表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

夜明け

夜明け



「すいません。運転手さん。免許証を見せて頂いてもよろしいですか?」

警官が申し訳なさそうに言った。

素直に免許証を見せた。

「奥さん、ぐっすりですね。」

「ええ。」

「どちらに行かれるんですか?」

「実家の方に」

「そうでしたか。」

会話が苦痛だった。平常心を保とうと必死だった。

「なんの検問なんですか?」

「あ、一時間ぐらい前にひき逃げ事故がありまして‥‥。」

助かった。自分のことじゃなかった。


「大丈夫そうなんで、どうぞお通り下さい。お時間とらせてすいません。気をつけて」

拍子抜けするぐらいあっけなく通過出来た。

軽く会釈してまた目的地に向け車を走らせた。




八時間前

リビングには血が流れていた。

義父と咲はすでに動かなくなっていた。

悟は放心状態の美由紀に語った。


「お前には悪いと思っているよ。あの手首は佳奈の‥義姉さんのなんだ。」




ーー佳奈と美由紀は悟と部署は違うが、同じ会社に勤めていた。

社内では、美人姉妹で有名だった。

悟と美由紀が結婚し、美由紀は退社した。

悟は美由紀と婚約した頃から佳奈と面識が出来た。

佳奈とは、美由紀の事や義父と再婚してやってきた咲との事などお互いに相談に乗ったりと親しい間柄になって行った。

しばらくして、悟と佳奈は会社で毎晩の様に関係を持つ様になった。

毎晩、遅い帰宅になり、それでも寝ずに待ってくれている美由紀には罪悪感を感じていたが、佳奈との関係は切れなかった。


佳奈と関係を持つ様になってから二年近く経った。

ついおとといの出来事だった。

いつもの様に、8階のエレベーターホールで待ち合わせて誰もいない会議室に行った。

会議室の扉を閉めた時、佳奈から言われた。


「赤ちゃん出来ちゃった。悟の赤ちゃん。」

「まじか。」

悟はずっとこれを恐れていた。が、そんなに動じなかった。

「産みたい。私、悟の子を産みたい。」

きっとおろすだろう。そう思っていた悟は焦った。

でも、佳奈も馬鹿じゃないから話せばわかると思っていた。

妹の旦那と不倫して、子供が出来て、その子を産むなんて冷静に考えればきっと、わかってくれると思った。

悟は、佳奈を説得する為に会社から程近い、佳奈の部屋に行って話し合うことにした。


部屋に着いてからシャワーを借りた。

佳奈のベッドに腰掛けてしばらく二人で談笑していた。

いつ言うか悟はタイミングを見計らっていた。


佳奈の方から話を切り出してきた。

佳奈もおろす前提でいたらしい。

「この子が可哀想なの。」

「俺は、認知出来ないし、逆にその子が産まれて来て父親がいない方が可哀想だよ。」

「父親は悟でしょ。一緒に育てるの。」

「は?無理に決まってるだろう。」

「一緒に遠くに行こう。どんな暮らしでもいいから、二人で遠くで暮らそう?私、美由紀より頑張るから」


バシッ

乾いた音がした。

悟は佳奈の顔をビンタした。

佳奈は、頬を抑えて続けた。

「もしも悟がダメと言っても私は産むの。そして皆に言うわ。もちろん美由紀にも。」

「そんなことしたら」

「あなたは終わり。私も終わり。」

悟は、とっさに近くにあったガラスの灰皿で殴った。

佳奈は喋らなくなった。

殴った頭から血が流流りゅうりゅうと流れていた。

悟は意外と冷静だった。

俺は悪くない。

この女が、聞き分けが悪いからいけないんだ。そう思っていた。


そして悟はふと思った。

こんなにあっさり死んでしまうのは可哀想だと思った。


悟はおもむろに台所にあった包丁で佳奈の体を何回も刺した。

どうせ殺されてしまうなら派手に殺された方が佳奈の為になる。そう感じていた。


何回刺しただろうか。

相当な返り血を浴びた。

悟は、シャワーを浴びて何か着れる物はないかとクローゼットを物色した。

奥の方から、きっと昔の男の物であろうスーツが出てきた。

少し大きかったが、それを着る事にした。

そして、部屋の鍵をキーケースから一つ取り鍵を閉めて部屋を出た。


駅に向かう途中で、ふと思った。

何か形見じゃないけど、佳奈が記憶から薄れるのは偲びないと思い、部屋に戻った。


悟は佳奈の遺体を見て、中指に、はめられていた指輪を形見としようとした。

血がぬるぬるして取れなかったので手首ごと持って帰ることにした。


包丁で切り落とすのは、凄く難しかったがなんとか欲しい部位を手に入れた。

それをコンビニの袋に入れて、鞄に入れて持ち帰った。


帰り道に思い出した。

明日は、結婚記念日だ。

美由紀とやり直せる気がして坂道をスキップであがって帰った。

何回か、断ち切ろうとしていた関係も解消され邪魔者がいなくなった。

全部、佳奈が悪い。全部、佳奈が悪い。

ルンルンだった。気づいたら鼻歌を歌っていた。


そして、美由紀にバレない様に真っ先に車に行きハッチバックに手首かなを隠した。


美由紀は、いつものように迎えてくれたーー



ことの顛末を美由紀に話した。

美由紀は、泣きながら聞いていた。

悟は言った。

「俺は美由紀とやり直したい。」

美由紀は首を横に振った。

「もう、無理だよ。」


悟は、美由紀の上に馬乗りなり首を両手で締めた。

「なぁ、やり直せるよな?な?」

美由紀は必死にもがいているが、悟の力に勝てない。

美由紀は抵抗を辞めて、聞こえるか聞こえないかぐらいのか細い声で言った。

「私も、妊娠してるの。今、五ヶ‥‥月」

悟は、言葉に驚き手を緩めた。

だが、もう美由紀は息絶えていた。


妊娠?

佳奈がいたから美由紀とはここ一年ぐらいご無沙汰だった。

間違いなく自分の子ではない。

父親は誰だ?

美由紀はもう答えなかった。


やり直すどころか、既に手遅れになっていたんだ。そう考えるとなんだか笑えてきた。


悟は、立ち上がって車に行き美由紀を助手席に乗せた。後部座席にはスコップを乗せた。


そして、リビングに戻りソファに腰掛け煙草に火を付けた。

義父の亡骸をしばらく見ていた。

色々な思い出で、走馬灯の様に巡る。


煙草を吸い終わると立ち上がり、灯油をまいた。

咲には息がまだあった。

呻き声をだして必死に悟の足に手を巻き付けて来た。

悟は冷静に蹴りを入れ咲に灯油を掛けた。


そして、煙草に火を付け一服したのち煙草を咲に投げ捨てた。

たちまち火が上がり、咲は断末魔の様な悲鳴をあげて熱がっていた。


悟は、火がリビングに広がっていくのをみて家を出た。


車に乗りエンジンを掛けて、まるで寝ているような美由紀に話しかけた。


「さぁ、ドライブに行こう。」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ