表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

魔眼の勇者 1

 一言に魔族残党を討滅せよと言われても正直当てがないというのが俺の見解であった。

 この五年間、ろくに集落の外に出ていなかったのだ。情報が圧倒的に足りない。しかも魔族が本当に悪行を重ねているのか。今の世界の在り方では無理がある気がしてならない。それというのも魔族は総数自体が人間の様にたくさんいるわけではなく、魔王というカリスマがいない今、人間に対抗する組織を立て直すことは可能なのか?という疑問が湧いたからだ。確かに魔族だって一枚岩ではないだろうし、生き残った幹部が力を蓄えてる場合もあるだろうが……

 一人で思考の海に埋没していく。そうでもしなくてはやっていけない。現実逃避である。

 なぜなら……、後ろの二人の空気が最高に険悪だからだ……。


「…………」

「…………」


 どちらかといえばソーニャがアクセリナの事を無視しているといった体になるのか。それは三人で旅することが決まった辺りからだろうか。俺はそのときのことを思い出した。


 -----・-----・-----


「魔族残党を討伐するための旅ですって!?」

「はい、陛下が仰っしゃいました。私とノーディラス卿の二人で、です」


 謁見の間から王宮の広間に戻ったとき、何故か二人という単語を強調した三大騎士様が笑顔でソーニャに国王の勅命を説明しているところだった。そこに俺は割り込むように口を出す。


「確かに三大騎士様が一人同行するという話だった。しかし二人だけとは指定されていないはずだが」


 一旦得意げにその女性らしい肉付きの胸を張るアクセリナだったが、続く俺の補足に、うぐっと言葉を濁す。なぜ二人に拘るのか。俺を監視するなら二人だけの方が色々と都合がいいだろう。やはりこいつは俺の秘密を知っている?金髪の少女に疑惑の眼を向ける。


「ちょっと待って。アイルは絶対に旅に出なくちゃいけないってことなの?」

「ああ。国王陛下からの勅命であっては断ることはできないだろうな」


 嘘だ。ホントはアイツの頼みなんて聞きたくない。しかし手は用意してあるという奴の言葉。もしかしたらという不安が大きく安全が確かめられない以上、今はいうことを聞いていたほうがいいだろう。


「だからソーニャにも旅に付いて来てほしい。どのくらいかかるかはわからない……ダメか?」


 俯いてしまっていたソーニャに優しく質問する。そう、ソーニャの安全が確認出来ない以上俺の眼から離れることは極力避けたい。本音を言えば危険と隣り合わせな旅なんかに同行などさせたくないし、この子には集落で静かに過ごしていて欲しいのだが、こうなってしまった以上仕方あるまい。それに魔王がいない今の世界にそれほどの危険はないのではないか。という考えもあった。


「私、付いていってもいいの?」


 重大なことだとわかっているのだろう。いつものなりを潜め恐る恐る尋ねるソーニャに俺は優しく頷いた。


「な、何を言っているのですかノーディラス卿! 今回の旅は魔族の討伐ですよ! この様な幼女を危険な旅に同行させるなどできません!」


 あ・・・マズイ。

 幼女や幼いといった言葉をソーニャに向けるのは禁忌なのだ。この後に待ち受ける展開に思わずゴクリ、と生唾を飲み込む。アクセリナに対する疑問も吹っ飛んでいた。


「あ、アンタ……今なんて言った? もしかして……幼女って言ったりしちゃったかしら……?」


 ……知らず冷や汗が背中を滴り落ち、思わず拳を握りしめてしまう。ソーニャの方を盗み見るとピクピクと頬を引きつらせ笑顔を作ることに失敗している。今ならまだ間に合うか!? 助けに入ろうとする俺に気付かずアクセリナがにこやかに口を開く。


「はい。我が騎士道に誓って、年端もいかぬ幼女を危険に晒すなど許しません!」


 自分の世界に浸り、自信満々に堂々とのたまうアクセリナだったが、生憎それは逆効果だ。先程まで怒りで顔を真っ赤にしていたソーニャの表情は抜け落ち、まるで幽鬼のごとく感情の起伏が見えない。こうなってしまえばもうフォローのしようがない。俺は自分の顔に手を当て諦めた。


「この……」

「ん?」


 ボソっとソーニャの声。ようやく様子がおかしいことに気が付いたのか銀髪幼女に注意を向ける金髪少女。だがもう遅い。


「淫乱変態痴女がぁぁぁぁぁぁああ!」

「んなっ!?」

「余分な乳肉を強調するような服なんか着ちゃって。何? 誘ってるわけ? こんな真昼間から。痴女なの? 痴女なんでしょ? その余りある肉を殿方に見せつけたくてしょうがないんでしょ!?」

「ちょっと待てください。この服はオルレイン家の由緒正しき……」

「うるさーーーーーーーーーい!」


 ソーニャの罵倒に異議を出そうとするアクセリナであったがそんなことではソーニャの怒りは止まらない。


「ちょっと自分が女らしいからってなによ! 自慢してるわけ!? あんたは三大騎士様なんでしょう? だったら騎士なら騎士らしく無骨な甲冑でも着てなさいよ。この淫乱女!!」


 ソーニャは涙の雫を溜めながら続ける。


「私はこれでも十六歳なのよ! もう立派なレディよ! 自分のことは自分で決められるわ! それにアイルが付いて来てほしいって言ったのよ! あんたにとやかく言われる筋合いはないわ!!」


 これでもと言っているあたり自分の体が同年代の他の少女と比べて成長に乏しいことを自覚しているのだろう。何か哀愁を漂わせた。肩で息をするソーニャと対峙する唖然として佇むアクセリナ。どう収集をつけようか悩みながら俺は苦笑いするのであった。それしかできなかった……。


 -----・-----・-----


 あの後なんとか場を諌めて、三人で旅をすることに了承してくれた二人だったが仲直りはやはりというか当然というかできなかった。アクセリナも話しかけようとするのだが、ソーニャは完全にムスっとした顔で黙ってしまい、後は気まずい沈黙が流れているというわけだ。ちなみに実はあの場に侍女もいたのだがまったく助けようとしてくれず部屋の隅で傍観者に徹するだけであった。心底恨めしい……。

 王都から出発し街道脇に設けられた休憩所で休んでいる俺達であったが、俺が現実逃避もそこそこに、この空気を何とかしようと立ち上がろうとしたときのことである。


「囲まれている……」


 この空気の気まずさと現実逃避が災いしたのか、気付いたときにはすでに遅く身なりがボロボロの数人の男達に囲まれていた。


「女二人連れて王都の観光かい兄ちゃん。いい御身分だあ」


 男達の中でリーダーと思われる一人が下卑た笑いと共に話しかけてくる。それに同調するかのように他の男達も笑い声をあげる。後ろを見るとソーニャが俺の服にちょこん、と握り恐怖に耐えており、アクセリナは鋭い視線で周囲を見渡していた。俺も周りをぐるりと見渡す。


 三、四……十人か、少し多いな。魔術を使わずギリギリというところか。魔術を使うか?旅に出ることになってから覚悟はしていたが、こんなに早くに使うことになるとは。


「うげえええええ!!」


 俺が逡巡した刹那のことであった。リーダーと思しき男が白目を向いて倒れていく。その脇には金に煌めく風になびく髪と、流星の如き剣戟の軌跡。アクセリナが一瞬で詰め寄り男を昏倒させたのだ。あまりにも突然のことに驚き硬直する空気。アクセリナは鋭い目線が俺に飛ばし頷く。


(後ろは頼みました)


 俺は彼女の技量に衝撃を受けながらも期待に応えるべく、後ろを囲む相手を見据える。


「ソーニャ。すぐに終わるよ」


 わずかに笑顔をソーニャに向け、俺は地を蹴った。



 結果からいうと野盗退治は滞りなく済んだ。後ろを気にしなくていいという戦いは非常に心に余裕を持たせ不思議といつもより動きのキレが良い気がする。魔術を使わずに敵を一人一人上手く分断して戦う。多対一の秘訣は無理に全員と戦おうとしないことだ。魔術が使えればただの人間の場合、話が変わってくるのだが。

 それにしてもアクセリナの剣の腕は三大騎士の名に恥じないものであった。こちらが三人の野盗を倒し、手助けに向かおうと彼女の方を見たとき残るは後一人であった。彼女の動きはまるで風に舞う妖精のように軽やかであり、それでいて剣の軌跡はすべてを薙ぎ払う重さを持っていた。

 あの動きは魔術によるものだ。風の魔術を使役し自身に影響させているのだろう。魔術を自分にかけるというのは危険な行為だ。一歩間違えればその刃は己に向かうことになる。余程魔術制御に自信があるのだろうことが見て取れる。

 またそれだけではない。剣の腕が並外れているのは魔術をかけつつ繰り出される鋭い攻撃を眼にすれば容易に理解できた。

 俺は彼女を見誤っていたのかもしれない。決して見くびっているつもりはなかったが、最初に彼女に頼ろうとしなかったことに自身に驕りがあったことを後悔した。

 アクセリナが最後の一人を倒し終わったのとソーニャの無事を確認して俺は彼女に近づき笑顔で腕を差し出す。


「ありがとう。助かったよ」

「へ? ……いえいえ! 私は自分の使命を全うしたのであって、大したことはしてなくて、ましてやアイル様に礼を言われる程のことなどしてましぇ……してません!!」


 噛んだ……、先程までの凛とした雰囲気はどこへやら、何故か突然慌てだすアクセリナは顔を真っ赤に染めてまくしたてる。


「ノ、ノーディラス卿のお役に立てたなら、その……私としても本望というか……ゴニョゴニョ」


 次第に小声になり俯いてしまう。


「アイル」

「ほぇ?」


 間の抜けた声で顔を上げるアクセリナに苦笑が漏れるが構わず続ける。


「さっきそう呼んでただろう。アイルで構わない。これから旅を共にするんだ。改めてよろしく頼むよアクセル?」


 自分が無意識に愛称を呼んでいたことに気付いたのかアクセリナ今までで一番顔を羞恥による赤で染めて俺の差し出した手を先刻、剣を握っていたとは程の華奢な手で軽く握った。


「よ、よろしく……お願い……しましゅ」


 はにかんだ笑顔を向けるその姿は、敵を圧倒し制圧する三大騎士などではなく年相応の少女そのものであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ