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アトラシア戦記~あるファイターの手記より~  作者: チャラン
第2章 エルディア奪還
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第8話 戦いの趨勢

 戦場に馳せ参じたリサ所属のナイト部隊、のそりと巨体を揺らして現れたジャイアント部隊、エルディアで新たに召集された2兵種の活躍により、中央盆地での戦況は、アトラシア軍の優勢が確保されつつある。情勢の好転に伴い、全部隊を投入した国土奪還作戦も徐々に実を結び始め、構築した防衛線は、ルシファーを追い詰めるようにジリジリと南側に押し下げられつつあった。


「みんな! 助けに来たぞ! これからこの町は、アトラシア軍の庇護下に入る! もう大丈夫だ!」 


 全軍の南下が進めば、進んだ分だけ、ルシファーに簒奪されていた領土が回復することになる。勢いに乗る軍と共に、南へ進行しているサイラス所属のファイター部隊は、民心を安んじる呼びかけを行いながら、今までルシファーの苛烈な支配に苦しんでいた周辺の町を、次々と開放していった。


 こうして、最前線に更なる拠点を確保できたアトラシア軍は、士気上々となっていたが、好事魔多しという言葉は、戦場にこそ当てはまる。


「敵襲! ダークグリフォン部隊だ!」

「ダークグリフォン!? 嘘でしょ!? そんな強力な部隊が!?」


 アトラシア軍に押されてきているルシファーは、どうやら奥の手を出してきたようだ。ダークグリフォンの来襲を知らせる仲間からの呼びかけは、もちろん嘘でも誇張でもない。上半身が鷹、下半身がライオンの獰猛な大型動物は、シェリー所属のハーピー部隊に、獲物を狙う獣の眼光をギョロリと向けると、鋼鉄の如き強固な鈎爪で容赦なく襲いかかって来た!


「キィーッ!!」

「うわーっ!!!」


 小型妖精族の飛兵であるハーピーは、ダークグリフォンにとって格好の獲物だ。ほとんど奇襲とも言える先制攻撃をかけられたハーピー部隊は、空中で必死に応戦するものの、大型猛禽の鋭爪に成す(すべ)なく、壊滅一歩手前の大損害を(こうむ)った! シェリーも仲間と共に、命がけの抵抗を試みるが、ダークグリフォンの攻撃の前ではそれも虚しく、防戦の過程で浅くはない傷を負ってしまう!


「ハーピー部隊を救え! 一斉発射!」


 翼を持ち空を飛ぶ敵に対しては、エルフの弓矢が有効であり、その不文律は魔軍の奥の手、ダークグリフォン部隊にとっても例外ではない。クロード率いるエルフ部隊は、ここまで積んだ実戦経験を発揮し、大損害を受けているハーピー部隊を救わんがため、正確無比な矢をダークグリフォンたちの大翼へ向け、無数に射ち放った!


「キィーッ!?」


 弱点を突いた思わぬ反撃により、ダークグリフォン部隊は大きな損害を受けた! 数匹の個体は、断末魔のけたたましい鳴き声を上げると同時に力尽き、轟音を響かせ地に落ちている。さしもの大型猛禽たちも完全に怯んでしまい、エルフの矢をかろうじて逃れ、生き残った個体は、這々(ほうほう)の体で南に飛び逃げて行った。


 クロード率いるエルフ部隊の弓矢により、ダークグリフォン部隊は追い返され、甚大な脅威は一旦過ぎ去った。しかしながら、天敵とも言える大型猛禽たちの奇襲を受けたハーピー部隊は、壊滅的な大損害を受けており、もはや戦える状態ではない。部隊を回復させるためには、拠点の町に戻り、生き残った負傷兵の治療と、新たな兵員の補充を並行して行うことが必要となる。


 ほとんど重傷と言える浅くない傷を負い、地面に倒れ込んだシェリーは今、他の生き残ったハーピー部隊と同様、応急処置を受けている。シェリーの応急治療はサイラスが担当しており、力ない少女の体を頼もしい腕で支えながら、包帯や傷薬でテキパキと処置を進めていた。サイラスの腕に背中を支えられているシェリーは、傷の痛みをこらえながらも、なぜか幸せそうな笑顔を浮かべ、


「ヘマをやっちゃったね。あとは頼むよ」


 ほのかな好意を寄せる戦士に、戦いの今後を託した。


 サイラスはその純真なエールに答える形で、無言のまま、シェリーの手をしっかりと握る。




 応急処置を受け、少しの間休息を取ったシェリーは、純白の翼を羽ばたかせられるほどまで回復し、拠点の町で療養するため、ゆっくりとした飛行速度で戦場から退いて行った。


「さて、ここからが正念場だな」

「そうね。シェリーの奮戦に報いるためにも、頑張りましょう」


 戦いの趨勢(すうせい)を託されたサイラスとリサには、センチメンタルになっている暇などない。シェリーを見送った2人は短く言葉を交わすと、部隊の仲間と共に、戦場の最前線へと再び躍り出た。


 ハーピー部隊は壊滅的な損害を受けたものの、戦況は大きく変わっておらず、総合的に見ればアトラシア軍の優勢が、依然として保たれている。全軍が持つその勢いのままに、ファイターとナイト部隊は他部隊と連携を取りつつ、最前線で奮闘を続けていたのだが、


「またダークグリフォン部隊だ! 気をつけろ!」

「何だと!?」


 先刻、猛威を振るった甚大な脅威が、再び防衛線を打ち破らんと飛来してきた! しかしながら、先ほど大きなダメージを負ったダークグリフォンたちは、回復時間を十分に取れておらず、部隊の戦力を下げたまま、襲撃を敢行しようとしている。


(上手く戦えば殲滅できるが、あいつらの狙いは騎乗のナイト部隊だ!)


 サイラスは、大型猛禽部隊が飛ぶ方向を見てそう気づき、上空から襲いかかる敵の狙いを伝えるため、クロード率いるエルフ部隊に、あらん限りの大声で呼びかけた! サイラスの呼びかけを受けたエルフ部隊は、ナイト部隊の側に駆けつけ、


「そうはさせん!」


 クロードの号令と共に、ダークグリフォンの大翼目掛け、一斉に矢を射ち放つ! 苦手とする矢を再び身に受けたダークグリフォンたちは、大損害を被ったが、それでも(なお)、一匹の個体が攻撃をかいくぐっている。


 残った一匹の大型猛禽は、矢の嵐が尽きたのを見計らうと、騎乗のリサを道連れにするため、


「キィーッ!!!」


 耳をつんざくけたたましい叫びを上げ、襲いかかって来た!


(ここまでか!)


 万事休す。そう覚悟を決め、リサが上空の脅威を見据えていたその時! 横から颯爽と飛来した大きな影が、その鋭爪と強靭なくちばしをもって、ダークグリフォンを呆気なく打ち倒した!


「おい、そこの娘。危ないところだったな」

「ありがとう。お陰で命を拾えたわ。あなたは?」


 リサから何者なのかを聞かれた大きな影は、地上に降り立ち、プライド高く鼻で笑うと、


「見て分かるだろう。この姿通りだ。俺はグリフォン部隊の長、カイという名だ」


 そう威厳高い声で、キングの召集に応じた新部隊の長であることを伝えた。


「それにしても、リサと言ったか、お前の乗っている馬は美味そうだな。ダークグリフォンが狙いをつけていたのも分かるぞ。フッ! だが、お前は味方だ。その馬は、食わないでおいてやろう」


 半分本気なのかもしれないが、一応、グリフォンとしてのジョークなのだろう。カイは周りに畏怖心を感じさせるそんな言葉で、参戦の挨拶を締めくくった。

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