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ウィッチクラフト Ain Suph Aur  作者: みえさん。
第七章 狂炎 Pyrokinesis
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6 断罪



「……僕がその犯人だとしたら、どうするの?」

 襟首を捕まれたまま明弥は空虚な笑いを浮かべる。

 無意識に能力を使って、無意識に人を傷つけたとしたら、誰が自分の罪を立証するのだろう。

 自首したところで立証出来なければどうしようもないだろう。

 岩崎警部たちはそもそも再発防止の為に動いているのだ。犯人の検挙が直接の目的ではない。

 明弥は自身が力を使う時に意識しない。再発防止としてもどうやってやるのだろう。太一のように薬品投与でどうにかなるならいくらでもやる。拘束されてそれで済むならそれでもいい。

 だがあの人達はそうしないだろう。井辻にそうしたように、明弥が一番自然に暮らせる方法を探してくれるだろう。

 なら、明弥が不幸にした人達はどうなる?

 明弥が犯した罪は、誰が贖う?

「君が僕を裁くの?」

 裁けるものなら裁いてくれ。

 今すぐ。

 そうすれば、もう、誰も。

「お前……!」

 顔全体が朱に染まる。

 殴られる、と痛みを覚悟した時だった。

 明弥の身体は別の方向に引っ張られる。

 間髪を入れずにぱちんと小気味のいい音と同時にぐらりと視界が回った。

 はたかれたという程度の軽いものだったが、バランスを崩した明弥の身体はイスや机を薙ぎ倒した。

 女子から悲鳴のような声があがった。

 痛みより、驚きの方が勝っていた。

「お前、いい加減にしろよ」

「勇、気?」

 見下ろしてくる勇気はどこか怒ったような表情を浮かべている。

 何が起こっているか、良く分からなかった。

「黙っていたら、何もかもお前のせいにされる。やましいところがないなら堂々としていればいい」

「……やましいところ?」

 じゃあ、そればかりだったらどうしたらいい?

「お前、こいつを庇うのかよ!」

 誰かが叫んで勇気の肩を掴む。

 それを払いのけて周囲を睥睨するように見渡しながら言う。

「何が起こったか分からず不安なのは分かるが、これだけの大人数が一人を責めて吊し上げるのは卑劣だ。例え明弥が真実元凶だったとしても、よってたかって責めるのは良い事じゃないのは分かるだろう」

「でもっ」

 反論しかけた人間を勇気は睨む。

「でも、何だ? この状況といじめとどう違うんだ? 一人の人間にこれだけ大人数が集って、責めて、詰って、話が聞きたかっただけ、で済む状況になっているか? こんな状況じゃ話し合いがしたくても出来ないだろ」

 正論を言われ、周囲が黙り込む。

 先刻まで明弥の襟首を掴んでいた男子もばつが悪そうに黙り込んだ。

 その静まりを壊すように、輪に加わらず話を聞いていた一橋が助け船を出すように勇気に質問を投げかける。

「なぁ、そもそも久住が刺されたのは本当なのか?」

「明弥は怪我をしていない」

「でも、見たって奴いたよな?」

「似た背格好の他の誰かという可能性もあるだろう。それに、これが刺された人間に見えるか?」

 勇気が明弥を示すと一橋がけらけらと笑う。

「だよなー。いくら久住が鈍くさくたって倒れる時くらい一応傷くらい庇うよな」

「で、でも、傷が浅かったかもしれないじゃない」

 女生徒が言う。

 一橋が何でそう言うこと言うのだろうと言う風に答えた。

「浅くたって、何だって痛いもんは痛いだろ。ニュースじゃ大量の血痕がとかやってたしなぁ。刺されてコイツが休んでいた数日やそこらで治ったとでも言うのか?」

 ざわめく。

 誰かが、呪いや、祟りという単語を口にする。

「……だったら、傷治ってもおかしくないよな」

「えー、でも」

「ほら、テレビの特集とかでやるじゃん。手をかざすだけで病気が治るとかさー、ああいうのじゃないの?」

 ざわめきが強くなる。

 打ち切るようにバカにしたような勇気の笑い声。

「お前ら、本当にそう言う力があるって信じているのか?」

 今度はしん、となる。

 超能力を信じるか、そんなことを大勢の前で問いかけられて曖昧な態度で肯定出来る者がいたとしても、堂々とあると言い切れるものはいない。そう言うのが好きで信じている者も、大抵は半信半疑なのだ。

「あるかもしれないじゃない」

「かも、だろう? そんな憶測だけで、一人の人間を責めるのか?」

「……」

 戸惑ったように何人かがお互いの顔を見合わせた。

 一橋が場違いに笑う。

「さすがに、傷が数日で治るなんて話きかねーよな。そんな奴いるとしたら化け物だよ。俺は少なくとも、久住は気の弱いお人好しに見えるけどなぁ」

 確かに、そうだ、と周囲が戸惑うような声をだす。

 でも、分からない。

 そう言い出すものもいた。

「そもそも」

 勇気が声を張り上げる。

 ざわめきが止まった。

「明弥に何かをされた奴いるのか? 小学校中学校で一緒だった奴もいるだろう? 何かされたか」

 勇気と視線がかち合う。

 促すように見ると彼女は困ったように死ながら答え出す。

「えっと、休んでいる時ノートとっておいてくれたとかあるけど……何か嫌なことされたことはない……かな」

 そう言えば、と誰かが呟く。

「俺も具合悪い時に掃除当番変わってもらって……みんな仮病仮病っていったけど、久住だけ本気で心配してくれてたってことあったな」

 何人かが同じように言葉を漏らす。

 今度は誰も明弥を悪く言うものはなかった。

 確認するように頷いて、勇気が言う。

「人間には、誰かを不幸にする力なんて無い。もし誰かが誰かに傷つけられ不幸になったとしたら、それは人が行動した結果に起こること。たまたま近くにいただけで相手が不幸にしたって考えるのも逆に自分が不幸にしたと考えるのも間違っている」

 大声を上げているわけでもなく、良く通る澄んだ声だった。

 全員に向けているようで、それが自分に向けられている言葉だと気が付く。

 明弥は両手で顔を覆う。

 胃の賦に流れ落ちた感情達が、全て溶け出していく。

「誰かを責めるのも、自分を責めるのも楽な事だと思う。でも、それじゃあ何の解決にもならないし、誰も救われない」

 溶けて水となってあふれ出す。

 嫌な気持ち全てが流れ出してきた。

「今まで明弥が人に対して優しく接していたのは事実だろう。それを全て否定して憶測だけでまだ彼を責める奴、いるか?」

 教室が、今までにないくらいに静まりかえる。

 勇気の質問に、誰からも答えは返らなかった。

 ただ張り詰めていた空気が優しくなったのを感じた。


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