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アトラシア戦記~あるファイターの手記より~  作者: チャラン
第1章 キングウィル防衛戦
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第4話 魔剣と聖剣

 キングウィル地方におけるルシファーの居城は、元々、アトラシアのキングが所有していたものだ。したがって、城についての情報は、調査するまでもなく十分得られている。


 ルシファーは恐らく居城の玉座の間で、サイラス所属のファイター部隊を待ち受けているだろう。その支配者の空間にたどり着き、ルシファーと対峙するまで、ファイター部隊は戦力をできるだけ温存しておきたいところだが、城内に正門から侵入しようとすれば、魔王に忠誠を誓った側近の親衛隊から、猛烈な抵抗を受けることになる。ルシファーの最後の盾である親衛隊は、戦力として非常に強く、ファイター部隊がまともに正面切って城に乗り込んだ場合、返り討ちになってしまう可能性が高い。


「エルフ部隊とハーピー部隊、それにゴブリン部隊で城周辺に攻撃をかけ、城内の注意を正門へ向ける。我々の支援攻撃により大きな隙が生じるはずだ。ファイター部隊はその間に、手筈通り動いてくれ」

「分かった。陽動は任せたよ。俺たちは手抜かりなく、城に侵入する」


 親衛隊から返り討ちに遭う可能性を減らし、ルシファーと対峙できる戦力を温存するため、サイラス所属のファイター部隊はエルフ部隊の隊長クロードと、城の前で攻略作戦を打ち合わせている。十分な作戦共有を行った後、各々(おのおの)の妖精族部隊は気勢を上げ、ルシファーの居城正面を守る敵部隊に一斉攻撃をかけた! 大戦力による突撃を受けた敵部隊は軽く混乱状態となっており、自軍の態勢を立て直そうと、城内で指揮を執っている親衛隊の注意は、正門に大きく引きつけられた!


「よし! 今しかない!]


 サイラスとファイター部隊は、千載一遇の好機を逃さず二手に分かれて回り込み、防備が手薄になった東西の小門から城内へ侵入した!




 アトラシア軍の総力をかけて行った陽動作戦により、サイラス所属のファイター部隊は、ルシファーの居城内への侵入に成功した。しかしながら、陽動が利いているとはいえ、城内の備えは依然として固く、ファイター部隊はルシファーの玉座へたどり着くまで、最側近の親衛隊から多大な損害を受けている。ルシファーは確かに、城外の混乱を収束させるため親衛隊を正門近くに向かわせたのだが、自身を守る最強の盾である最側近だけは、最後の備えとして残していたのだ。


「人間風情がここまで来たか。フッ! 少しは使えるようだが、ここで私に剣を向けているのはお前のみだ。その程度の力でどうするのだ? 私が返り討ちにしてくれよう」


 悠然と立ち、玉座の間で待ち構えるルシファーは、ただ一人、ここまでたどり着いたサイラスの力を正確に把握すると、侮蔑の笑いと共に、その魔剣を抜いた。魔軍の首領ルシファーと対峙しているサイラスは、じわりと冷や汗を滲ませながら剣を構え、暗黒の力に気圧(けお)されないよう、戦闘態勢を必死に取っている。


「ウオオオォォオオッッ!!!」

「フンッ!」


 ルシファーが放つ剣気に僅かな揺らぎを見出したサイラスは、先手を取り、魔王の首筋目掛け、剣を振るった! しかしながら魔王ルシファーの剣は強く、簡単に攻撃を受け流されたサイラスは、大きくバランスを崩してしまう!


「どうした! そんなものか!?」


 魔剣によるルシファーの反撃は苛烈を極めたが、サイラスは一瞬の閃きで体を(ひるがえ)し、かろうじて斬撃を受け切る! だが、無理な体勢で攻撃を防いだため、次の斬撃を受け切る手立ては、もう残されていない!


 魔王の笑みを浮かべ、容赦のない魔剣をルシファーは振り下ろす! 万事休すと思われたそのとき、後詰めの助太刀に駆けつけ、間一髪で間に合ったキングの聖剣が凶刃を防ぎ、返す刀でルシファーの首を刎ね飛ばした!




「何とか間に合ったか。お前がルシファーの気を削いでくれたお陰だ。名を何と言う?」


 身を賭して戦った勇敢なファイターに感謝の言葉をかけたキングは、カリスマ性に満ちた王者の微笑みを向けながら、名を聞く。


「サイラスと言います。王に助けられ、命を拾うことができました。ありがとうございます」

「いや、礼はこちらが示さねばならぬ。もう少しでサイラスという優秀な戦士を失うところだった。私は王としてまだまだだな」


 そう自戒の首振りをした後、キングはサイラスの肩に手を置き、勇猛なファイターの無事と奮戦を讃えた。サイラスは、自分を(いたわ)ってくれているキングの包容力に、危うく感動の涙を落としかけたが、


(ここで泣いたらダメだ)


 グッと情動を抑え、堪えている。


 城内で激しく剣を振るっていた親衛隊は、守るべき魔王が失われると同時に消え去った。


(キングウィル地方を防衛し、ルシファーを討ち取った!)


 激しい戦いが終わり、誰しもがそう考えたその時! 赤い光の球がルシファーの亡骸から突如として抜け出し、禍々しい赤光(しゃっこう)を放ちながら、遠くエルディアの地へ向け、飛び去ってしまった。


「あれは!? ルシファーの本体!?」

「そのようだな……。やはりルシファーは、まだ本来の力を出していなかったか。戦いは続くぞ」


 キングは、激戦が繰り広げられた玉座の間に集まった皆にそう呼びかけると、次なる戦いに向け、王としての強靭な精神力をもって、ルシファー打倒の決意を新たに固めた。


 人間族、妖精族の混成軍は、キングと共に、次なる戦いの地、エルディアへ進軍する。

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