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図書館の恋  作者: S.AKI
番外編
6/7

Happy Birthday (前)

「もう! いきなりすぎるよ!!」

 やり場のない怒りが湧いてきたので、とりあえず何の罪もない親友にぶつけてみた。

「まぁ、そうだよね……いきなり彼氏に誕生日が明後日とか言われたら、怒るよね……」

 私の理不尽な怒りに返ってきたのは苦笑。

「だよね! だよね! もう、ケンくんったら肝心なことはいつも言わないんだよ!! わざと隠してるっていうよりかは、単純に忘れてるだけのことが多いみたいだけど……」

「私としては、今の今まで、アキちゃんがケンくんの誕生日を知らなかったことが意外かな……」

 さくらが呆れ半分でそんなことを言う。まったくもって痛いところなので、こちらとしては非常に苦いのだが、素直に認めるのもなんだか悔しいので、言い訳をしてみる。

「わ、忘れてたんだもん。仕方ないじゃない……普段付き合ってる時は、誕生日なんてあんまり気にしないし、近くなったら言ってくれるのかなぁ、なんて思ってたから……」

「まぁ確かにね。私も彼の……ケイの誕生日知ったのは、ふとした会話の流れで知っただけで、別にわざわざ聞いたわけでもなかったしね……」

「でしょ! でしょ! そうでしょ!」

 さくらが同意してくれたので、ついつい調子に乗ったところで。

「でも、知らなかったんだよね。アキちゃん」

「う……」

 ここで落とさなくてもいいじゃないか。君はちょっと真面目すぎるよ、さくら……

 まぁもっとも、これがもう一人の親友であるよっちゃんなんかだったりすると、絶対最初っからどん底に叩き落してくれるわけだから、やっぱりさくらはとっても良い子なんだけれども……

「でも、どうするの? ここで私に愚痴ってても、何にもなんないよ?」

 まったくもっての正論で心配してくれるさくらの気遣いが有り難いが、まさしくその通りすぎるので、またまた私の頭は痛くなるんだ。

「うー、仕方ないから、まだ2日あると思って何か考えるしかないわね。出来れば手作りとかしたかったんだけどなぁ」

 ケンくんの誕生日に会う約束はもう取り付けた。誕生日の件を聞いた時には急すぎると怒ろうと思ったけど、あの無邪気な笑顔を見たら怒れなくなってしまった。その代わりに、その日は絶対空けておくように、と強く言ったんだけども。

 ただ、その場に持って行くプレゼントがまだ何もない。そこがこれからなんとかしなければいけないところだ。

 まず電話でよっちゃんに意見を求めたら「裸になって赤いリボンで自分の体包んで『どうぞ♪』とかやればー」という、ひたすらに投げやりな意見が返ってきた。その後に「けっ、この彼氏持ちがぁ!」と、すさまじいうらめし声が飛んできたので、早々に切り上げてさくらに相談しにきたわけだが……

「まだ2日あるよ! 何か考えてみようよ。明日は土曜日だし、私も手伝うよ。ほんとはデートの予定だったけど、アキちゃんのため、って言えばケイもわかってくれるから大丈夫!」

「あぁ、さくら……君が天使に見えるよ。私の嫁にならないか?」

「え、えと……さ、三食昼寝付きなら……」

「……世の中は無情だね」

 そんな軽口を叩きながらも、私はさくらの厚意に甘えることにして、私の彼氏の誕生日を知った記念すべきその日は、そのままこのかわいい親友を我が家へとお持ち帰りしたのだった。



 私、津田明子は普通の大学4回生だ。趣味はというと、読書の一言に尽きる。それが私を形作っているものであり、津田明子の80%は本で出来ている、と言われても反論は出来ないし、反論する気もない。

 そんな私の彼氏は……こんな私を好きになってくれた人は、2年後輩の深森健一くんと言って、通称ケンくんだ。後輩といっても、一切のサークル活動を行っていなかった私にとっては、ただ学年が自分より低い、という意味しか持たない。

 一見接点がなさそうな私たちが知り合ったのは大学の図書館でのこと。ケンくんと私の唯一にして最大の共通点は、本が好きということだ。お互い病気と言われても仕方ないレベルの本好きで、いつも遅くまで図書館で読書に夢中になっていたことがきっかけとなって知り合い、仲良くなり、恋に落ちた。

 まだ付き合いだしてから間もないが、自分で言うのもなんだけどかなりラブラブだと思っている。趣味が同じなだけに話は弾むし、これまた趣味が同じなだけに、趣味以外の知らないことに対する興味も同じように惹かれることが多い。二人して新しいことを発見するのが本当に楽しい毎日だ。

 まわりの人(主に親友のよっちゃんだけど)に言わせてみれば「あんたらの会話は日本語じゃない」と言われるのだが、それはこの際置いておこう。まぁ、そんな異次元な会話を普段からしているせいで、今回のような事態を引き起こしてしまったわけだけどね……

 私は彼を愛しているからこそ、付き合いだしてはじめての誕生日はしっかり祝ってあげたい。彼が驚くくらいのサプライズをしてあげたいな、と常々考えていた。

 誕生日というのは何をするにも良い口実だ。いつもと違う特別感があるし、その特別感に乗じて、いつも以上に大胆になれる気がする。何をすればケンくんが喜ぶか、何をすればケンくんが驚いてくれるか、何をすればケンくんを幸せに出来るか……

 そんなことをずっとずっと考えていたのに、肝心のエックスデーを知ったのが誕生日の二日前だったなんて話、いくら読書好きの私でも笑い話にさえならない。

 とにかく、残り2日……といっても、48時間もない。実質は土曜日の1日だけ。

 私の戦いが始まったのだ。

 

 

「アキちゃん、お菓子とかは作れるの?」

 金曜日の夜。イン、我が家。

 やっぱりプレゼントは手作りがいいなぁ、という私の意見を元に、お持ち帰りした親友……高倉さくらが、まずは作戦会議と言わんばかりにそんなことを聞いてきた。

「んにゃ、全然。最低限の自炊以外出来ないよ……」

「じゃぁ、編み物は?」

「それも出来ないことはないけど、早くもなければ上手くもないねぇ……」

「じゃぁ、掃除・洗濯とか……」

「普通程度には……って、それをどうやってプレゼントにするというのかね、さくらくん……」

「踊りとか一発芸とか! 能とか歌舞伎とか!?」

「……昔のさくらは、そんな変なこと言う子じゃなかったのになぁ。やっぱり、あのはじけた彼氏に影響されちゃったのかなぁ……」

「……とりあえず今のは冗談だけど、否定できないのは辛いなぁ、あははは……」

「いやまぁ、そんな遠い目しなくていいよ、さくら……」

「しかし」

 ふっと視線を私に戻して言う。

「……思った以上に何も出来ないね、アキちゃん」

「う……」

 痛いところを突かれる。確かに、本ばっかり読んで生きてきた私は身の回りにあまり頓着していなかったせいか、生活能力は高くない。趣味のレベルも、本関連で埋まってしまっているため、それ以外の能力は持っていない。

「趣味が偏ってるのも考え物なのかなぁ……」

「ん~、それはまた別だけどねぇ。アキちゃんの趣味は素直にすごいと思うし」

「あぁん、そんなこと言われるとこのまま抜け出せないよ~」

「どの道ケンくんも同類だから、抜け出せないような気もするけどね~」

 そんな感じで良い案も出ないまま、気付いたらだらだらと雑談をしていたりする。

 時計の針はすでに24時をまわっている。もう土曜日だ。

「んー、とりあえず明日、手作りケーキでも作ってみよっか。イチから教えるよ」

「うん~、お願い。ありがとうさくら。やっぱりお嫁に来ないかい?」

「……三食昼寝にプラスして、家計を好きに預からせてくれるなら……」

「なにそれこわい」

「いや、そんな真面目に返答されても……」

 寝る前のくだらない会話はお泊まり時の必須事項。

 いつしか眠りに落ちるまで、私とさくらはそんなお話を楽しみながら、来るべきケーキ作りに想いを馳せていたのだった。

 

 

 ケーキ作りは思ったよりも順調だった。

 確かに作り方などはさっぱりわからない私だけど、料理をしないわけではない。包丁の扱いや、その他お菓子作りの用具の知識程度なら持ち合わせている。

 それに加えて、さくらの的確なアドバイス。私と違って普段からよくお菓子作りをしている彼女にとっては当たり前のようなことだろうに、私が苦労する点を予測して、あるいはすぐに見抜いて手助けをしてくれる。一見物静かなように見えて、本当によく出来た親友だ。

「あとはクリームを塗って、好きにデコレーションしたら終わりだよ~。簡単でしょ?」

「うん、思ったよりも。これならちょっと練習すれば私一人で出来るようになりそうだなぁ」

「お菓子作りなんてこんなもんだよ。分量とかはしっかり計らないといけないけど、慣れてしまえば意外と簡単なんだ。もちろん、細かく味の追求とかデコレーションのデザインの考察とかし始めたら、キリが無くなってくるけどね……」

「なるほど。私も履歴書の趣味欄に『お菓子作り』ってかけるように頑張ろうかな……」

「あはは、女の子らしさで言うと、確かに『読書』よりもいいかもね。私は本当の意味で『読書』って書けるほうが格好良くて羨ましいけど」

「隣の芝生は青いってやつだね、ホント」

 弾む会話を楽しみながら白いケーキを飾っていく。

『Happy Birthday』とホワイトチョコで描かれた板チョコを乗せる。ホイップクリームを絞る。イチゴをハート型になるように乗せる。白いシュガーパウダーをぱらぱらと振り撒く。

 最後に『dear KEN.』とチョコレートソースで描いて完成だ!

「出来た!」

 あっという間に、小さなホールサイズのケーキが出来上がった。

「いい感じだね!」

「うん! ほんと、ありがとね、さくら!」

「あはは、アキちゃんのためだもの! これくらい!」

「もう、うれしいなぁ」

 思わずさくらを軽く抱きしめる。

 うにゃーっと猫みたいな声をあげて恥ずかしそうに照れるさくらがまた可愛い。

 これを明日もっていけば、ケンくん喜んでくれるかな……

 ワクワクする。ドキドキする。喜ぶ顔が浮かぶ。嬉しい。

「じゃ、ケースに入れて冷蔵庫に入れて後は待つだけか」

 照れる年下の彼氏の顔を思い浮かべつつも、逸る気持ちを抑えて最後まで気を抜かない。

「そだね。お疲れ様、アキちゃん」

「うん、お疲れ様」

 そう答えて、軽くハイタッチ。

(また助けてもらっちゃったなぁ)

 この親友には本当に感謝しなきゃならないね。

「ありがとね、さくら」

「ん」

 当たり前だよ、と返ってきそうなほど簡潔な返答。それだけで伝わるのだから、私たちの仲も相当なもんだと思う。

「じゃ、休憩しよっか。お茶くらいおいしいの入れるよ。適当に座って待ってて」

「うん、ありがと~」

 出来立てのケーキを冷蔵庫に格納する。扉を閉める前にもう一度じっくり眺める。

 手伝ってもらったとは言え、この私が作ったケーキ。

 それがなんだかとてもむず痒く、だけど本当に嬉しくて自然と笑みがこぼれた。

「さて、お茶くらいしっかりおいしいの入れて、出来の良い親友様に満足してもらわないとね!」

 勢いよく、だけど丁寧に冷蔵庫の扉を閉めて、お湯を沸かすために台所へと移動。

 明日のことを思いながら、やかんに火をかける。

「楽しみだなぁ。早く明日にならないかなぁ」

 気分がすっかり舞い上がっていたせいだろう。

 買い置きのティーバッグがすでに尽きていたことを思い出したのは、お湯がすっかりぐつぐつと煮え立った後だったのだ。

 

 

 今日は楽しかった。生まれて初めてまともなケーキ作りなんかをした。ケーキ作り以外にも昨日の夜から大好きな親友といっぱいお話をした。

 半分くらいお互いののろけ話だったような気もする。普段はもう一人の親友のよっちゃんも含め三人でいることが多いため、一人彼氏無しのよっちゃんの前では出来ない話だ。

 あの後、おいしいお茶を入れるのを諦めた私はコーヒーであっさり妥協した。インスタントの味気ないコーヒー。私の尊敬する作家さんが働くお店の主が出す特別なコーヒーとは比べ物にならないほど粗末なものだけど、何もないよりかはマシだ。

「アキちゃんって、やっぱりこういうところが抜けてて、それが可愛いんだよね」

 さくらにそんなことを言われてしまった。私たちの中で「かわいい」はさくらの特権だったはずなのに、最近のさくらは何かにつけて私を「かわいい」を評してくる。嬉しくないわけではないが、本当のかわいさを持つ彼女に言われるのもなんだか変な気持ちである。

 渋くて普通のコーヒーを飲みながら他愛の無い雑談を楽しんだ後、夕方頃にさくらは私の家を出ていった。

「夜はケイとご飯食べる約束なんだ」

 そう嬉しそうに語るさくらをつい抱きしめたくなったりしつつ、そう言えば彼氏とのデートをキャンセルしてまで来てくれたんだな、と改めて感謝したりもした。

「ケイだって私とばっかりいるわけじゃないから、大丈夫だよっ」

 その表情に曇ったものが一点もないことが、今のさくらの幸せ度合いをよく表していると思う。

「よ~し、私も負けてられないゾ!」

 親友が去って一人ぼっちになった部屋で、ベッドに寝転がってわざとらしく天井に手を突き上げてみたりする。

 誕生日。

 それは彼が生まれた日。

 何の変わり映えのない一日だという人もいたり、誕生日を迎えるたびに何を祝うのかわからない、と何かの歌の歌詞にあった気もする。

 だけど、それは確かに記念日であり、おめでたい日だと私は思う。

 だって生まれてこなければ出会うこともなかったんだ。この日が無ければ、恋をすることもなかったかもしれない。そんな大事な日なんだ。

 一日ずれるだけでもしかすると全てが変わっていたかもしれない。そう思うと、彼の誕生日というものがとても愛しく感じる。

 来たるべき明日に想いを馳せる。好きです、と抱きしめてくれた瞬間を思い浮かべる。初めて話した日を呼び起こす。ただ彼を見つめていた時間を考える。

 季節にしてみるとそんなに長い時を経たわけではないけれども、そこには抱えきれないほどの出来事と思い出がある。

 読書好きにならなかったら決して接点なんかなかっただろう。

 ひとつも無駄なことなどなく、様々な要素が合わさって、私と彼が今結ばれている。

 その偶然は、もしかしたら運命なんていう言葉で表して良いのかもしれない。

 そう考えると、彼の誕生日を祝うのにケーキひとつでは足りない気がしてきた。

「何かないかなぁ……」

 もっと私たちらしいもの。メインはケーキで良い。でも、そこに私たちらしさを付け加えられるような何か……

「んー」

 ぐるっと体を回してうつ伏せになり、枕を顔をうずめる。

「私たちらしいもの、か……」

 私たちと言えば、やっぱり本。本に関するものだとしたら……

「……よし、探しに行くか!」

 ひとつ思い当たった私はそれを探すため、すっかり暗くなってしまったけど、未だ眠らない街へと出かける準備を開始した。

(ケンくんが喜んでくれるといいな)

 ただそれだけを望んで。

 そんなことを考えるすっかり乙女な自分に、ちょっとだけ苦笑しながら。

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