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ウィッチクラフト Ain Suph Aur  作者: みえさん。
第六章 犠牲 Sacrifice
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12 混乱



 後にも先にも、これだけ取り乱したことはなかった。

 近くに、太一がいなければ、彼が止めなければ勇気は取り返しの付かないことをしていたのかもしれない。

「待て!」

 大きな手で捕まれ、勇気は男を睨んだ。

「その式神は、神佑地以外で呼ばない方が良い」

「……」

 勇気は自分が出した漉き紙を見る。

 指先が震えていた。

 この髪は、白銀を呼び出すための。神佑地でなくても呼べば来る。だが、その分消耗が激しい。勇気も、白銀も。

 探させようとしたのだ。

 白銀の力を使って、行方不明になったという明弥を。

 刺されて、出血した状態で彼はまた何か別の事件に巻き込まれた。いくら救急隊員が乗っているとはいえ命の危険が増す。

 怪我の程度はどの程度だろう。

 どの程度血を失っただろうか。

 一刻も早く。

 その思いが勇気を焦らせた。

「今呼び出そうとしたのはこの間の白い奴だろう? なら、こんなところで呼び出すな。狂うぞ」

「……」

 太一は勇気の肩を掴む。

「落ち着け、俺が探す。明弥に鈴華だ。ある程度近付けば匂いで探せるだろう」

「……ああ」

 勇気は息を吐く。

 そうだ。

 落ち着かなければ。

「匂いで探すって、犬になるつもり?」

「だから誰が犬だ」

 太一は噛みつくように藤岡を睨む。

 そしてすぐに視線を勇気に向けた。

 思っていたよりも冷静な人だ。おかげで勇気の頭の中も急速に冷えていく。

「ユーキ、巫術で居場所を探れるか。およその方向だけでいい」

「ああ……方向だけなら、探せる」

「行くぞ」

 言った彼を藤岡が睨み、引き止める。

「ちょっと待って。一応私も警察なのよ。そう言う危ないことは許可出来ないわ。何が起こるのか、分からないでしょう」

「お前な、この状況で……」

「この状況だからよ。心配なのは分かるけど、だからといって危険に晒すわけにはいかないわ。上司の息子だろうと彼は一般人なのよ」

 彼の立場からはそういう結論に達するのが普通だ。今までも何度も危険なことになることはあったが、明弥と関わってから彼が危険になる率は増えた。そのことで心配されているのは分かっている。先だっての井辻の一件は命の危険もあったために明弥が勇気を助けたという事実があっても渋い顔をされている。

 明弥にはただの打撲と説明したが、あの時勇気の足の骨は砕かれていた。あの場所は岩崎家が代々祀っている神佑地であったために「神」という存在が勇気に力を貸し治ったのだが、他の場所であれだけの怪我を負えばそうはいかない。

 顔見知りだから心配、と言うことを差し引いたとしても、勇気がこの件に関わることを許可するとは思えなかった。

 一緒に動けるのなら話は違うだろう。だが、ここで待機することを指示されている彼が勇気と一緒に行動することはできない。

 それでも。

「眞由美さん」

「何よ」

「今から暫く記憶喪失になってはもらえませんか?」

 藤岡は腕を組んで勇気を睨んだ。

「太一がいる。それほど危険にはならないと思うから」

 勇気は真摯に見返す。

 彼が勇気のこういった真剣な目線に弱いことを知っているのだ。そして、勇気がそれを利用しようとしていることも、藤岡は分かっている。

「嫌な子ね、あなたに頼まれたら嫌って言えないじゃないの」

「すみません」

「仕方ないわよね。止めても、行くのでしょう?」

「はい」

 勇気は頷く。

 止めたところで、行くつもりだった。いくら警察でも、こういう状況では勇気を拘束している権限はない。未成年と言うことをで保護できたとしても、獣化して危険になるという状況でなければ太一を止められない。

 太一だけで行かせるよりも、勇気が一緒に行った方が遥に安全で効率がいいことを彼も分かっているのだろう。

 藤岡は溜息をついた。

「気を付けるのよ」

 太一が感心したように言う。

「ああ、何だ。あんたいい男じゃないか」

 ぎ、っと凄い形相で彼が睨み付けた。

「女よ、失礼ねっ!」

 勇気は彼にばれないように笑う。藤岡にとって「男」と形容することは「オカマ」と罵られるよりもよほど失礼にあたるらしい。

 睨んだまま藤岡は続ける。

「言っておくけど、勇気を危険な目に遭わせたら承知しないからね」

 脅された太一は少し引きつった笑みを浮かべた。

「黙らせておけばそんなもん、わからないだろう?」

「残念でした。私、残留思念を読みとれるから内緒事なんかできないわよ」

「眞由美さん!」

 勇気は慌てて遮った。

 しまった、という風に藤岡が口元を押さえる。

 だが、それは既に遅かった。

 太一の耳は彼の言葉を聞き漏らさなかった。

 驚いたように目を見開く。

 班長である愛が斎を妙に思っている以上、その弟である彼にこちらの持ち札を明かすようなことはあってはならなかったのだ。つい漏らしてしまったという失態に、藤岡は顔をしかめた。

「あんた、心霊鑑定ができるのか」

「あーら、何のこと?」

 全力で誤魔化すように笑う。

 鋭い視線が戻る。

「聞かなかったことには出来ないな」

「でしょうね」

 藤岡は溜息をつく。

 太一は彼を睨んだまま続ける。

「だが、誰かに漏らすつもりはない」

「えっ? 何よそれ、どういう意味?」

 太一は薄い笑いを浮かべた。

 その真意を知るのはもう少し先の話になる。


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