醜悪
一瞬、酷く混乱をした。
何故、彼には自分の力が及ばなかったのだろう。
殺しても構わないつもりで力を振るった。けれど無事だった。それどころか、彼は圧倒的な力を見せつけるように使った。
何故。
その答えはすぐに見つかった。
久住明弥がいるからだ。
自分の力を呼び覚ました久住が、今度は岩崎の味方をしている。久住を騙して味方に付けている。だから岩崎は強いのだ。
そうでなければ神に選ばれた自分が神主の血筋と言うだけで力を持っているあんな奴に負けるはずがない。
入試の日、自分の力が呼び覚まされた。最初は気が付かなかった。気付いたのは家に戻ってからだった。手を触れず物を動かせる。そして破壊も出来る。
何故そう思ったのかは分からないが、本能的にこの力を目覚めさせたのはあの気弱そうな男だと悟った。得た力の強大さに驚き、やがて自分が神に選ばれたと実感した。最初は制御しきれずに動かそうとしたコップを粉々に破壊した。だが、その力も徐々に自分のモノとなっていった。
今では多少集中力は必要だが、手を使うよりももっと簡単に巨大な物でも動かせるようになった。
神が自分を選んだ。
安藤に従って歩いているだけの凡庸な自分を。否、凡庸であったのはそもそも隠れ蓑だったのだ。その日が来るまで誰にも気付かれないように。
久住を奪えば自分こそが最強になる。
いない間に、岩崎を「殺して」しまえばいいのだ。
「そうだよな」
口に出して呟くと岩崎は硬い表情を井辻に向けた。
「決着を付けようか、岩崎?」