魔眼の勇者 2
野盗達について一つの疑問があった。
戦ってみて初めてわかったことだが、動きがぎこちないというか、慣れていないというか、どうも野盗稼業を繰り返してきていた人間ならではの狡猾さ、みたいなものが感じられなかったのだ。ただ単にアクセルの剣技がずば抜けていて、策を弄する暇すらなかったと言ってしまえばそれまでなのだが、考え過ぎだろうか、と俺は思案するが、考えていても埒が明かない。
まあ野盗達が目覚めれば話も聞けるだろうと、俺は二人の少女に意識を向ける。
「あなた意外とやるのね。正直驚いたわ。助けてくれてありがと」
ソーニャは先程の大立ち回りを見て、アクセルのことを認めたのか、そっけないながらも礼を述べていた。
「で、でも私を幼女呼ばわりしたことは、まだ許したわけじゃないから」
本当に素直じゃないな。と呆れてしまうが、赤く染まった頬を見ればそれが照れ隠しだということは、容易に察せられた。
「はい。許してもらえるよう頑張ります。それにソニアさんは私とアイル様が絶対に守りますから」
と、爽やかに返すアクセルにこれで気まずい空気も一件落着か。と、安堵を覚えた俺であったが何やらソーニャの様子がおかしい。照れているのとは明らかに様相を異にする顔の赤らみ方だ。
「ア、ア、ア」
「?」
「?」
口を開けては閉じてを繰り返し、アの一音を連呼するソーニャに俺もアクセルも首を傾げてしまう。何か喉にでも詰まったのかと、俺が心配して声をかける前に、まるで烈火の如くソーニャが言葉を発した。
「アイル様ってなに!? あんた達いつの間にそんな仲良くなったのよ!」
アクセルが俺を名前で呼んでいたことが気になったらしい。ソーニャの追及が始まってしまう。
「アイル様が、アイルと呼ぶよう仰ったので、お言葉に甘える形になったというか……」
ワタワタと慌てながらしどろもどろに答えるアクセル。やれやれ助け舟を出すか。
「俺がアクセルに読んで欲しいって言ったんだよ。これから長い付き合いになる仲間なんだから。友好を深めるのは当然だろう」
勿論全てを信じるわけにいかない。彼女は俺の監視者だ。それは彼女が俺の秘密を知っていてもいなくても、結局は変わらないことなのだから。しかし彼女の実力は確かなものであった。あの技量に達するまでには相当な修練が必要だったであろうことは想像に難くない。俺にとって彼女の実力は信頼に足るに十分値するものだったというだけだ。
ソーニャは俺の発した言葉に納得いかない要素があるようだ。しかしそれを飲み込んだのかふてくされつつもアクセルに手を差し伸べる。
「確かに、アクセリナは私達を一生懸命守ってくれた。ちょっと納得いかないこともあるけど今は流すことにするわ。これから改めてよろしくね。アクセル?」
「私も、お二人にもっと信頼していただけるように頑張りますね!よろしくお願いします、ソニアさん!」
握手を交わす二人の少女。それはとても微笑ましくて暖かい光景であった。そんな光景を見ているとどこか自分がいることが場違いな気がしてしまう。ただの感傷に過ぎないことは自覚している。だけどとても眩しい……
「……うっ」
どうやら野盗が目を覚ましたようだ。まだ二人は気付いていない。俺は二人の少女から意識を離して一人事情聴取に向かう。
「お目覚めの気分はどうだ?」
「……っ」
爽やかな笑顔で皮肉ってやったことが、大層お気に召したらしい。いち早く目覚めていたリーダー格の男は、苦虫を噛み潰したような顔をして黙っている。
「その態度はいただけないな。俺達は君達に襲われた。話を聞く権利くらいあると思うんだけどね」
「……何が襲われた、だ。ピンピンしやがって、襲ったの間違いだろ」
男は唾を吐き捨てるようにいう。
「それは確かに。こちらも一方的にしすぎたかもしれないな。ただ聞きたいことがある。君達は素人だろう。荒事を経験してきている動きじゃあなかった。何故こんな盗賊まがいのことをしているんだ」
「…………っ」
俺の指摘にピクリと身体を動かす男。俺は続ける。
「仮に本当に盗賊を稼業としているとしても、日は浅いはずだ」
男は観念したのか、
「魔族だ」
と、一言発したのだ。
「魔族?魔王は五年前倒されたはずだ。それに今の時代、魔族は……」
「まあ、待て」
男は俺の困惑する姿に余裕を持ったのか、自分のペースを掴むようにゆっくりと語りだした。
「俺の話を聞くんだろう兄ちゃん。世の中にはな、裏の顔なんてのはいくらでもあるってこったな。ちょうど1年くらい前だったか、俺達の住む集落に一人、男が現れた。その男はとても憔悴していてな。今にも死んじまいそうだったんだが。集落の奴らは皆お人好しでな、馬鹿な奴らだよ。見知らぬ男を手厚く看病したのさ。それが間違っていることだと知らずにな……」
男は一度話を区切り、目を瞑る。それはこの話の結末を暗示しているかのようで、俺は自然と唇を引き結ぶ。
「三分の一が殺された」
何が?という疑問すら許さないひどくシンプルな文言。その絶望的なまでの死の結果が男の口から発せられた。
男は続ける。
「奴は魔族だった。能力的にもその精神的にもな。結果、村は半壊して魔族に仕えることになった。俺達は奴に命じられるまま、こうして旅人を襲い金品を奪い奴に献上する、元はただの村人ってわけだぁな」
男が語り終えるのを見計らい疑問を投げかけた。
「逃げようとは思わなかったのか?」
「逃げられないのさ。奴は女、子供を人質に取った。言うことを聞かなければ家族が殺される。見知らぬ誰かより家族が大事だ。何よりも大事だ。だから俺達は奴の言いなりなのさ」
家族。
俺はソーニャをみつめた。男はそれが何よりも大事だと語った。嘘なのか本当なのかはわからない。その言葉が俺の心の中にある感傷を引っ掻いたのかもしれない。
またそれとは別に語った内容の真偽がどうあれこの単語が出て来てしまった以上確かめる必要があるのだろう。
魔族。
ジュリアスの言うとおりになってしまったことに、まるで掌の上で踊らされているような気持ち悪さを感じながら、この魔眼の呪縛からは逃れられないのかと、俺は決意する。
「その集落に案内してくれ」
「兄ちゃん正気か? 奴の力は凶悪だ。眼を付けられたらもう戻ってこれないと思ったほうがいい」
「生憎とこちらにも事情ってものがあってね。魔族が関わっているなら俺達も関わらざるをえないのさ」
「兄ちゃん達はいったい何者なんだ?」
男は怪訝そうに俺を見る。俺は苦笑を作りながら答える。
「通りすがりの旅人だよ」
そう、そこになにが待ち受けているかなんて今の俺達には知る由もなかったんだ。




