0章 最終話
屋上の光景が視界に広がる。まず見えたのは大勢の人々だった。そしてその大群の前に視線を送ると、屋上の安全柵の上に立っている彼女が視認できた。
僕は彼女を視界に入れて、能力を発揮しようと努力した。でも時は既に遅かった。
「さようなら」
遺言を空に揺蕩わせて、彼女は羽根もないのに、空に飛翔したのだ。もし羽根のない人間が空を飛べば、一体どうなるか。
「待って!!!」
という僕の言葉も、既に彼女の耳に届くはずもなく、ただ空虚に虚空を貫いて、霧散していった。
僕は走って安全柵まで移動すると、それを両手で掴みながら、凄惨な地上の光景を目撃した。校庭に衝突して血まみれになった姿の彼女。
「!!!」
それは、EQ200の天才である自分が招いた最悪の結果だった。個人ではなく全体の為に、高いEQを利用しようとしたのに、最終的には、いじめっ子を死に追いやり、いじめられっ娘が追うようにして自分で死を選んだ。
「ど、どうして……」
理解できなかった。
僕は彼女が飛び降りるのを目撃した後、屋上の地面に身体を伏せて、嘔吐した。自分の行った行為に対して、激烈な後悔、反省をしたのだ。
「ぜ、絶対に……」
僕はなんて愚かな事をしたんだ。
EQ200の天才でも、人間の感情を完璧に予測することは出来ないのだ。
「絶対に、彼女の死を無駄にしない……」
だからこそ、僕はこれからも人間を操作し続ける。
そして創り上げるのだ、理想の社会を。
誰も不幸にならずに、幸せに暮らせる社会を。
その為ならば、EQ200の天才が、僕が、犠牲になってもいい。
そしてEQ200の天才の、小学校時代に幕が閉じた。