空のかけら
生涯愛した、可愛い女の子の話でもしようか。
僕には大切な友達がいた。
「空」って名前の、女の子。
天使みたいな純真な子で、いつも僕に色んなことを教えてくれた。
「心が硬いから折れるんだよ。柔らかかったら受け流して戻ってこれるのに」
泣いてる僕に、彼女はいつだって優しい言葉をかけてくれる。
二つ年上の彼女の言葉は少し難しい所もあるけど、暖かみのある声が心地良かった。
「私ね、青空が好き。いつも傍に居て、見守っていてくれるから」
彼女はその名前に似合うようなことを、よく言った。
けれど、別れは突然やってきた。
「私はね、お空の世界に帰らなければならないの。君はもう、私がいなくても大丈夫でしょう?」
駄目だよ、僕は。
僕には、まだ君が必要だ。
……いや、必要ではないのかもしれない。
頭では何となく分かっていたが、心が、「まだ傍に居たい」と叫んでいた。
「大丈夫だよ、空は世界中、何処にでもあるもの。何処へ行っても、繋がって居られるよ」
そんな彼女が、僕にプレゼントをくれた。
ターコイズブルーの石が付いた、ネックレス。
まるで空の一部を切り取って作ったかのような、澄んだ水色だった。
空色を、一片だけ掴んだような。
「空って綺麗だよね。色んな色があって。でもね、私は一番、青空が好きなの。これを見て、たまには私を思い出して……」
最後の言葉が、脳裏に張り付いて離れない。
「何十年かしたら、迎えに来てね」
……数十年後、床の間で僕は思い知る。
君の言いたかった言葉。
残したかった、想い。
大丈夫、僕は一人でちゃんと生きたよ。
胸を張って、全うな人生を。
これで良いんだよね?
僕はやっと、君の元へと行くんだ……
眠りについた彼の手には、空色のかけらが付いた、ネックレス。
たまには優しい話も、悪くなかったろ?