メルトドス
彼女がハンマーを振り上げる前に、もう一人のメルトドスが彼女を背後から羽交い締めにした。
「油断大敵だな、ハハハッ」
「エリナ!」
「ふん、お前達は後だ。なるほど匂いか、しかしいくら目を塞いでも全身に熱閃光を浴びればすぐ黒こげになるだろうがな、いいか離すなよ、わしの分身」
魚人が熱閃光を放つ前にプラチナチェーンが風きり音を残し、魚人の頭上の発光器にからんだ。
「オローシャ、ピリリカ!」
雷針が魚人の頭上に落ち、その発光器を砕いた。
「グムムン、おのれっ小娘め!お前は北海の巫女か?」
「そうとも、私は北極のオロスの巫女ラナ・ポポローナ」
プラチナチェーンが魚人を縛り上げた。分身はドロドロに解け、羽交い締めからようやくエリナは自由になった。
「危ない!」
里香の声にはっとして、二人は後方に飛びのいた。数本の鋭い指が地面に突き刺さった。振り返るとメルトドスはプラチナチェーンの隙間から抜け出し、再び人型になっていた。
「魚人は鱗一枚からでも分身を作れるのさ、だから武器はフィンガーピック(指針)だけで充分なのさ、ゲフフッ」
魚人は今度はゆっくり里香に近づいてきた。
「お前達は、そいつらを刺し殺してやれ。俺は目障りなもう一人を片付けよう、瞬殺してやろう、そらっ」
しかし魚人のピックは空しく空気を付くばかりだった。
「私はあなたの次の動きがわかるのよ、さあ聖水をお返しなさい。さもないと……」
魚人は両手から十本の指を一斉に伸ばした。里香の束ねた髪が解けた。
「さもないとどうするんだね、すばしっこいお嬢ちゃん」
里香はテントウを胸から外し、その手を高々と上げた。
「ナノ・マンジュリカーナ!」
青いコマンドスーツの巫女がそこに現れた。
「おまえ、その姿は……」
「レムリアの巫女、マンジュリカーナ。お前達の、思い通りにはさせない」
里香は黄色のスティックを背丈ほどに伸ばし、後ろ手に構えた。一度体勢を低くすると、真上に飛び上がった。
「えいっ」
一撃が魚人の頭を捕らえ、その頭を魚人の身体にめり込ませた。
「ぐえっ、おのれっ」
魚人は身体の鱗を一斉に飛ばせた、正面でスティックを回転させ、里香はそれをたたき落とす。落ちた鱗は次々と燃え上がった。煙に視界を阻まれた里香は魚人の次の攻撃が読めなかった。
「フフフッ、わしはチョウチンアンコウ。深海の底で生活している、真っ暗闇でもお前の場所はよくわかる、そらっ」
「うっ」
とうとう、里香の右足をピックが突き抜けた。囲まれた魚人を倒したラナは里香が包まれた煙幕の中に飛び込んだ。咳き込む里香はマナの回復を待たなければ動けそうもなかった。魚人はちぎれた発光器が再び回復した。分身を倒したエリナはもう一度アイアンハンマーをメルトドスの背後から振り下ろした。
「無駄さ、あの二人は黒こげにしてやる」
ハンマーをするりとかわした魚人は、ようやく再生した発光器から、熱閃光を煙幕の中の二人に照射した。
「ぎゃっ」
しかし次の瞬間黒こげになり、炭化して崩れたのはメルトドスの方だった。煙幕の中から魚人に向けて熱閃光が照射されたのだ。巨大な鏡を持つラナが、やがて煙の切れ間から、エリナの前に現れた。
「オーロラの鏡。待っていたわよ、あなたの熱閃光」
ラナはにこりと笑った。




