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ウィッチクラフト Ain Suph Aur  作者: みえさん。
第九章 転生 Re-incarnation
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2 その行方は


「いない、のか?」

 太一は目を見開く。

 驚いている様子ではあったが、どこか予測していたようにも見て取れた。

「パジャマが脱ぎ捨ててあったから……多分、勝手に出て行ったんだと思うんです。今まで……こんな事は無かったのに」

 彼女の手はかたかたと震えていた。

 大きな手で包み込むように太一は彼女の手を握る。

「大丈夫だ、少し落ち着け」

「ごめんなさい、私がもう少し気を配っていたら……」

「鈴華がいなくなったのは自分の意思だ。あんたが気に病む事じゃない」

「でも……様子がおかしいって……いつもと感じが違うって思っていたのに……それなのに、もっと気を付けてあげられなくて……ごめんなさい」

 最後の方は殆ど泣き声だった。

 担当の子供がいなくなったのなら慌てるのは当然だ。

「鈴華ちゃんに何かあったら……私……」

「大丈夫だよ、まだ何かあった訳じゃない。俺も捜すから。そんなに心配するなって」

 優しく言われ、ようやく彼女はほっとしたように頷いた。

 太一は彼女をソファに座らせると、心配するなと彼女の頭を撫でた。

 明弥はちらりと勇気を見やる。

 彼は頷いて見せる。

「僕らも捜すの手伝うよ」

「助かる。手分けした方がいいな。何かあったら携帯で連絡取り合うとして、木村サン、あんたはここで待ってくれ。鈴華が戻ってくるかもしれない」

「は、はい」

 ふう、と岩崎刑事が溜息を漏らす。

「伊東君」

「はい」

「お休み欲しい?」

 彼女の言葉に伊東は瞬く。

 突然言われて理解が出来なかったのだ。

 だが、すぐに破顔した。

 こういう言い回しに慣れているという素振りだった。

「はい、そうですね。頂きます」

「と言うわけでこの非番刑事も使って頂戴。私は抜けるわけには行かないけれど」

「……随分と友好的だな」

 ふん、と鼻を鳴らす太一に、愛は淡々とした口調で答えた。

「未成年がいなくなったのなら放っておく訳にもいかないでしょう。本来なら私たち警察が捜すべきだけれど、まだいなくなって間もないから無理。何より一課以外の警官に出張られても面倒でしょう?」

「なるほどな」

 納得したように太一が頷く。

 心配半分、都合半分というような言葉だったが、別にそれで腹を立てているという様子もなかった。

 岩崎刑事は少しだけ目を細める。

「立件したいわけではないから」

「ん?」

「何でもないわ。この状況だと久住有信と行動を共にしている可能性が捨てきれないわ」

 うーん、と太一が唸る。

「その一緒にいた女と共謀して鈴華を連れ出した、か……。可能性としては考えられなくはないな」

「いえ、その可能性は低いかと思います」

 伊東はガーゼに貼られたテープを直しながら言う。

「彼と組んでの感想ですが、とても慎重な人間という印象でした。何かを企てていたのなら、俺と話しただけで突然逃げ出すような事はしなかったと思います。偶発的に出会い、連れ去った可能性もありますが、初めから連れ去る目的でここに来ていたとは思えません」

 勇気は考え込むように腕を組む。

「……その女と話が出来ればな」

「どうやら割り出せたみたいよ」

 岩崎刑事は視線で合図を送る。

 得意そうな笑顔を浮かべて若い男が近付いてきた。刑事と言うよりはサラリーマンという風情の男だった。

 植松、と伊東が呼んだ。

「先輩、褒めて下さいね。割り出しましたよ、目撃証言からも間違い無いです」

「報告を」

「ええっと……」

 女刑事に言われ、植松は戸惑ったように明弥達の方を見た。

 部外者に捜査状況を漏らしてはいけないと言うことだろう。

 彼女は頷いて答える。

「責任は私が持ちます。ここでいいわ。報告して頂戴」

「あ、はい。久住有信と一緒にいたのは水守祐里子という女性です。ちょっと有名な占い師ですね。ネットで見たことがあります」

 全員が驚いたような視線で植松を見る。

 視線に驚いた植松が少したじろいだように両手を上げる。

「え……べ、別に勤務中に見ていた訳じゃ無いですよ」

「そんなことはどうでもいい話よ。……水守祐里子というのは本当なの?」

「は、はい。彼女を見たナースから本物だって言う声を聞きました」

 木村が割って入るように答える。

「あの、来ていたのは確かです。ええっと……有名人が来るとみんな騒ぐので」

「なるほど。だから連れの男の顔も記憶していたと?」

 不安そうな表情で彼女は答える。

「だと、思います。私は見ていないから分からないんですけど……その人、知り合いなんですか?」

 うん、と太一が頷く。

 彼女を安心させるためなのか微笑んでいたが、その表情はどこかぎこちない。

「兄貴のな。ついでにこいつの父親。鈴華と一緒だとしても、子供に危害加えるような奴じゃないから安心して良いよ」

 それは太一にしてみても半信半疑のことだろう。

 明弥も少し不安だった。

 父親のことを信じたいのは山々だが、無条件に大丈夫と言いきれるほど父親のことを知っている訳ではない。

 それどころか、今まで何をしてきた人なのか分からない。

 そして、本当に父親なのかも怪しくなった。

 勇気や太一の話で父親は自分のことを心配していたというのは分かる。だが、だからといって他に危害を加えないとは言えない。

 事実、逃げるためとはいえ伊東に怪我を負わせている。

「今、水守祐里子は?」

 伊東が尋ねる。

「行方不明です。検査を受けに来ていたんですが、問診の途中で突然逃げるように出て行ってしまったと聞きました」

「住所割り出せるな?」

「はい」

「調べて。それと伊東君は一緒に行動出来ないから中津君にその旨報告お願いするわ」

「分かりました」

 植松が頷くのを確認して、彼女は伊東の方を向く。

「久住有信と行動を共にしている可能性を考慮して必ず二人以上で行動。連絡はマメに取り合うこと。無茶はしない。……いいわね?」


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