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ウィッチクラフト Ain Suph Aur  作者: みえさん。
第六章 犠牲 Sacrifice
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10 事件と事件



 目撃者が多数いるというのに、この場所で何が起こったのか、正確に証言出来る者は少なかった。

 停電した店内の非常灯さえも付いたり消えたりを繰り返す中、ナイフを持った男が暴れ、少年が刺され、そして刺した犯人が炎上した。後に残された状況を見ても、その証言が正確なのだろうと彼女は思った。

 焼け焦げた匂いと、血の匂いが混じった店内で愛は腕組みをしながらじっとその状況を見つめた。

 刺された少年は久住明弥。

 通報と同時に呼ばれた救急車で彼は病院に搬送をされた。

 愛がこのところ関わっていた南条斎に関しても、今回のことも、彼は大きく関わりすぎている。自分の息子が関わった井辻正伸の件にも彼は関わっている。どうも、彼の周りで何かが起きているのは事実のようだ。

「犯人が焼死、柴田の件とよく似ているわ」

「重体です。まだ殺さないで下さい」

「どちらにせよ、すぐに話が出来ない状況なら同じよ。……中津君、あなたならどう見るの?」

 問われて中津は腕組みをした。

「普通に考えれば自殺を図った、ですね」

「普通に考えなければ?」

「パイロキネシス、人体発火、そんなところでしょう。……言っておきますが、私は肯定していませんよ」

 愛は頷く。

 中津と愛は二人とも岩崎正義の部下だった。中津の方が先に警官になっていたため愛にとっては先輩にあたるが出世は愛の方が早かった。同じ班にあり、意見が度々対立することから、顔を合わせるたびに嫌味を言いあっていた。彼女に対していちいち一言を付け加えないと気が済まないのは彼の性格のせいだろう。

 岩崎班にいたころはそ中津はゼロ班として超常現象を追っていた。むしろ否定的なのは愛の方であり知識に関しては中津の方が上だった。

 立場も考えも逆転したのは、二人の上司が殉職し、愛がその後を引き継いでからだ。だから中津も、完全に「無い」と否定するほど超常学に暗い訳ではないのだ。

「目撃者の中に、犯人が悪魔がどうのと呟いているのを聞いた人がいるらしいわね」

「柴田貞夫の件と同じですか。この件も、ゼロ班が持って行き、迷宮入りさせるつもりですか?」

「嫌味」

「ああ、それは失礼」

 中津は乾いたような笑いを浮かべる。

「ゼロ班は隠蔽するのが仕事でしたね」

「ええ、そうよ」

 愛は中津の嫌味を肯定する。

 彼は少し眉を跳ね上げた。

「まさか超能力者が事件を起こしました、と報道させるわけにはいかないでしょう? それこそ、警察の信用問題になりかねないもの」

「……それで、今回の件はどうするつもりなんですか?」

「久住明弥が関わっている以上、私の方で預かるつもりよ」

「南条家以外もあなた方が手を付けるんですか? お忙しいんですね、岩崎警部」

 愛は中津を睨み付け、携帯電話のボタンを押して中津の方に突き付ける。

 その行動に一瞬驚くが、中津はその画面に映ったものを見て顔を強ばらせる。

「伊東君が南条斎と久住明弥の接点を見つけて来たわ」

「……これは南条斎ですか? 随分と若い頃の写真のようですが」

「前後の写真を見れば分かるわ。……この人、久住明弥の実父よ。養父に確認を取ってきたわ」

 愛は写真に写る男を指差す。

 女性と二人で映っているその写真にいるのは久住有信。有信の兄で、明弥の養父である久住政信に確認を取ったところ、有信に間違いが無いという返答が返ってきた。

「一緒に映っているワンピースの女は?」

「知らない人だそうよ。けれど、似ていると思わない?」

「人の印象など当てにはなりませんよ」

「そう言うって事はあなたも思ったのでしょう。……彼女は、久住明弥に似ている」

 久住有信と一緒に映る女性。

 その面差しが明弥と重なることがあるのなら、年代から推測して母親であると考えるのが妥当だろう。明弥と川上ともみの二人は出生届が出されていなかった。そのため母親が不明であるのだが、それが写真に写る彼女であってもおかしくはない。

「前後一緒に映っている青年が南条斎本人だとすれば、少なくとも久住有信との接点が浮かんだことになる」

「それだけでは少し温いですね」

 うん、と愛は頷く。

 逆の立場ならもちろんそう言う結論に達していただけあって、彼の主張をあっさりと認めた。

 愛は横から携帯のボタンを押して別の写真を表示させる。

 先刻のワンピースの女性が制服を来て、別の白衣の女性と一緒に映っている姿があった。

「この白衣の人、古武玲香と言うそうです」

「レイカ?」

「南条斎の妹と同じ名前、字は違うようだけど」

 伊東が写真を持って古武玲香を知る水守小夜子に確認を取ったそうだ。

 当初彼は有信と映る女性が古武玲香なのだと思っていたそうだが、水守は白衣の女性を指して古武玲香と言ったそうだ。

 これから古武の家に行って更に裏付けを取ってくると言っていたが、おそらく間違いはないだろう。

「この人、超常能力の研究者」

「超常学の……」

「もう亡くなったらしいのだけど、それすら事実かどうか分からないわ。何しろ彼女戸籍上に存在しないらしいの」

 中津の表情が険しくなる。

「それは、どういう意味ですか?」

「不備か隠蔽か。彼女の事は伊東君達が発見した死亡届一枚でしか確認がとれなかった。焼死、だそうよ」

「……」

 愛は中津を見上げる。

「ここから先も聞きたい?」

「そうですね。参考までに、ぜひ」

「死体検案書を書いた医師、その所属病院は南条斎が在学していた大学の付属病院よ」

「……!」

 中津は息を吐いて目元に手を当てた。

 泣いているわけではない。これが彼の癖なのだ。考えをまとめて切り替える時の、彼の癖。

 愛はそれを見守るように見る。

「……分かりました。超常能力に関して認めるわけにはいきませんが、あなた方が南条斎に関して洗うというのなら、協力をしましょう。もちろん、この件も含めて」

「感謝します。………とても頼りにしているわ、中津刑事」

「…………、それは新手の嫌がらせですか?」

 鳥肌を立てたらしい中津は自分の腕をさすった。

 愛は笑顔で頷く。

「もちろんよ」

「嫌な人ですね」

「そんなこと、ずっと分かっていたことでしょう? 携帯返してくれる? 着信しているわ」

 ああ、と頷いてランプだけが点灯している携帯電話を愛の方に返す。

 携帯を受け取ると彼女は着信に応対した。

 一言二言交わした後、彼女は驚いたように中津の方を見る。

 中津は怪訝そうに彼女を見返す。

 彼女はオウム返しに問うようにしながら、電話の内容を彼に伝えた。

「久住明弥を載せた救急車が行方不明?」


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