早くカルナの再誕はできないのですか?」
メイフは何度も尋ねた。それが不可能な事は彼も知っていた。しかし、彼はマオが異界から持ち帰った石、『転生の石』の事を知っていたのだった。
「あの石を使えば、五十年も待たずに愛しいカルナに逢えるのではないだろうか?」
彼はそう考えたのだ。いやそう洗脳されていたのかも知れない。『アガルタの三王子』のひとりナガスクジラの『シラト』がいないうちにメイフはその『転生の石』をそっと持ち出した。
誰も知らない秘密の洞窟に彼は降りた。ナツメ色に輝くその石は、メイフの心の暗い影を栄養とした。それは闇の種として発芽し次第に大きくなっていった。次第にメイフは闇の化身として変化していった。赤い瞳になった彼は一心に祈った。
「リボンヌ・カルーナ・アガルテ(カルナよ再びアガルタに生まれ変われ)」
口をつき、自然に転生の呪文が飛び出した。
「おお、カルナ。よく戻った」
洞窟に黒い人魚の影が現れた 。転生の石の力で、アガルタの洞窟に現れた人魚にはまだ実体がなかった。メイフと言葉も交わすこともなく、すぐに煙となり消えた。しかしメイフにはその人魚はカルナにしか見えなかった。
「カルナが実体になるには、相応の寄り代が必要なのか?」
メイフは転生の石をその洞窟に隠した。寸分と違わない『ナツメの石』のコピーを元の場所に戻すと何食わぬ様子でマオを訪ねた。
「マオ様、少しよろしいですか?」
「おお、メイフか。いいとも、大歓迎じゃ」
「マオ様に以前から聞きたかった事がありましたので」
「何だ、お前にもわからぬ事があるのか?」
メイフはこの地球の中で一番大きな脳を持つ、マッコウクジラのカイリュウ、マオに次ぐ知識を持っている。マオが一番可愛がっていたのだった。
「シャングリラの人魚はアガルタに必要なのでしょうか? 七つの海の人魚だけでいいのではありませんか、ずっと疑問に思っていました。それに、次のエスメラーダもカルナのように再誕前に死ぬ事はないのですか」
マオはすぐには答えなかった。しばらくして巨大なシロナガスクジラがゆっくりと口を開いた。
「メイフよ、人魚の総意、寄り代がエスメラーダなのじゃ。海だけではならぬ、陸も天空、時空までこの星の総意を集めるのが我らリュウグウの役目として与えられたのじゃ。エスメラーダが死んだ場合、やはりそこから五十年後再誕される。その間は七海をまとめる人魚『マーラ』がエスメラーダとして人魚をまとめるのじゃ」
「マオ様、役目を与えられたとおっしゃいましたが、それは誰からなのですか?」
マオは、少しためらったようにも見えた。
「メイフ、お前には伝えておこう、アガルタの歴史、いや大宇宙の創世を」
「混沌は『タオ』と呼ばれた。その混沌の中からこの宇宙にやがて光り輝くもの『マナ』と大いなる闇『ヨミ』が生じた。宇宙に大小の爆発が起こり、多くの塵が漂い、そして集まり次第にまとまり始めた。それらは互いに引き合い衝突し、また吸収され次第にそれらは『星』と呼ばれた。わしらの住むこの星も厚い水蒸気の雲が大雨となり、高温の陸を冷やしていった。海とはまさに『産み』の源として生命を生じた。マナとヨミにより生み出された生命体は、やがて陸上に上がり、知的生命体へと進化していった。その内の進化した一族は『キョウリュウ』と呼ばれた。そして陸の生命体全てを支配していた。のちの名を『神威』という。わしら『リュウグウ』とは祖先を一つにするのじゃ」
メイフは黙ったまま聞いていた。
「メイフ、わしらリュウグウは再び海に戻った。生命の源でもある、この海を守る事がこの星を守る事なのじゃ。カムイはキョウリュウの中の闇をねじ伏せた。カムイは陸にいる『人間』のもとになったものだ。その呪力は巫女またはミコトと言うものだけが使える事になった。『カンブリア爆発』と言う膨大な種類の生命体が産まれ、大絶滅を繰り返し次第にこの地球を滅ぼしかねないヒトも生まれた。それを知ったアガルタのリュウグウが何度かその大陸を沈めた事もある。それが『タオ、マナ、ヨミ』の三創造主の意志なのじゃ。時空にあるシャングリラは時空の王国、レムリアと繋がっておる。天空のシャングリラはカムイとだ。アガルタの役割は創三神より仰せつかった。そのためにシャングリラは重要なのじゃ」




