午前1時
午前1時
煙草の煙をふぅっと空に吐いた。
六時間前
久し振りに仕事を早く切り上げて帰っていた。いつもは10時過ぎまで会社にいる。
帰宅ラッシュの満員電車も、ごみごみした駅の改札も新鮮に思えた。
今日で結婚三年目になる。
記念日ぐらいは、早く帰ってあげたくて上司に頼み込んであがらしてもらった。
住宅街の坂道をあがった外れに我が家がある。去年、無理して買ったマイホームだ。
二十七歳でここまで出来れば自分でもいい方だと思っている。
今日もきっと玄関を開けると「悟、おかえり。」と言って妻の美由紀が迎えてくれるだろう。そんな事を考えながら坂道を登っていた。多分、無意識に顔も緩んでいたに違いない。
坂道を登りきった時、我が家が目に入るのだがいつも様子が違った。
一台の見覚えのある車が家の前に止まっていた。
お義父さんの車だ。
「何の用だろう?」
思わず、独り言を言っていた。
三年目だから酒でも飲もうか。そんなところだろうか。いや、車だしな。
なんとなく嫌な予感がした。
ガチャ
「ただいまー。」
いつもならすぐに飛んでくる妻の姿はなかった。
プルルルル♪
携帯が鳴った。
突然の着信音に驚いて火の付いた煙草を落としてしまった。
「アチチ」
電話は出ずに車に戻った。
時計をみたら一時を回っていた。
そろそろ高速に乗らないと朝には間に合わないかもしれない。
相変わらず、助手席で妻は寝ていた。
車はコンビニを出発した。