最終話 サイラスの手記
最前線で猛威を振るっていたダークドラゴン部隊は、サーペントとレベルクラウンとなったファイター部隊の連携により、完膚なきまで叩きのめされた。最強の切り札を失い、苦悩の歯噛みをする魔王であったが、更に悪いことに、城周囲を守っていたダークワイバーン部隊も、ドラゴンナイトの迅速な攻撃により打ち破られ、制空権まで完全に消失してしまった。
アトラシア全軍に囲まれたルシファーの本城周りは、もはや四面楚歌となっている。
「正真正銘、最後の決戦だ! ルシファーの首を取るしかない! 行こう! リサ!」
「ええ、行きましょう! アレスのためにも、ルシファーにとどめを刺さないと!」
決着をつけるため心を整えた、サイラス率いるレベルクラウンのファイター部隊と、リサ率いるドラゴンナイト部隊は、既に砕かれた真正面の城門から、魔王が待ち受ける本城の内へと乗り込んだ。
追い込まれたルシファーは、殊勝にも潔くなっているのか、城内へ侵入した魔王討伐部隊の妨害を図らなかった。サイラスとリサの両隊長は、ファイター部隊、ドラゴンナイト部隊全員を引き連れ、ルシファーと親衛隊が待ち構える玉座の大広間へ、難なく到達している。
「ふっ、来たか。サイラス、お前には散々煮え湯を飲まされてきた。私が本拠とするケイオスにおいてもこのザマだ」
玉座に座るルシファーは、この期に及んでも不敵な笑みを浮かべ、ここまで来たサイラスとリサに、魔王の眼光を向けていた。しかしながらその笑みには、まだ何かしらの戦力を隠し持っているという含みはなく、感情的には、ほぼ諦念の極地と捉えられる。
「ルシファー、お前は徒に人を殺しすぎた。その首を取り、とどめを刺さなければ、死んでいった者たちが浮かばれない。覚悟しろ!」
「ふふふっ、言ってくれるな。私にも積年の恨みがあり、お前たちに言いたいことは山程あるのだが……まあいい。いずれにしろ、お前たちは私と相容れない」
サイラスの啖呵を受け、意味深な言葉を紡ぎ、会話を閉じたルシファーは、
「決着をつけようではないか!」
周囲の親衛隊に号令をかけ、その魔剣を抜き放つ!
最後の強大な盾として、選りすぐりの親衛隊を魔王は配置したのだろう。しかしながら、ルシファー討伐部隊も、全員が歴戦の勇士となっている。親衛隊が振るう剣が激烈とはいえ、その攻撃を防ぎ切るのは十分可能だ。魔王の頼みの綱である親衛隊は、ドラゴンナイト部隊とレベルクラウンのファイター部隊の総攻撃を受け、次々と討ち取られていく!
「くっ!? これほどまでに力をつけていたか!」
「ルシファー! その首もらい受ける!」
「アレスの敵! とどめは必ず刺す!」
強力無比なドラゴンナイトリサが振るう鋭槍、歴戦のファイターサイラスが振り下ろす着実な剣、最強のコンビが放つ連携攻撃を受け切る術は、もはや魔王に残されておらず、
「グハッ!?」
リサの槍に胸を貫かれたルシファーは、続けざまにサイラスの斬撃を受け、ついにその首を刎ねられた!
長い戦いは終わり、ルシファーの魂は打ち砕かれた。魔王が復活することは、もう二度とない。
完全制圧したルシファーの本城に入ったキングは、皆にこう呼びかけている。
「全ては成し遂げられた! アトラシアとその勇敢な軍に栄光あれ!」
『アトラシアと賢王に栄光あれ!』
皆を称えるキングの大声に呼応し、多大な苦難を共にしてきたアトラシア全軍も、王と国家を称える勝どきを一斉に上げた! アトラシアは平和と平穏を取り戻したのだ!
キングを中心に、ある者たちは笑い合い、ある者たちは勝利の美酒を飲み合い、アトラシアの完全なる開放を喜び合っていた。皆が踊らんばかりに、大勝利の歓喜を分かち合っていたその時!
アトラシア軍に数々の導きを与えた、戦女神、パラス・アテナの荘厳な姿が空に映し出され、
「あなた方は困難を克服し、よく大事を成し遂げられました。その結束が崩れることはないでしょう。アトラシアの末永い繁栄を願い、祝福を与えます」
そう慈悲深い声で、キングと皆を讃えた。
パラス・アテナが空からかざす女神の杖により、アトラシア全土に温かい祝福がもたらされる……。
サイラスは、静かに閉じた思い出の手記を文机に置き、夏虫のシンフォニーをしばらく聞くともなく聞いていた。やがて心が整い、文机のランプを消して、再び寝室に戻ろうとしていたところ、
「ふふっ、また手記を振り返っていたの?」
レースの寝衣を着た緑髪の麗人が、微笑みながらサイラスに問いかけた。リサである。
ルシファーとの戦いに勝利した後、サイラスはリサにプロポーズした。リサは快くそれに応じ、現在はサイラスの妻になっている。
かつて戦友の関係だったサイラスとリサは、書斎の暗がりの中で、しばらくルシファーとの戦いの思い出を振り返っていたが、
「そろそろ寝ましょう。明日はルークを連れて行くんでしょ?」
「そうだな。思い出はいつでも振り返れる」
そう夫婦の会話を閉じた後、2人の可愛い長男が静かな寝息を立てて眠る、寝室へと入って行った。
翌日の朝。
長男のルークを連れ、キングウィル地方のある町で、伝統の夏祭りを楽しむ、サイラスとリサの姿が見える。
「お父さん、お母さん、あれ買ってよ!」
「ああいいよ。気に入ったのをよく選ぶんだぞ。かえっこは、きかないからな」
サイラスはそう諭すと、出店の棚に並べられているおもちゃを、ルークにじっくりと選ばせた。
息子に慈しみの眼差しを向ける彼のその姿は、平和な時代の父親そのものだった。




