第5話 次なる戦いへ
キング率いる新生正規軍は、国家存亡を賭けた防衛戦に勝利し、ルシファーの分身を打ち倒すことができた。ほぼ完全な大勝により、アトラシアのキングウィル地方は、魔勢の侵略に怯える必要がなくなり、以前のような平穏を取り戻している。
奪還しなければならない国土はまだまだ広大で、国の行く末についても予断を許さない。しかしながら、絶対的な安全を一地方で確保し、国土の一部を完全に取り返した戦果は大きい。アトラシア全土奪還の足がかりを得たキングは、全幅の信頼を置く側近たちにキングウィル地方の統治を委任した後、大勝による手応えを感じ、覇気に満ち溢れているアトラシア軍と共に、ルシファーの本体が逃げ込んだエルディアの地へと進んだ。
「国王陛下、偵察結果を報告致します。ここから少し西へ向かった所に、放棄された小城を発見しました。付近に敵勢力は見当たりません。いかが致しましょう?」
ハーピー部隊を先行させ、斥候として飛ばしていたキングは、エルディア地方に差し掛かった所で重要な偵察報告を聞き、しばらくの間、沈思黙考していた。小城でも城は城である。軍をもって占領した後、周辺地域の町を治めれば、拠点として十分な機能を発揮し、エルディア奪還の基盤となることは間違いない。黙考の腕組みを解き、参謀を中心とする周囲の配下の意見を聞いたキングは、
「よし、西へ行こう。全軍入城し、足がかりとなる拠点を構築するのだ」
そう適切に決断すると、小城がある西へ向けて、軍を進めた。
ハーピー部隊の偵察報告通り、小城は完全に放棄された形で、城内に罠なども仕掛けられていなかった。恐らくキングウィルでの大敗は、ルシファーにとって予想外の事態であり、エルディアに退く場合の備えを全く考えていなかったのだろう。
「魔王と言えど、油断があるようだな。まあ、ルシファーのトップダウンだろうから一枚岩じゃないってところか」
仲間と共に入城したサイラスは、そんな独り言をつぶやきながら、城内で簡素な改修工事の手伝いをしている。信頼関係にある戦友たちと、共に行う作業は、エルディア奪還戦にこれから臨んでいくサイラスにとって、つかの間の気分転換になっているようだ。
簡素ながらも改修工事を一通り終え、小城に拠点を構築したキングは、周辺地域に召集をかけた後、新たに騎兵であるナイト部隊と、大型妖精族のジャイアント部隊を雇い入れた。どちらもファイターや、小型妖精族よりも強力な兵種であり、頼もしい2部隊が加入したことでアトラシア軍の戦力レベルは、次の段階へと押し上がった。
ナイトやジャイアントといった、戦力らしい戦力を召集できるようになったのは、キングウィル地方の安定を取り戻したからこそで、領土平定による国力の回復がなければ、まだまだファイターと小型妖精族部隊に頼るところが大きかっただろう。だが、エルディアまで退いたルシファーも魔軍の力を発揮し、少なくともこちらと同条件の戦力を整えてくる可能性がある。
本格的な戦いはこれからになる。