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人魚の卵

 『イノウエ』は国籍上は日本人だ。祖父はある日、彼に桐の箱を見せるとこう告げた。

海士(アマト)これは、わしが十六のとき、譲ってもらったものだ。その人の名は忘れる条件でな。開けてみな」

中には直径二センチ位の緑色の真珠があった。


「じいちゃん、真珠かこれは?」

「いいや、人魚の卵さ」

「へっ、ばかばかしい」

「それはな、世界一深い海の底で採ったそうじゃ」

「マリアナ海溝の一番深いところ?」

「そうさ、チャレンジャー海淵、そう名前は変わってしまったが、『満州号』のピアノ線は確かに一万メートルの海底に届いたのさ。そしてそいつの入った巨大な真珠貝を引き上げた。だがその発見は欲にかられた政府によって闇に葬られた。その真珠は想像もできないほどの価値があったんだ。場所を隠すために満州号のピアノ線は途中で切れてしまった事にされた。やがてチャレンジャーがやっと海底まで届き『チャレンジャー海淵』と改名されたのさ。まあ、そんな事はいいんだが、調査に関わったものが次々と恐ろしい目に会い、結局わしの船でその真珠をマリアナへ返しにいった、七つあった真珠を返した後、もうひとつ小さな真珠が貝の鰓の奥に残っていたものの、もうどうする事もできなかったそうだ」


 海士は祖父の話しを聞きながら真珠を指でつまみ上げ透かして見たり軽く振ってみた。ただの真珠と色が違うだけに見える。その様子を祖父は目を細めて見ていた。

「わしもそうやってみたよ、でもやっぱりただの真珠にしか思えなかった。男は卵はもう死んでいる、人魚は深海でしか孵化はしないんだとさ。男は海洋研究所で働いていたから立派な知識を持っていた。いい加減な事を思いつきで言う事はなかった。それがある晩これをわしに託しにきた」


「××さん、××さん……、助けてくれてありがとう……」

「早くお逃げなさい。彼らがあなたの命を狙っている」

「彼らは大いなる力を持っています」

「エスメラルダは五十年後に産まれます。その時までそれを守ってください……」


「次々と男の頭に声が響き、それが一つ残った真珠から彼の脳に話しかけているようだと言う。

そして、これを私に渡した。人魚を守ってくれとな」

「じいちゃんに? どうして」

「さあな、その頃よくマリアナまでクジラを追いかけてったからかな、それとも海賊のまねごとなんかもやってたから、そっちの方にも顔が利いていたからかも知れんな……」

「それからどうしたの」

「間もなくその男は行方不明さ、真珠の事を知る者も資料も何もかも無くなったよ。これだけだ、ひとつ頼みがある。エスメラルダを守ってくれ。実はわしにも声が聞こえたのさ、そろそろ人魚が産まれると……」


 少年の頃からよく祖父と海に出ていた彼も、やがてトレジャーボートを手に入れる。ボートには最新鋭の探査艇『amato』を搭載した。その耐圧殻は国内の最高頭脳が集まる『アカデミア』で開発されたものだ。彼は資金源として海底資源の採掘も行っていた。ニールとは逆で資源の方が『副産物』だった。そのニールから、不思議な貝を一万メートル以上の海底から引き上げたと連絡が入ったのだった、それがあのアコヤガイ、そして人魚の卵だと『海士(あまと)』はピンときた。


「ニール、すぐ行く。加圧水槽に保管していてくれ」

「イノウエ、俺の水槽は旧式だから五百気圧しか加圧出来ない、早く来るんだな。それとキャッシュで五百万ドル用意して来いよ。貝は二個引き上げた……」


彼はそれを今日やっと手に入れた。

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