第6話 女騎士リサ
そうして一通りの戦支度が整った翌日。補給物資を持ってサイラスが城外の広場を歩いていたところ、軽装ながら、その身を包む鎧姿が艶やかに映えるほど、整った容姿を持つ緑髪の女性と出会い、目が合った。サイラスは、ある意味鎧とミスマッチですらある、緑髪ロングヘアをなびかせるスレンダーな女性の優美さに、思わず目を奪われている。緑髪の女性は、そんなサイラスの様子を見て微笑みながら、
「あなたはファイター部隊に所属されている方ですね。私は新規にアトラシア軍へ参入した、ナイト部隊のリサと言います。よろしくお願いします」
当たりの良い人柄が感じ取られる丁寧な挨拶と共に、まず自己紹介をした。リサの気さくで友好的な言葉遣いを聞いたサイラスは、初対面の緊張が幾分取れたらしく、
「ああ、ナイト部隊が新たに加わったと聞いていましたが、あなたがそうでしたか。俺はサイラスと言います。おっしゃる通り、所属はファイター部隊です。これからよろしくお願いします」
このようにできるだけ丁寧な態度で、所属と名前を答えている。
小城の広場というものは、2人の男女の出会いの場としては、やや無骨な場所かもしれない。しかしながら、武の心得が十分なサイラスとリサにとって、ここは大変似つかわしい所であり、明日から臨む戦いの中で、どう連携して動いていくか、そうした戦術談義に両人は花を咲かせていた。
「私は見ての通り騎兵だ。山や森には足を取られるが、平地なら馬で駆けつけられる。頼りにしてもらいたい」
リサは話が砕けてくると、次第に男勝りな言葉遣いに変わっていき、サイラスはその変化を楽しみながら、会話を進めていた。言葉をかわす中で時折見せるリサの可憐な笑顔は、サイラスに好感を与えており、リサの方も、正直に考えたことを話すサイラスの態度に、とても良い印象を受けていた。
このように2人の相性は良さそうだが、話が弾むにつれ、段々と親密になってきている戦士と女騎士の様子を、
「なんであんなに楽しそうなのよ……。あの女なんなのよ!」
ブツブツと小声でそうつぶやきながら物陰に隠れ、面白くない顔で見ている女の子ハーピーがいた。
堂々と出ていき、2人の会話に加わっても一向に構わないのだが、嫉妬心に駆られた今のシェリーには、それができないようだ。
新規兵との新たな出会いがあった翌日の早朝。小城での簡素な結団式後、エレンディア奪還の使命を帯びたアトラシア軍は、士気衝天の高まりをもって全部隊出陣した。それぞれ部隊の特性や個性は違うが、思いは一つだ。
失地後、時間が経っており、多少、土地や構造物の変化があるとはいえ、ルシファーが逃げ込んだエルディアの地も、元々はアトラシアの国土である。それゆえ、中央の山岳地帯を越えたあたりの盆地に町が栄えており、その地域には空城が一つあることが、地理情報として事前につかめている。戦略的に重要な地域に住み、ルシファーの支配に怯える盆地の民たちは、キングの帰還を待ち望んでいるはずだ。
こうした戦略情報を総合的に勘案すると、一刻も早く山岳地帯を越え、第二拠点と防衛線を構築しなければならないという結論に至る。そうした情報から導き出された侵攻作戦の内容を、事前にアトラシア軍と十分共有したキングは、全部隊の出陣を見届けた後、自身も親衛隊と共に南方へ向かい、山越えを開始した。
新規兵であるリサ所属のナイト部隊は馬で移動しているため、山を回り込んだ平地を進まなければならない。同じく大型妖精族の新規兵であるジャイアントも移動速度が遅く、山越えに時間がかかる。戦場で大きな戦力を発揮する新兵種が、後詰めの形になるのは致し方ないところだ。
戦いの幕は切って落とされた。魔王の支配からエルディアを開放するため、キングとアトラシア軍は、数多の血と汗を流さなければならない。