桃太郎(異訳)
桃太郎:「……ハァハァ、遂に追い詰めたぞ、憎き民の敵よ。今こそ正義の鉄槌、食らわしてやる! 覚悟しとけよ?」
鬼:「フフフ、青二才が。威勢だけは認めてやろう」
桃太郎:「ほざけ! よし、イヌ、サル、キジ、行くぞ! ……え? みんなどうした!?」
気が付くとそこにキジ達の姿は無かった。その時桃太郎が見たのは、鬼の傍らにひかえる先程までの仲間の姿だった。よくみると、足元には何やら光輝くものが……。
桃太郎:「み、みんなどうした!? 一体なぜだ!?」
イヌ:「も、桃太郎さん、オイラたち腹……減っとるんです」
鬼:「つまりそういうことなのだよ、桃太郎くん。田舎からの長旅ご苦労様。君はここで退場だ」
桃太郎:「か、金と食い物で吊ったのか! ひ、卑怯者!」
鬼:「黙れ!! 貴様が言える口なのかっ!? 腹を空かした弱き者たちにたった1個のきびだんごで恩を売り付け、こき使って英雄にでもなった気分か? さぞ気分が良かっただろう。だが、たった1個のだんごごときでこき使われた彼らの権利はどうなる!? 彼らの人権は!? 労働基準法のクソもけったくれもない。笑わすんじゃねえよ、英雄風情が!」
キジ:「……もはや、貴方は私の主君ではない。この方は私たちの境遇を一目で見抜き、慰めてくださった。あなたとは違う」
こうして、コツコツと年月をかけて蓄えてきた鬼の宝を奪うべく現れた桃太郎から、宝を、愛する主人を守るためにと3匹は立ち上がった! 彼らの新しい人生は今、始まろうとしていた――。
んな、訳あるか。