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ウィッチクラフト Ain Suph Aur  作者: みえさん。
第七章 狂炎 Pyrokinesis
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5 罪の意識



 実名報道されなくても、誰かが見ている。誰かが気付く。噂は広まる。

 廊下を歩くだけで、教室の中にいるだけでこそこそとあること無いことを囁かれる。

 酷く嫌な感じがする。

 それでも明弥は何も言わなかった。

 いつものように普通にしていた。

 それでも周りは普通ではいなかった。

 噂によれば、明弥は自分を刺した相手を焼き殺そうとしたようだ。疑問を呟く者はいても、否定の言葉を言うものはない。やがて話は先だっての爆発事故や、安藤達を襲撃した事件までに及ぶ。明弥がやった、実は不良グループを裏で操っているのは明弥で何か気に食わない事があったため人を使って制裁を加えた。友達のフリをして勇気に罪をなすりつけようとしていた。だから噂が立った時も平然として彼の近くにいた。

 大人しそうに見えて影でやっていることはえげつない。むしろ大人しい人の方が危ない。よく平気な顔で学校に来れる。自分たちも何かされるのではないか。

 呪い、祟る。

 今までもそうやって分からないように何人も犠牲にしてきた。

 否定するのでさえも馬鹿馬鹿しい。

 けれど、こんな嫌な気分は初めてだ。

 まるで全員の嫌な感情が全て胃の中に流れ込んでいるよう。苦しくて、吐き出したくなる。

 勇気も噂が立った時こんな気分だったのだろうか。

「何とか言ったらどうなんだよ」

 どん、と机叩かれ明弥はびくっとする。

 いつの間にか人に囲まれていた。

 憎むような、畏怖するような眼差しでクラスメート達が囲んでいた。いや、クラスメートだけではなかった。他のクラスや先輩達の姿もちらりと混じっている。

 息が詰まる。

「連続放火もお前が犯人なんだろ?」

「私のイトコもあの火事で怪我したのよ! 責任とってよ」

「お前が刺されるのを見たって奴いるんだぞ! お前が犯人焼き殺したんだろ!? この人殺しが!」

 人殺し?

 そうなるのだろうか。

 焼き殺した、そう言われても自覚がない。それでも自分にインパクトの能力があり、それが誰かに影響与えて人を傷つけたとしたら。何より今はまだ死んでいないが、明弥を刺した男が死んだとしたら、自分は人殺しになるのだろうか。

(……ああ……なら)

 自分の力が誰かを傷つけるのなら。

 自分がいることで誰かが不幸になるのなら。

 不幸になるだけなら。

 誰か。

「おい、聞いてんのかよ!」

 襟首が捕まれる。

 明弥は祈った。

 どこにいるとも分からない神に。


 断罪して下さい、と。



   ※  ※  ※  ※


「明弥は安定しているよ」

 勇気は藤岡に押しつけるように書類を返した。

「だから検査なんて必要ない。そうやって南条斎に伝えて下さい」

「いいの、勝手に」

 藤岡は駐輪所の鉄柱によりかかりながら言う。

「インパクトは俺に見える類のものです。精神状態はともかく、能力に関しては今は安定しているのは確かです。明弥に言えば検査を受けると言い出す。でも、それは良くないと俺は思う」

「その意見には賛成だけどね、一応久住君にって来た通知なんだけど」

「だったら何で俺を呼び出したんですか?」

 突然教師から呼び出されたと思ったら藤岡が来ていた。

 学校と言うことで無理矢理男物のスーツを着せられたのだろう。ウサギモチーフのネクタイピンからせめてもの抵抗が見て取れた。

 藤岡はインパクトに関して検査をしたいという意向が書かれた書類を持って来ていた。確かに気を失った明弥から湧き出るように流れていたインパクトの事を考えると、専門家にきちんと調べてもらうのが適当だと思った。インパクトのことは殆ど何も分からないと言うのが現状だが、調べることで何らかの対策が講じられるかも知れないとも考えた。だが、医師及び責任者の欄に書かれた名前は「南条斎」。

 明弥は全面的に信頼している様子だったが、勇気の考えはどちらかと言えば警察寄りだ。

 それに、正直に言えば斎のことは苦手なのだ。

「一応ね、騎士様の意見は聞いておこうと思って」

「その騎士とやらは俺のことですか」

「そうそう。……いやーね、そんな冷たい目で睨まないでよぅー」

 自分より身長が高いオカマに色気を振りまかれてもどうとも思えない。というより、この光景は昔からのことであるため慣れている。

 勇気はそのまま話題を切り替える。

「それで、例の現場‘見た’んですか?」

「完全無視ね、まーいいけど。……見てきたけど見えなかったわ。感じないと言うよりはジャミングされている感じ?」

「ではあの場所で?」

「何か強烈な力が働いたと考えた方がいいみたい。あーあ、せっかく能力生かせると思ったのに、これだから超常現象って嫌よ」

 藤岡は触れたものの過去を見ることが出来る。正確に言えばそこに残されている残留思念、つまり強い感情を読みとることが出来るのだ。ただし、藤岡のそれは人為的な超常現象とは相性が悪い。誰かの特別な力が働いていると見えなくなることが多くなる。それが強くなればなるほど見えない確立は上がる。

 あの状況で誰の感情も残っていないとは考えにくい。

 それはつまり、あの場所で誰かが超能力、ウィッチクラフトという類の力を使ったということだ。

「何かあったと分かるだけでも収穫です」

「あら、優しいのね」

「眞由美さんは努力せずに僻むだけのバカとは違いますから」

「……勇くんのそう言うところ、愛とそっくりよね」

 岩崎、と呼ぶ声を聞いて勇気は顔を上げる。

 中二階の窓から顔を覗かせている男子生徒の姿を見つけて、彼は眉をひそめた。一橋だった。

「岩崎、やっと見つけた! すぐ教室戻れ!」

 叫ばれて勇気も叫び返す。

「何かあったのか?」

「ケンカだ! ……いや、アレはリンチか? ともかく教室に戻れ、俺じゃ止められない。久住がっ」

 頭の中に暴れ回る明弥の姿と、よってたかって殴られている明弥の姿が同時に浮かぶ。どちらにしても状況は最悪だ。

 勇気は叫び返す。

「すぐに行くっ! ……眞由美さん」

 話は後で、そう伝えようとすると行きなさい、と態度で示される。

 軽く頭を下げて勇気は校舎の中へと急いだ。


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