第二章 オーストラリア
アマゾンから戻ったギバハチは、早速メイフにその戦いを報告した。側にはイラーレスの姿はない。
「アギーレがやられたとはな、それでヤツらはオーストラリアへ向かったのか」
ギバハチはカイリュウではあったものの階級は低い、重要な事は何も知らされていない。
「オートラリアのシャングリラ、ルシナの持つ宝玉を求めております。イラーレスは先回りをしました」
メイフは考え深そうに、ギバハチに言った。
「イラーレスは探し物を見つけたらしい、それもよかろう」
「私は、予定通りマリアナ海溝に、待機しておればよいのですか?」
彼はオーストラリアにすぐ向かうのだと思っていた。
「ヤツらはマリアナに行かねばならない、お前の出番がないかも知れないな」
「イラーレスが片付けるとでも? それほどの人魚ですか」
「あの人魚は、エスメラーダだった人魚さ、恐ろしく強いぞ」
その頃、オーストラリアに向かう影があった。
「ようやく陸地が見えた、これからルシナを探さないと」
イラーレスは、その足ひれを収め、陸に上がると変化の術を使った。それはアマゾンの巫女スザナの姿だ。
「これでよしと、後もう一仕事しておかないとね」
イラーレスは、目を閉じて四方に呼びかけた。
(……私は無事よ、さあ。出ておいで)
やがて、辺りがひときわ明るさを増した。
「おいで、ナナイロフウキンチョウ」
それはスザナが飛ばせたフウキンチョウだ。既にそれをこの大陸のルシナに伝えているはずだった。
(ルシナがどこに隠れていようと、この鳥はスザナの伝言を伝えているに違いない……)
スザナに変化したイラーレスの肩にフウキンチョウは降りてきた。その両足が肩にとまる寸前、彼女は右手を広げその細い足をつかんだ。そしてすばやく用意していた鳥かごに放り込むと、高らかに笑った。
「アハハハッ、ちょろいものね。さあ、ルシナはどこに隠れているのかしら。羽をむしられる前に言うのよっ!」
イラーレスは変化の術でスザナと同様に、生き物の言葉を理解出来るようになっていた。カゴに閉じ込められたナナイロフウキンチョウは怯えながら答えた。
「この先の森の奥、滝の後ろにある洞窟……」
「いい加減な事言ったら、承知しないわよ」
イラーレスは鳥かごを持ち、森の奥へと入っていった。
「ルシナはスザナの妹ですって、いったいどこに隠れているのかしら?」
スザナがメイフから守り通した、橙色の宝玉のお陰で、オーストラリアまでの飛行術を使っても、里香のマナは全く減らなかった。陸に舞い降りたのは、イラーレスが森へ向かってしばらくしての事だ。里香は既にイラーレスが来ている事を集まってきたワラピーたちに教えられた。
「森の奥へ向かったらしいわ、急ぎましょう。ラナ」
里香はラナの過去について話しを聞いてはいない、ただキリトという男が、人魚に連れ去られた事は聞いている。その人魚はオーストラリアのシャングリラ、ルシナだろうとスザナがラナに伝えたのだ。
「両親もキリトも奪った人魚、私は決して許さない。それがアガルタのシャングリラの人魚だろうと……」
その惨劇を見て、はやるラナの帰郷を母の手紙が寸前で止めた。
「ラナ、私たちにとうとう審判がくだされました。けれどもあなたはオロスに戻ってはなりません。私たちの犯した罪のために多くの村の人を犠牲にしました。あなたに託したオーロラの剣はあなたを必ず守ってくれます。ラナ、あなたの側にいつだって、父も母もいる事を忘れないで……」
ラナはその手紙を思い出し、オーロラの剣の鞘をもう一度強く握った。
(……いったい、母さんたちは何の罪を侵したというのよ……)




