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アトラシア戦記~あるファイターの手記より~  作者: チャラン
第3章 トラス平野を越えて

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第12話 なぜあなたが!?

 一時、膠着状態が続いたが、今の戦況はアトラシア軍の優勢にハッキリと傾いている。しかしながら、トラス平野南部におけるルシファーの支配力は、依然として強大だ。ルシファーの居城から戦線へ送られてくる援軍も(いま)だに多く、乱戦が続いているため、状況はいつ変化するか分からない。現時点では、最前線に展開中の全部隊とも、油断は全く許されない。


「あれはダークナイト部隊!? 魔軍の中では珍しい兵種ね。先制をかければこちらが有利だが……」


 遠目に敵勢力の新兵種を発見したシルバーナイト部隊のリサは、周囲の仲間と示し合わせ、先制の騎馬突撃をかけようとしている。禍々しい邪気を発しているダークナイトは、シルバーナイトと同じく騎兵である。相当程度大きな戦力を有していると予想されるが、ダークナイト部隊はこちら側にまだ気づいておらず、迅速な先制攻撃を仕掛け、機先を制すれば、撃破は可能であろう。


 リサは周囲の仲間と示し合わせ、発見した一騎のダークナイトに突撃をかけようと馬を走らせたが、


「えっ!? あなたは!?」

「…………」


 邪悪に染まったその黒騎士の顔を見た彼女は、戦意を失い、馬を止めてしまった。一瞬の油断で命を失う戦場において、リサが取った行動は許されるものではない。しかしながら、眼前の信じられない現実に衝撃を受けたリサは、我を失いかけており、


「アレス! そこで何をしてるの!? 私よ!? リサよ!?」

「…………」


 ここが戦場であるのを忘れ、必死の形相で、目の前のダークナイトに呼びかけるばかりだ。だが、アレスと呼ばれたダークナイトは無反応で、一言も発しないまま、戦意が戻らないリサに対し鋭槍(えいそう)を突きつけてきた!


「アレス!? どうして!?」


 リサは鋭い槍先を向けられてさえ、我を忘れ、ダークナイトの名を何度も呼びかけている。


(リサは完全に正気を失っている! 目を覚まさせないと!)


 心乱の最中(さなか)にあるリサの様子を側で見たサイラスは、そう咄嗟(とっさ)に判断すると、剣を抜き、ダークナイトに側方から突貫をかけた! サイラスは、捨て身の攻撃をかけると同時に、


「リサ! 今はとにかく戦え! 槍で応戦するんだ!」

「!!」


 リサに活を入れ、戦意と正気を取り戻させている。ファイターとシルバーナイト、2人がかりの息の合った連携攻撃を受け、不利を悟ったダークナイトは、馬を後退させ距離を取ると、


「…………」


 無表情、無感情のまま、駒を返し、その場から逃げ去った。危地を脱したリサは、遠ざかり、小さくなっていく黒騎士の様子を、ただ呆然と見過ごしている。


「いったいどうしたんだリサ? あのダークナイトは?」

「私にも分からない……。でも、確かにあれは、私の親友、アレスだった……」


 リサは顔をうつむかせ、心を沈ませていたが、しばらくして精神の安定を徐々に取り戻すと、自身の心奥を整理しながら、サイラスの問いかけに少しずつ答え始めた。




 リサの出身地は、トラス平野地方の小さな港町なのだが、近年、勢力を増大させてきたルシファーの魔軍に追われたため、彼女はキングウィル地方に移り住んできた。リサはそうした辛い過去を、親しい戦友となったサイラスに、以前、打ち明けたことがある。


 リサが暮らしていた小さな港町には、子供の頃から彼女を様々な面でサポートしてくれる、親密な友人がいた。それが先ほど、凄まじい槍技で2人を攻撃してきた、ルシファーのダークナイト、アレスだと言うのだ。


 リサは、かつての親友の変わり果てた姿を見て、まだまだ精神のバランスを取り戻せておらず、無理はさせられない。サイラスにしても、リサから初めて打ち明けられた驚愕の経緯に、戸惑いを隠せなかったが、


(俺まで休んでいるわけにはいかない)


 そう自分の心に発破をかけ、戦気を奮い立たせている。サイラスは、心身が回復するまで後方で待機するようリサに指示した(のち)、優勢となっている戦況をこのまま維持するため、再び最前線へと駆け走って行った。




 戦いの最中、思わぬ邂逅(かいこう)があったものの、その事象が大勢に影響を及ぼすことはなく、最前線のアトラシア軍は、変わらず奮闘を続けている。ソーサラー部隊のヴィオラと、モンク部隊のハンも、それぞれが得意とする攻撃魔法バル、回復魔法ユンクを駆使し、戦場を駆け巡りながら実戦経験を重ねていた。その対照的な力を持つ両魔法部隊が、各部隊の支援を続けていた丁度その時!


「えっ!? 何なの!? この温かい光は!?」

「これは……。(いくさ)女神の恩寵か!?」


 空から降りてくる一筋の光がヴィオラとハンたちを包み込み、ソーサラー部隊はメイジに、モンク部隊はプリーストにクラスチェンジした! 戦いの女神パラス・アテナが、それぞれの魔法部隊に力を与えたのだ!


 クラスチェンジにより魔力が上昇したメイジとプリースト部隊は、各地形の移動コストを無視する、空中移動能力を共に身に付けることができた。文字通り、地上を飛ぶ形で動けるため、両魔法部隊の移動力は、クラスチェンジ前とは段違いに向上している。これからは軍の主力として、両部隊とも働いてくれるだろう。


 対照的な2兵種の魔法部隊それぞれが、メイジとプリーストにクラスチェンジしたことにより、戦況は更に、アトラシア軍の優勢へと傾いた。勢いに乗った全軍は、防衛線を一気に南下させ、ついに、トラス平野南端に位置するルシファーの居城を取り囲んだ!


「追い込んだわね。もう少しってところかしら?」

「そう思いたいが、魔王のことだ。まだ奥の手を隠し……何だあれは!?」


 ヴィオラとサイラスがルシファーの居城を望み、そう話していたその時! 突如として、城の西に広がる毒の沼地から、雄鶏と蛇をかけ合わせたような、おぞましい姿のキメラ動物が現れた!


「あれは、コカトリス……。ルシファーのペットだな」

「コカトリスって、石化の息を吐くやつか!? 本当にいたとは……」


 冷静に解説するハンの傍らで、エルフ部隊の隊長クロードが、珍しく呆然としているが、こちらにそんな猶予は残されておらず、今すぐ戦闘態勢を取らなければならない。だが!


「ケー!! ケッケッケッ!!」


 コカトリスは、けたたましい鳴き声を発しながら、先制の石化ブレスを、リザードマン部隊に激しく吐いてきた! コカトリスのブレスをまともに受けた小型竜族たちは、断末魔の叫びを上げることなく、微動だにしない石の彫像と化してしまう!


「くっ!? 畳み掛けるしかない! 行こう!」

「そのようね。総力を挙げて倒しましょう」


 戦って打ち倒さなければ、ここで終わりだ。勇気を振り絞り、剣を抜いたサイラスは、ヴィオラやハンに呼びかけ、協力を求めると、恐怖のキメラ動物へ向けて突貫する! メイジやプリースト、それに先ほど最前線に駆けつけたシルバーナイトのリサも、ファイターサイラスの後に続き、攻撃を畳み掛けた!


「クワーッ!?」

「やったか!?」


 アトラシア全軍が力を尽くし、総攻撃をかけた結果、ルシファーの愛玩動物、コカトリスは絶命した!


 禍々しい巨大キメラは、ドスンと鈍い音を立て、その亡骸を大地に晒し始めている。

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