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図書館の恋  作者: S.AKI
本編
5/7

最終話

 思い立ったら即行動。善は急げだ。

 いや、それが善なのかどうかは置いておくとしても、しかし別に悪いことをするわけではないのだから、きっと善なのだろう。私が幸せになろうとしてるんだ、善と言えば善なんだ。

 そんなことを無意味に考えてしまうのはやっぱり緊張しているからなんだろうな、と思ったりもする。

 さくらに救われた次の日。

 講義後、図書館に向かう私はひとつの決意を秘めていた。

 いつもの場所へと一歩ずつ進んで行く。心がドキドキする。早鐘のような鼓動が聞こえる。

 今日は居てくれると良いな、と思いながら。

 今日は居てくれなければ良いな、と少し臆病な気持ちも抱きながら。

 それでも平静を装って私は歩く。

「いた」

 いつもの特等席。

 独特の穏やかな雰囲気を纏い、静かに読書を楽しむケンくんがそこにはいた。

 ゆっくりと、気持ちを整理するように近づいて行く。

「こんにちは」

 そう声をかけ、私はケンくんの横に立った。

 いつもならそのまま返事も待たずに腰掛けるのだが、今日は座らない。

「あ、アキさん!」

 ケンくんがパッと笑顔を浮かべた後、すぐに非常に申し訳なさそうな顔へと変わる。

「あの、昨日のことなんですけども……すみません!」

 そのまま私の顔を見るなり謝る彼。決まりの悪そうな表情で、少しだけいじめたくもなるけども、そこは我慢。

「昨日はいきなり妹が大学まで来ちゃって……急な相手だったので、ここに寄っている時間が取れなかったんです」

 ……妹いたんだ。初耳。ケンくんに似てるのかな? 案外似てなかったりするのかな?

 などとやけに冷静に聞いている私がいる。

「先週、自分がこのことで怒ったばっかりなのに……本当にすみません」

 ケンくんが礼儀正しく頭を下げる。なんだか少し他人行儀な感じはするけども、これがケンくんの良い所なんだ。

 それよりも私は、ケンくんがちゃんと私のことを考えてくれていたことが嬉しい。

「いいよ。これでお互い様じゃないの!」

 そう言って私は「気にするな」と言う代わりに、ケンくんの背中を軽く叩く。

 そしたらケンくんは心底ほっとした顔をしちゃって……

 その表情に私の鼓動はまたさらに早くなる。

 早く伝えたい。もう私の頭の中も心の中も、ただそれだけに支配されていたんだ。

「でね、ケンくん」

 だから私はすぐに切り出した。

「次の日曜日……明後日だけど、ひまかな?」

 用意してきたセリフをひとつずつ出していく。

 ケンくんはと言うと、その言葉に驚いて目を大きく開いている。

「あ、はい。ひまですけど……」

 とりあえずの返事に、まずはホッとする私。

「じゃあさ」

 変な顔をしてないだろうか。

 必要以上に赤くなっていたりしないだろうか。

 自分の心臓の音がやばいくらいに聞こえてくる。

 ドクンドクン。ドクンドクン。

 そのリズムに乗って、私は次の言葉を紡ぐ。

「12時にS駅前の噴水広場で待ってるよ」

 ケンくんの目を真っ直ぐに見つめた。

 ダメだ。これ以上は抑えられない。きっともう私の顔は真っ赤で、それでいてとても真剣な目をしているんだ。

 自分の顔は自分では見えないけれど、明らかに熱を帯びているのがよくわかる。

「え……?」

 言葉の意味がすぐには頭に伝わっていないんだろう。呆然として、しばし固まっているが、彼の返事を待たずに続けて伝える。

「これはね、“そういう意味”なんだからね? OKなら来て欲しいな!」

 遠回りだけど、確かな告白。私としての精一杯の告白。

 この場で返事をもらうのは怖くて、だから選んだこの選択肢。

 さすがにこれで伝わったはずだ。

 恋愛に疎そうな年下の男の子だけども、これで分かってくれないような鈍い子じゃない。

 それだけは自信を持って言える。

「アキさん……」

 気づけばケンくんの顔も真っ赤だった。

 だけど、それ以上の言葉をうまく口に出せないみたいで……

 だから私は意地悪半分、不安半分。さっさとこの場を後にすることにした。

「それじゃ、待ってるからね! またね!」

 これ以上ここにいると、いろいろ崩れて何を言い出してしまうかわからない。

 だからそう言い残して、私は逃げた。それはもう清々しいほどにダッシュで逃げた。

「あ、待って! アキさん!?」

 ケンくんが慌てて私を呼び止めるけれども、完全に無視する。

 そのまま来た道を早足に真っ直ぐ戻り、入り口ゲートから図書館外へ。

 その日、私は初めて一冊の本も開くことなく、図書館を後にしたのだった。



 家に帰った私は、すぐにベッドに倒れこんだ。

 胸がドキドキして顔が熱い。変な病気にかかったみたいに体がおかしい。

 恋は病気。いろんな本で表現された言葉が、まさか私にも降りかかってくるなんて思いもよらなかった。

 だけど、きっと明後日まで寝付けない夜を過ごすんだろうな……と思っていたのに、意外にあっさり寝付けてしまう私は、睡眠欲に正直というか、神経が実は太いのかな、なんて少しへこんだりもしたんだけども……

 それでも、頭の中ではずっとケンくんのことを考えていた。

 来てくれるだろうか。来てくれてもOKの返事をくれるのだろうか。

 ケンくんはとっても良い子だ。さくらとは違うけども、同じくらい優しくて、同じくらい人を思いやれる、今時珍しいくらいに良い子だ。正直私にはもったいないかもしれない。

 そんな優しい子だから私を傷つけないために来てくれるかもしれない。

 だけども、その後になんて言うかはわからない。

 不安と期待が入り混じってぐるぐると渦巻く。

 ふいに泣きそうになったり、急ににやけてしまったり……

 そんなふうにして、決戦の日までの1日を悶々として過ごした。

 ただ、さくらにだけは伝えておきたかったから電話をした。

 一通り成り行きを話したら「頑張ったね」と褒めてくれた後「自信を持って!」と励ましてくれた。

 うまくいったら、さくらには何かお礼をしないといけないな。

 そんなことを考えながらも、判決の日は何事もなくやってきたのだった。



 駅前の広場はデートの待ち合わせスポットとして定番だ。

 今回の私の趣旨からするとぴったりの場所ではあったのだが、屋根のない噴水まわりは、もし雨だったらどうしようと後から気づいたりもした。

 そんな私の心配はあっさり杞憂に終わり、幸いにもその日はこれ以上ないほどの快晴だった。

 ばっちり寝て、ばっちり目の覚めた自分の図太さに、やはり少しうんざりしながらも、髪の毛を整えうすく化粧をし、服装も私らしい雰囲気とよく褒められる水色のものを選んでみた。

 出かける前に鏡の前に立つと、明らかに気合が入ってるのが見て取れる。こんな自分がいることが、なんだか面白くて少しだけ一人で笑ってしまった。

 時刻は10時。約束の場所へは30分もあればつく。

 だけど、逸る心を止めることの出来ない私は1時間以上でもいくらでも待つつもりで、さっさと家を出て噴水広場へと向かうことにした。



 ガタンゴトン。

 電車に揺られながら私は思う。

 いつから好きだったんだろうか?

 もしかしたら、話す前から好きだったのかもしれない。

 絶対に気が合うと思った。絶対に楽しいだろうなと思った。

 そしてそれは何一つ間違いがなかった。

 私と同じように本が大好きで、私と同じように図書館が大好きで、私と同じように物語に夢中になれる彼。

 本の内容について話し合うのが面白くて、お勧めのものをお互い教え合うのが楽しくて、真剣に読書をしている彼を見つめるのが好きで……

 気がつけばとっても大切な存在になっていた。

 景色は流れて、約束の駅へとやがて到着する。

 時刻は10時半。いくらなんでも早すぎる。

 それでも、休日で賑わう駅内を小走りに駆け抜け、私は早足に噴水広場へと向かい……



 そこに立つ愛しい彼の姿を見て、私の心臓は止まりそうになった。



 え、なんでこんなに早く来てるの?

 どうして? まだ10時半だよ?

 それはどういう意味なの?

 これはどういうことなの?

 頭の中がぐるぐるまわる。でも、体は全力でケンくんの元へと駆け出していた。

 早く。早く。彼の元へ、早く。

 そんな私に気づいたのだろう。

 ケンくんはただ何事もなかったかのように手を振った。

「おはよう、アキさん」

 いつもの控えめな笑顔。だけど、少しだけ拗ねたように口を尖らせている。

 そんな彼に対して、私はもう何も考えられなくなっていて、ただただ疑問をぶつけることしか出来なかった。

「ケンくん……どうして?」

「アキさんのせいですよ」

 そう言う彼は、わざとらしく不機嫌そうな顔を作って……

「アキさんがあんな言い逃げするから……俺のほうが待ち切れなかったじゃないですか」

 少し顔を背けて恥ずかしそうにそんなことを言ってくる。

 ゆっくり。本当にゆっくりだけど、言葉の意味が私の中に染み込んで来て……

「アキさん」

 ケンくんが真剣な瞳で私の瞳を真っ直ぐに見つめて……

 そしていつも通りに、穏やかに微笑んだ。

「好きです。アキさん」

 言い終わるか終わらないかの間際。

 嬉しくて泣いていたかもしれない。満面の笑顔だったかもしれない。どんな顔をしていたのかもわからない。

 きっと彼にもその表情はわからなかったと思う。

 だって、私は思わず彼の抱きついて、胸の中に顔をうずめていたのだから。

「好きですよ……アキさん」

 もう一度、私にだけ聞こえるように囁きながら、しっかりと抱きしめてくれた。

「私も……大好きだよ。ケンくん」

 うずめていた顔を上げて、笑顔いっぱいで答える。

「じゃぁ、俺は超大好きですね」

 ちょっと得意気にそんな答えを返す彼。

「だったら私は」

 そう、この好き以上に心の底から愛おしい気持ちは。

「愛してるよ」

 私の切り返しに、むっ、と面食らったような表情をするケンくん。

 私たちの大好きな物語によく出てくるこの単語は。

 きっとこんな時にぴったりな言葉なんだろうな、と実感したのだった。



 これが私たちのはじまり。

 一通り愛の言葉を囁きあった私たちは、最後に私たちが大好きな作家さんがよく口にする言葉を重ねて、微笑みあった。


『一緒に幸せになろうね』


 晴れ渡った空の下。

 繋いだ手は離さずに……とりあえず本屋さんへと向かう私たちは、すっかりいつも通りの二人だった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

ありきたりな出会いに、そのままの展開だったかと思いますが、少しでもほっこりしてもらえたら嬉しいです。

本編はこれにて完結ですが、おまけとしてこぼれ話があったりします。そちらも近日中にアップできれば、と思っていますので、楽しんでいただけると嬉しいです。

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