第2話 グロリア開放
窮状に瀕しているアトラシアには時間的余裕がなく、キングの演説が開かれた翌日には、新生正規軍全てに初任務が与えられ、簡素な結団式後、キングウィル城から各部隊それぞれが出陣することとなった。サイラスが所属するファイター部隊も、もちろん重要な初任務を受け、出陣している。
サイラスたちが達成しなければならない重要な任務とは、キングウィル城からほど近い西の町、グロリアを占領し、なおかつ余力を持ってルシファーの城まで、進軍の足がかりを作ることである。
国家予算で召集された正規軍の中において、ファイターは、唯一拠点となる町を占領できる部隊だ。ファイター以外では、国を統べるキングと親衛隊で構成される部隊が、城と町を占領することができるのだが、それは特殊なケースと考えなければならない。盤上遊戯のチェスでは、キングを取られたら負けである。戦場においてもそれは同じで、単騎のキングが城外に出ることはあまりない。
いずれにせよ、事の成否次第でこれから先の戦況が変わってくる。装備を十分に整えたサイラスは、占領任務遂行のため、西の町、グロリアへ急行した。
「町民が皆、歓迎してくれてる……。皆、ルシファーが怖かったんだな。もう大丈夫だ!」
行軍の途中、何者にも邪魔されることなく、サイラス所属のファイター部隊は、順調にグロリアの町へ到着することができ、ルシファーに怯え、キングの軍が帰ってくるのを待ち望んでいた町民全員から、熱烈な歓迎を受けた。サイラスを始めとするファイター部隊は、自分たちに向けられた熱狂的とも言える支持に感動し、大手を振って、町民たちへ応えている。
キングウィル城からほど近い町だったため、魔の手に怯えるグロリアの町を開放し、拠点を構築することには、それほど難もなく成功した。初任務の第一段階を無難にこなしたサイラスとファイター部隊の士気は、上々である。意気揚々となった新生正規軍の戦士たちは、次なる進軍の足がかりを作るため、更に西へ向かった。
ルシファーはキングウィル地方のほぼ西端に位置する城を拠点として、キングとアトラシア軍を滅ぼそうと、魔勢を差し向けているはずだ。ルシファーの首を取るためには、当然ながら地方の西端まで戦線を伸ばす必要があり、新生正規軍にとって、そこまでの道のりはまだまだ遠い。
(ルシファーの軍はまだここまで来ていないとシェリーは言っていたが、この森は移動しづらい……。どうしても悪路に足を取られてしまう)
グロリアの町で少しの休息を取った後、サイラス所属のファイター部隊は、町から見て西方にある、鬱蒼とした森林を進んでいた。グロリアから更に西へ向かい拠点と防衛線を構築するには、移動しづらさを差し引いても、この森林を通るのが一番早い。ただ、その地理情報は、ルシファーの軍も把握しているはずであり、サイラスが森林を進みながら焦りを感じているように、モタモタしていると危険性が次第に増してくる。
斥候としての任務を負ったハーピー部隊所属のシェリーから、確度の高い偵察情報を得ているとはいえ、戦況は刻一刻と変化していく。せっかくもらった偵察情報の鮮度も、時が経つにつれて下がっていき、今の戦況に対応した別の備えが必要になるわけだが、
「敵襲!! ダークハーピー部隊だ!!」
「何だと!」
サイラスが隊長に進言し、ファイター部隊に警戒態勢を取らせようとしていた丁度その時、黒い翼を持つダークハーピー部隊が、鋭い槍先をこちらに向け、上空から襲いかかって来た!
鋭い槍先を向け、上空から急降下してくるダークハーピー部隊の攻撃は、回避困難に見えたが、周囲の仲間からの呼びかけが一瞬早かったため、既のところでサイラスは、急襲をかわすことができた! 森林地帯の木々の幹や枝を利用し、身を上手く守りながら防戦を展開している。
「くそっ! モタモタしすぎたか! 先制をかけられた分、分が悪い!」
森林の地形効果を利用すれば、襲撃を受けたファイター部隊は、防御態勢を取りやすい。サイラスの周囲で戦っている仲間たちも、森の木々を盾にした戦法を心得ているようだが、それでも一定程度の損害を被っている。こちらからの応戦により、敵のダークハーピー部隊も損害を出しているものの、このままでは分が悪く、ターゲットにされたファイター部隊は、全体的な苦戦を強いられていた。
「ファイターたち! 身を低くしろ!」
サイラスとファイター部隊が完全な窮地に陥っていたその時、森の中を駆け抜けてきた後詰めのエルフ部隊が突如として現れ、防戦一方となっている味方の戦士たちに体勢を下げるよう指示を出すと、
「一斉発射!!」
文字通り矢継ぎ早に弓から矢を射ち放ち、ダークハーピー部隊を一掃した! 黒い翼のダークハーピーたちは完全に不意を突かれ、無数に射ち放たれる矢を急所に受けると、次々と地上に落ち、静まり返った森の中で亡骸を晒し始めている。
「危ないところだったな。少し来るのが遅かったら、取り返しがつかなかった」
戦闘態勢を解き、サイラスにそう声をかけた長身のエルフは、クロードと名乗った。先程見せた見事な統率力通り、隊長として、このエルフ部隊を率いているようだ。
「ありがとう! 俺はサイラスと言う。これから、その弓矢で助けてもらうことが多くなるんだろうな。よろしく頼むよ」
サイラスはエルフ部隊の頼もしい救援に感謝を示し、隊長クロードと固い握手を交わした。




