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プロローグ
鎖に沈められた鉄の体は、暗い水の中をゆっくりと落ちていく。
光はもう届かない。音も遠い。ただ圧力だけが、世界じゅうから押しかかってくるようだった。
胸の封印札は、海水に浸されながら徐々に端から剥がれ始めていた。
鎖の結びも、運搬の衝撃でどこか緩んでいたのかもしれない。あるいは、祈祷も術式も、深海の静けさまでは完全には制御できなかったのかもしれない。
暗い水の中、十字架が先に沈む。
その後を、頁の開いた聖書がゆっくりと追う。
紙は水を吸って重くなり、それでもまだ形を保っていた。
その時、機体の眼部に、ごく微かな光が戻った。
ほんの一瞬。
誤作動と呼ぶには、あまりにも静かな再起動だった。
指先がわずかに動く。
鎖がきしむ。
胸部の奥で、かすかな駆動音が鳴る。
そして、名も与えられなかった機械の腕が、ゆっくりと前へ伸びた。
十字架へ。
聖書へ。
その手が何を掴もうとしたのか、この時点ではまだ、誰にも分からなかった。




