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アトラシア戦記~あるファイターの手記より~  作者: チャラン
終章 決戦の地・ケイオス

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第16話 流せない涙

 アトラシア軍が誇る飛兵総長、カイの身を賭した活躍もあり、第一拠点から見て南東の防衛線は、今のところ死守できている。その命を削って稼いでくれた時間を使い、キングと、サイラス率いるファイター部隊は、向かった方向にある、空城と町の占領を次々と果たした。


 事実上、ある程度の安全性を確保した上で、第一拠点の南西に、新たな拠点が作られた。戦いの主導権を握ったと言ってよい。


 しかしながら、魔軍のダークワイバーン部隊をかろうじて退けたものの、構築した第二拠点から見て東の防衛線は、現在も苛烈な波状攻撃を受けており、ここで手をこまねいていれば、いずれ突破されてしまうのが目に見えている。


「余剰戦力を東へ送る。各部隊とも至急援軍に向かってくれ」

『承知致しました!!』


 第二拠点周辺の防衛線も、敵勢力から攻撃を受けている最中(さなか)だが、キングを守る目的で、こちら側へ多めに兵力を分割したため、空城と町の占領を果たした現在、部隊に余裕が生じている。自軍がおかれているその状況を全体的に把握したキングは、周囲の余剰戦力へ素早く指示を出し、東の防衛線を再構築するための、援軍を派遣した。




 一進一退の苦闘とはこのことであろう。リサ率いるシルバーナイト部隊を中心に、主力の統合地上部隊は奮戦を続けていたが、魔軍の増援は多く、次から次へと湧いてくる。流石は魔王の本拠地ケイオスである。敵は地の利を十分に生かし、こちらの防衛線を突破せんと、波状攻撃を途切れなく加え続けていた。


「ハアアアァァァッッッ!!」


 リサは統合地上部隊の総長としての責任を果たすため、その鋭槍(えいそう)を最前線で振るい、多くの敵を屠ることによって、全体の士気を高めていた! だが、リサとシルバーナイト部隊の奮戦があるとはいえ、東の防衛線はまだ十分な厚みで構築されておらず、このままでは打ち破られてしまう。


「ハアッハアッ……」


 幾度も幾度も鋭槍(えいそう)を振るい魔軍を跳ね除けてきたリサの、疲労の色は濃くなっていたが、ここで引き退がるわけには絶対にいかない。決死の覚悟で緑髪の女騎士が、湧き続ける魔軍に再度槍をつけようとしたその時! 


「えっ!? この光は!?」


 戦いの女神パラス・アテナが恩寵の光を暗雲の切れ間から与え、シルバーナイト部隊は最終クラスのドラゴンナイトへとクラスチェンジした! 身を賭して奮闘し仲間を守る、リサとシルバーナイトたちの勇姿を、(いくさ)女神は見捨てなかったのだ。


 パラス・アテナの恩寵により、(またが)る愛馬は魂をそのままに、小型ドラゴンへと姿を変えた。女神が起こしたその奇跡も信じられなかったが、リサは何より、自身が獲得した多大な力が信じられず、


(これは夢か? いや、そうではない!)


 戦場に居ながらも、(うつつ)を取り戻すのに、少し時間がかかったほどだ。


 自身と部隊の仲間たちが得た大きな力を用い、ドラゴンナイトのリサは、アトラシア軍の切り札として、獅子奮迅の活躍を戦場で見せ始めた! ドラゴンナイト部隊の強さに導かれ、戦況は光の軍の優勢に傾きつつあったが、その流れを()き止めんと、前に立ちふさがった者たちがいる。


「アレス……!」

「…………」


 リサのかつての親友、アレス率いるダークナイト部隊だ。邪悪に染まった黒騎士は、子供の頃から遊んでいたリサと対峙しても、無反応無表情のままである。ルシファーに操られているのは間違いないが、恐らくはその呪縛の力が強く、過去の記憶すら封印されてしまっているのだろう。


「あなたがどういう経緯をたどり、そうなってしまったのかは分からない。だけど……もう戦うしかないのね?」

「…………」


 アレスは、リサの問いかけへの答えとして、無言で槍を突きつけた。その答えを見たリサは、深い悲しみの表情を浮かべるが、


「分かった……容赦はしない! 本気で行くぞ!」


 槍を構えた次の瞬間、彼女の顔は、かつての親友へ引導を渡す鬼神のものへと変わっていた!


「ハッ!!」

「……!?」


 歴戦の手練れ同士の戦いであったが、決着はすぐについた。戦場で比類ない実戦経験を積み、ドラゴンナイトにクラスチェンジしたリサにとって、ダークナイトのアレスは、もはや敵ではなかったのだ。


 数合も槍を打ち合わせることなくアレスは倒され、ぐったりと力を失った体を、馬からドサリと野辺に落とす……。




「リサ……」

「アレス!? 呪縛が解けたのね!? 待ってて! 今、プリーストを呼ぶから!」


 力ない体を野辺に落としたアレスは、邪悪の呪縛から解き放たれ、記憶と正気を取り戻した。息絶え絶えとなりつつある親友の体を抱き支えるリサは、周囲に回復魔法が使える仲間のプリーストがいないか探していたが、アレスは彼女の腕を弱々しくつかみ、首を横に振った。


「アレス!?」

「いいんだ、リサ……。俺はもう助からない。それは、君が一番よく分かっているはずだ」


 リサが振るった槍は、確かにアレスの急所を深く貫き通している。恐らくは、瀕死のダメージを負ったことで強いショックを受け、アレスはルシファーの呪縛から解放されると同時に、かつての記憶を呼び覚ましたのだろう。


「強くなったな、リサ。俺を倒してくれたのが、君でよかった。その力なら、ルシファーを必ず倒せる……。たの……んだぞ、リ……サ……」

「待ってアレス!! 目を閉じないで!!」


 リサの叫びも虚しく、アレスは彼女の腕の中で事切れた。悲しみに暮れたリサは、アレスの亡骸にすがり、その場で泣き叫びたかった。しかし、


(泣いている暇などない! ルシファー! 必ずお前を倒す!)


 親友の亡骸をそっと野辺に置くと、涙を堪え、再び戦場へ舞い戻る。


 悲しみの鬼神と化したリサの槍撃に、もはや慈悲はない。




 悲しみを乗り越え魔軍を屠る、ドラゴンナイトリサの槍撃は凄まじかったが、更なる増援として、新たに雇い入れられた空の王者ワイバーンも西の城から飛来し、高熱のブレスで敵を焼き尽くしていく!


 強力な増援部隊の飛来により、ここに来て戦況は、一気にアトラシア軍優勢に傾いた。防衛線の南下スピードも増してきている。また、西の城から余剰戦力と共に移動してきたキングとファイター部隊は、東の空城と周辺の町々の開放を迅速に行い、第三拠点の構築にも成功した。


 堅固な基盤を築き、戦況はアトラシア軍の優勢で揺るぎない。そう思われたのだが、


「ダークドラゴンだ! こっちに向かって来るぞ!」


 押されている魔軍も、奥の手を出してきた! ルシファーが新たに召集したのは、炎の邪竜、ダークドラゴン。獄炎の破壊神とも称されるダークドラゴンたちは、アトラシア軍の小型竜族リザードマンや、小型妖精族などの部隊を、次々と蹴散らし、最前線へと進んでいく!


 炎の邪竜が吐きつける、獄炎ブレスの威力は凄まじいが、アトラシア軍側にも対抗手段はある。第三拠点に入り、側近から状況を聞いたキングは、即座に水竜サーペントの雇入れを決断した。サーペント部隊は大川(たいせん)に入ると、ダークドラゴンたちが近くを通るのを見計らい、


「グオオオンンッッ!?」


 どんな者をも凍りつかせる、極寒の氷結ブレスを浴びせかけた! 凍てつく極寒ブレスをまともに受けたダークドラゴン部隊には、大損害と混乱が生じている!


「今がチャンスだ!」


 サイラス率いるファイター部隊は、この機を逃さず、深い凍傷に苦しみ、のたうち回る炎の邪竜たちを総勢で斬りつけ、とどめを刺した!


「この光……この力は!」


 今まで数多(あまた)の危地を克服し、竜退治をも達成したサイラスとファイター部隊に、パラス・アテナは一筋の祝福の光を与える。


 戦女神の祝福光を受けたサイラスたちの剣には、最強ランクのファイターの証、クラウンの称号が刻まれた!

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