覚醒
「メレナ、彼女は人魚だったの……」
ラナはメレナの残した黄色の宝玉をマンジュリカーナに手渡した。
「人魚は永遠に死にません、エスメラーダがいる限り、アガルタにマオ様がいらっしゃる限り」
マンジュリカーナはラナからそれを受け取ると、そう不思議な事を言った。
「マンジュリカーナ様はマオ様の事を?」
「よく知っています、あのお方はこの星を作られたのですから。おや? リカが……」
里香の長い髪が短くなった。いや身長が一気に伸びたのだ。
「急がねばなりません、ラナ。私にはあなたの心がわかります。その答えはメレナの言う通りこの先見つかります。リカ、さあこの黄色の宝玉をブローチに納めなさい」
里香に手渡された宝玉が虹色テントウのくぼみに沈み込み、黄色の輝きを放った。
「これであなたは棒術が使いこなせます。さあ、こう唱えなさい、『ナノ・マンジュリカーナ』と……」
しかし、里香は唱えようとしない、彼女は泣いていた。
「リカ、そう予知力なのね、仕方ないのよ。あなたが『覚醒』しなければ、この星を守れないの。同じ次元にマンジュリカーナは同時に存在しない。あなたが『覚醒』したとたん、私の身体は実体を消滅する。それが見えるのね、優しいリカ。でもね『覚醒』したら私だけじゃない、おばあさまとだってシンクロ出来るの、代々のマンジュリカーナはその中にいつもいるのですよ」
彼女の言う通り、予知力で里香はマンジュリカーナになったとたん、母が消滅するのを見たのだった。それでもためらう里香に、母の平手が容赦なく飛んだ。
「なんと、意気地なしのマンジュリカーナ。それでもリカーナの血を受け継ぐ者かっ!」
身体ごと崩れた里香を受け止めたのはラナだった。
「あなたを人間界に連れてきたのは、姉の『トレニア』よりも『マナの力』が強かったからです。きっとその力はこの星の未来を守る事ができる。あなたの命はこのままではほんの十年、私は全てのマナを使ってあなたの命を守る。だからお願い、私にあなたの巫女になった姿を見せて、この母の最後の願いです」
しばらくして、里香は黙って立ち上がり、マンジュリカーナの前に立った。母娘が長い最後の抱擁をしたあと、涙を拭いた里香はブローチを片手で高くかざした。
「ナノ・マンジュリカーナ……」
次第に消滅していく母の目に、青い巫女姿の新しいマンジュリカーナが映った。