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アトラシア戦記~あるファイターの手記より~  作者: チャラン
第2章 エルディア奪還
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第9話 その名を覚えておこう

 魔軍の切り札とも言えるダークグリフォン部隊に苦戦していたアトラシア軍だったが、召集に応じ参戦した、カイ率いるグリフォン部隊の増援が決定打となり、最前線の南下スピードは更に増していった。国土奪還が進んだことで、エルディアにおけるルシファーの支配力は弱まっている。追い込まれた魔王は軍を必死でかき集め抵抗を試みるが、アトラシア軍はそれを打ち破り、ついにルシファーの居城を全部隊で取り囲んだ。


 ナイト部隊のリサは、ルシファーの魔軍とここまで数多(あまた)の戦闘を繰り返し、大きな経験を積んでいた。リサは幾多の死線をくぐり抜け、自身の成長を実感していたちょうどその時、戦いの女神パラス・アテナのからの温かい恩寵を感得し、部隊の仲間と共にシルバーナイトにクラスチェンジしたのだと言う。自分の中に、このような潜在能力が秘められていると、リサは露ほども考えておらず、


「正直言って、湧き上がってくる力が信じられなかったわ」


 と、パラス・アテナからの恩寵を心に受けとめた後、自身に起こった変化の実感を、そう言葉にしてサイラスに伝えている。


 勝利は目前に迫っており、あとはルシファーの居城周囲に残存する敵兵を打ち倒し、城門を破壊した上で、魔王討伐部隊を侵入させるのみだ。その最後の詰めを誤らないよう、キングは追加の援軍として、小型竜族のリザードマン部隊を最前線に派遣している。人間族、妖精族問わず、小型の敵に強いリザードマンは、最前線の戦列に参加するなり、城門周りに展開しているゴブリン部隊を、独特な曲剣で撃破した!


 露払いは全て済み、ジャイアント部隊が振るう大棍棒により、城門も壊された。ルシファーを斬り、エルディア奪還を成し遂げる役目は、人間族のファイター部隊とシルバーナイト部隊が担う。サイラスとリサは顔を向き合わせ、魔王打倒の決意を強く固めると、仲間たちと共に、破壊された正門から城内へ侵入した。




 エルディアにおけるルシファーの居城は、守るに易い堅城で、内部構造も防御力を高めるため、複雑なものとなっている。ルシファーの最後の盾である親衛隊たちは、防衛に適した城内構造を利用し、取り得る限りの迎撃態勢で、ファイターとシルバーナイト、両部隊の進行を妨害してきた。


 忠実な魔王の盾である親衛隊たちの妨害行動は苛烈を極めたが、アトラシア軍の討伐部隊も、ここまで激戦をくぐり抜け、実戦経験豊富な手練れとなっている。親衛隊の俊敏な剣技に倒れる者も多数出たが、ルシファーが待ち構える玉座の間にたどり着くまで、ファイター部隊、シルバーナイト部隊共々、相当数の戦力を温存することができた。


「またお前か。これで、私に剣を向けるのは二度目だな。いいだろう、敵ながらその勇敢さは称賛に値する。名は何と言う? 覚えておいてやろう」

「サイラスだ! ルシファー! ここで貴様にとどめを刺してやる! 覚悟しろ!」


 玉座に悠然と座るルシファーは、城内に張り巡らせた防衛網を突破し、ここまで到達したファイターサイラスの存在を認め、その名を聞いてきた。サイラスは剣の切っ先を魔王に向け、憎しみの啖呵を切りながらも、自分の名を名乗る。


「サイラスか。その威勢は悪くないが、お前の力で私にとどめを刺せるかな?」


 玉座から立ち上がったルシファーは、魔王の貫禄十分にそう答えると、突如として魔剣を抜き、最側近の親衛隊と連携して、先制攻撃をかけてきた!


「ウオオオォォォッッッ!!!」

「やるではないか! 腕を上げたな!」


 魔王の最側近が振るう剛剣は、部隊の仲間たちが全力をもって防いでくれている。サイラスは、ルシファーが振るう魔剣だけに集中すればよいのだが、キングウィルで対峙した頃より、こちらも強くなっているとは言え、魔王の攻撃は激烈である。しかしながら!


「ハアアアァァァッッッ!!!」

「なにっ!?」


 リサがシルバーナイトの鋭槍(えいそう)をもって支援攻撃を繰り出し、2人がかりでルシファーを追い詰める! 歴戦の勇士となった2人の攻撃は、魔王の力を尽くしても防ぎ切れるものではなく、サイラスはついに魔剣を弾き飛ばし、ルシファーの胸を剣の切っ先で貫き通した!


「くっ! またしても!」


 急所を貫かれたルシファーは、胸から血を流しながらも歯噛みをして悔しがり、膝から崩れ落ちると、そのまま事切れた。


 魔王の体は力を失ったが、戦う前にルシファー自身が予告していた通り、ここでもその魂にとどめを刺すことはできなかった!


 力を失った自身の亡骸を、諦めるように抜け出した赤い光の球は、一際(ひときわ)禍々しい赤光(しゃっこう)を放ち、周囲の目をくらませると、超高速でトラス平野に飛び逃げて行く!




「また取り逃がしてしまったが、ルシファーは段々と追い詰められてきておる。何よりエルディアの民を安んじることができた。身命を賭して戦ってくれたお前たちには、感謝しても感謝し切れぬ。ありがとう」


 サイラスとリサは、キングの居城に戻り、ルシファーにとどめを刺せなかった失態を詫びたが、賢王は逆に、勇猛果敢な2人の働きを大いに(ねぎら)い、皆の前で戦功を称賛した。


 キングウィルに続いてエルディア地方の奪還も成し遂げられた。国力回復の確かな手応えを得たキングは、意気揚々たる人間族、妖精族、竜族の混成軍を率い、次なる戦地、トラス平野へ駒を進める。

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