後悔
川から一群の魚人が上がってきた。黒ジャガーのオンサは軽々と飛び上がり、スザナの背後に回ろうとした魚人の頭を噛み砕き、彼女の背後についた。その低いうなり声に魚人は全く動じる事も無く、その指を伸ばした。スザナは魚人のピックを両刃の短剣で払いながら、急所の一つ、頬のエラを突き刺して魚人を次々と倒した。しかしアギルは余裕たっぷりに言った。
「ほら、見てみろ。サメ達がまたやってきた、これだけの軍勢を見てもまだやるか。お前は人魚だ、この星が海に覆われても、構わんだろう。何故抵抗する、我らはおなじアガルタのリュウグウ族だろう」
スザナはそれを聞くと笑って言った。
「アハハハッ、この星の全てが海に覆われたら、一体どこで休むのさ、浜があって、陸があって、アマゾンがある。リュウグウがいて、人間がいて、ムシビトがいて、そして人魚がいる。見知らぬ場所があるからこそ、好奇心、恐怖が生まれる。そしてアガルタのよさに気付く。それにアギル、お前はリュウグウ族なんかじゃあない、お前は魚人だ。私と違ってお前にはほら、そのまっ赤なエラが必要なのさ」
そう言うと、スザナはまた別の魚人のエラを突き刺した。
一方、里香のスティックをかわしながら、スザナの話しを聞いた毒エイは、アギルが言った事をすこし疑いはじめていた。
(本当にアマゾンだけは海に沈まないのだろうか?)
里香は少しづつ念波が練れるようになった。七色の宝玉が集まり始め、マナの力が戻り始めているのだ。
「あなたに、教えてあげましょうか?」
「何を教えるって、マンジュリカーナ」
「スザナが言った通り、あいつの約束なんて信用出来るものですか、第一、このアマゾンにシャングリアがあるのよ、そこから海底のマグマが溢れてくるのだから、この辺りなんて真っ先に蒸発するはずでしょう」
「ム……」
「それに、この星をまた水の惑星に戻すってのはね。魚人以外は全て死に絶えるという事よ。川に棲む生き物が海水で生き残れるの?」
「だが、アギルは自然破壊をする人間どもを殺すと言ったぞ。このままだと俺たちも皆殺しになると」
「そこまで人間がするとは思えないわ」
「何故だ? マンジュリカーナ」
「教えてあげる、この星には知的生命体として発達したものが、三つあるの。陸上には人間が、アガルタにはリュウグウが、そして異界のレムリアにはムシビトがね」
「それがどうした、人間はこのアマゾンにも入ってきている」
「人間は毒エイやピラニアやワニやデンキウナギを知らないのかしら」
「馬鹿な事を、毎年のように人間は俺たちに襲われ命を落としている、知らないはずはない」
「そうね、でもあなた達を絶滅させたりしない。ワニなんか保護されているのよ。世界にはそんな生き物がたくさんいるわ、何故だと思う?」
「何故だ、人間同士の戦いには、恐ろしい武器を使っているのに」
「人間にとって危険で邪魔な生き物でも、繋がっている命を大切に思っているのよ。だから、アマゾンの毒エイも吸血ヒルもワニもジャガーも皆殺しなどしない。それが知的生命体のあるべき姿なの、それなのにメイフはマオを封じ込め、世界中にマグマを吐き出して焼き尽くし、自分たちだけの星にしようとしている。でもそれは絶対に原始の地球なんかじゃない」
毒エイはフィンガーピックを縮めた。
「俺は、あいつに騙されているという事か」
「スザナがアギルに一度も負けなかったのは、その心が多くの生き物に通じたからでしょう。ただ水底までは届かなかったのね。真水だから人魚は潜れないしね」
「フフッ、そりゃそうだな……」
毒エイは、戦いをやめ、アギルの方へ歩いていった。
「どうした、何故戦うのを止める」
「やい、その人魚が言ったのは本当の事か、お前が俺に約束したのは嘘なのか?」
毒エイがアギルの胸ぐらをつかんだ。次の瞬間アギルのフィンガーピックが伸び、毒エイを貫いた。小さなうめき声を上げ毒エイが膝まづいた。
「やっぱり、川魚は使えねえな。ああ、その人魚の言う通りさ、アマゾンなんて一瞬で蒸発するだろうよ。その時には、約束が違うと、文句をいうお前はとっくにいないがな……」




