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第70話 曲芸の訓練

作品タイトルは適当です。懐かしい響きの題名にしてみました。

多分、内容とは関係ないと思います。


 竹馬に続いて玉乗りの訓練をやるとなると、絶対にサーカスの曲芸師にさせ

られるんだ、俺達は道化師になるのか? などとくだらない事を三人は考えて

いたが、更にサンダー教官は言葉を続ける。


「ジャグリングとナイフ投げ、綱渡りや人間大砲、空中ブランコなんかも

 やるか? 空中ブランコはサーカスの花形だ、人気者になれるぞ。

  ジャクソン、お前は他の二人よりも身体がデカくて腕力が強いから、

 向かい側のブランコで逆さになって二人を受け取める役目をやるか?」

 |(英語)


 教官は、いつものニヤけた顔で言い放った。恐らく俺達の考えを頭の中の

機械で読み取って戯けて言った冗談なんだろう、と三人は高を括っていた。


「残念ながらこの月基地内は火気厳禁だ、酸素を無駄に消費したり空気を汚

 す訳にはいかんのだ。なので火の輪くぐりは無理だ、ついでに猛獣使いも、

 熊やライオンやトラや象などが居ないので、出来ないな。それ以外はやる

 ことにするか?

  まぁなんだ、所謂体術の応用訓練だな。ただ走る・歩く・腕立て伏せ等

 で身体を鍛えるだけよりは、やり甲斐や張り合いも出るんじゃないかと、

 俺が考案した訓練方法だ。どうだ面白そうだろ?」|(英語)


 おいおい、嘘だろ? このニヤケ顔の教官、冗談ではなくて本気で言って

るのかよ? ジャグリングやナイフ投げは何とか出来そうだが空中ブランコ

は流石に素人には無理では? 人間大砲って、本当に飛ばされるのかよ...

 そもそも、この基地の中にそんな大掛かりな事が出来る設備があるのか? 

いや、俺達が知らない場所か施設が、まだ何処かに隠されて有るのかもしれ

ないな、と三人は辟易とした苦虫を噛み潰したような顔になっていた。


「先ずは竹馬と玉乗りだ、それを完全に乗りこなせるように成れ。ついでに、

 ナイフ投げとジャグリングもだ。どんな不安定な体勢や姿勢状態でも確実

 に相手を狙って撃つ、それが歩兵や狙撃兵もしくは戦闘ヘリや戦闘機乗り

 ってもんだろ。

  それにヘリや飛行機のパイロットが空間識失調に陥ると、墜落する事も

 あるそうじゃないか。平衡感覚と空間認識力と、どんな時にも正確に計器

 を読む判断能力を鍛えるのに、サーカスの曲芸鍛錬は意外と良くないか?

 違うか、ジャクソン?」

 |(英語)


 サンダー教官は、四つん這い(orz)の姿勢で膝を付き、右手で頻りに尻

を撫でているジムに向かい、人差し指を突き出して総説明した。そして、

その指をクルクルとゆっくり回して宙で円を描いている。

 なるほどな、そう云う事か面白いじゃねーか、そうと解ればやってやる!

と意気込んだのか、ジムは強かに打ち付けて痛む尻を擦っていた手を止めて、

すっくと立ち上がり傍に有った白い玉に再び手をやる。

 その姿を見ていた雄二と陳も、渋々と玉に手をかけて四つん這いの姿勢に

なってそこから足を乗せて立ち上がって乗ろうとした。しかしながら、玉は

コロンと転がりその上に乗っていた二人も転がり、殆ど同時に頭から落ちて

その下敷きになる。


「うべっ!!」|(日本語)

「ふぎゃっ!!」|(広東語)


 い、痛い痛い... 雄二は何とかして白い玉を押しのけて、月面基地の

床をゴロゴロと悶絶躄地しながら、頭やおでこを両手で抱え擦って撫でる。

それに押しのけたこの白い玉はかなり重い。先程、雄二はどんな構造かを

気にかけていたが、どうやら中空ではなくてボウリングの玉のように中身

がみっしりと詰まっているみたいである。その下敷きになったのだ、変な

声が出てしまうのも当然であろう。


「おい、お前ら大丈夫か? 転け方は地味だが、かなり痛そうだな...

 マイケル待ってろ、今すぐその玉をどけてやる」|(英語)


 ジムは、白い玉ごと転がりその下敷きになった痛みに悶えている二人に声

を掛けた。そして、まだ自分では玉をどかせられず下敷きになったまま手足

をジタバタしている陳の上の物を動かしてやった。そうしながらも、まだ自

分の尻を頻りに擦っている。教官の言葉でやる気は出たみたいだが、先程玉

から落ちて尻餅をついたのはかなりの痛みだったのだろう。


「おいおい、痛そうだな、まぁ頑張れよ。玉乗りのコツは、両手を左右に広

 げて背筋を伸ばして遠くを見て自分の重心を玉の真上にすること。あとは、

 小刻みに足を動かして平衡を保って玉が転がらないようにする、かな?」

 |(英語)


 余りにも情けない三人の姿を目の当たりにした教官は、やれやれという

呆れ顔をしながら首を左右にゆっくりと振りながら説明してやった。この鈍

臭い三人に、俺さまのありがたい指導の講釈でも垂れてやるかな、と更に話

を続ける。ただし、玉への乗り始めや、上に乗った後の立ち上がる方法など

肝心な事の教授はしない。


「それから、竹馬として使った棒を支えにして玉に乗っても構わない。

  何というのか綱渡りする時に長い棒を水平に持って平衡を保つ、あんな

 感じか? あの棒は、昔のラジオのロッド・アンテナみたいにある程度は

 伸縮が出来るんだ、自分の好みの長さにして使えよ。

  それに裸足になって猿みたいに足の指で玉を掴んで乗るのも構わん。

 別にそれらを反則行為(チート)とは言わん、許可するぞ。

  それにしても、伸縮自在な棒を持って玉に乗る姿は、まるで西遊記に

 出てくる雲に乗って空を飛ぶ孫悟空だな、チェン、そうは思わんか?」

 |(英語)


 その言葉を聞いた陳は、教官はアメリカ人で元軍人なのに中国の古典の

西遊記まで知っているとは意外と博識なんだな、と変な所に感心しながら

痛めた頭をまだ擦っている。


「筋斗雲に乗る孫悟空ですか。あんな風に器用になれればなぁ・・・

  それにしても、あの棒って伸びるんですか、ロッド・アンテナみたいな

 段々構造ではなかったと思いますが・・・ 本当に孫悟空の如意棒みたい

 に伸びるのかな?」|(広東語)


 教官に質問された陳は、いまだ痛む頭を撫でながら答える。まさか、あの

竹馬として使っていた棒、耳の中に入るほどに小さくは成らないないよね?

と疑問に思いながら。


 その一方で教官のそのありがたい助言か説明を聞いたジムは、一人だけ用具

入れに向かって一目散に駆け出した。そして、その中に入っている竹馬として

使っていた棒を三人分、計六本を両手で抱えながら戻ってきた。

 その棒を二本ずつ雄二と陳にも渡し、ほらお前らも使え、と声を掛けた。

え、これをどうするの? と雄二と陳の二人は、棒を受取り呆然としていた。

 二本の棒を持ってぼうっとしている二人を余所にして、ジムは行動に出た。

持ってきたその棒をスキーのストックみたいに両手で二本を持ち、それを支え

にして玉の上に乗って直立しようとした。

したのではあるが・・・


 ずっでーん!


 不意に動いた玉のお陰で、ジムはバランスを崩して先程よりも派手に後ろ

向きに転倒し、轟音が訓練場に響き渡った。両手に二本の棒を持っていたの

で、腕で受け身を取れなかったのが災いしたのだ。プロレス技のひとつの

岩石落とし(バックドロップ)を、自分一人でやった様なものである。

後ろ向きに倒れて、背中を月面に壮大に強かに叩きつけた。

 これは痛そうである。持っていた二本の棒を投げ出し仰向けの大の字に

成り、束の間ジムは微動だにしなかった。


 その一部始終を横で見ていた陳は、啊喲(アイヨー)!と叫び、持って

いた棒を思わず手放して落とし、両手で顔を覆って頭を左右に振った。

彼には文字通り目を覆いたくなる程の惨状だったのであろう。雄二も顔を

歪め、反射的に目を背けてた。余りにも凄惨な転倒で見ていられなかった

のだ。もしかしてジムさん死んじゃったの? と思った程だ。


「ブハッ! ㇵァッ、ㇵァッ・・・」|(英語)


 そして暫くして、ジムは息も絶え絶えに苦しそうな顰め面で悶えた。

どうやら呼吸はしてるみたいである。


「じ、ジムさん、大丈夫ですか? 今のは物凄く痛そうでしたけど、息は

 できていますか? 頭は打ってませんか? 動けますか? もしかして、

 どこか骨は折れてませんか?」|(日本語)


 心配になった雄二は、持っていた棒を放り投げて痛めた自分のおでこを

擦りながら、仰向きに倒れて全く動かないジムに駆け寄り、声をかけた。

 これは直ぐ動かして良いのか、いや駄目なのかな? 救急車を呼ぶの?

そもそもこの月基地に病院あったっけ? お医者さんは居たんだっけ??

等と色々と逡巡して見守った。


「ぅぅぅ、ぃららぁ... ら、らぃじょゔぶら... ボン゙ダ、ずばん゙な゙。

 グジョッダレ゙だま゙ざれだ、ごれ゙普通び乗るぼゔが簡単な゙んらねぇか?」

 |(英語)


 雄二の問いかけから少し経って、息をするのも辛い程の痛みの所為か、蚊の

鳴くような消え入りそうな声で答える。雄二は最初、彼の呂律が回っていない

話し方を聞き頭を強打したのか? と心配した。幸いな事に頭部や首は骨折は

していない様子だが、かなり痛そうである。鍛え抜かれた筋肉達磨でムキムキ

マッチョの巨漢のジムでも、涙目で眼が真っ赤になっている。

 動かしても大丈夫そうだったので雄二は彼の右腕を持ち助け起こそうとした。

だが、その筋肉質の巨躯が故に無理だった。今の自分たちに掛かる重力加速度

は、地球よりも強く2Gなのである。ジムの体重は、200kg近くに感じる。

いくら慣れたとは云っても、流石に一人で彼を抱え上げるのは無理である。


 ジムのか細い声を聞き、目を覆っていた陳もあとから駆け寄ってきた。雄二と

陳の二人で両腕を支えて抱えてもらい、彼は何とか上半身を起こした。暫く胡座

をかいた姿勢で痛みが和らぐのを待ち、その後ジムは二人に頷き、もう大丈夫だ

と言ってゆっくりと立ち上がった。


「おいジャクソン、俺は反則行為(チート)とは言わん、と説明しただけだ。

 騙したとは、人聞きが悪いな。簡単になると教えたつもりは無いぞ。お前が

 早とちりして、勝手に勘違いで間抜けな事をやっただけだ。

  お前の身体の中の機械で確認したが、脳震盪や脳挫傷にも成っていないし

 どこの骨も折れてない。ほら、どんどん乗れよ! 最初は、四つん這いから

 でも構わんぞ。だが、そのやり方が簡単かどうかは知らないがな」

 |(英語)


 おいおい、さっきのあの講釈を本気にしたのかよ、冗談のつもりだったし、

平衡を保つのに水平に持てよ、と言った気もするが・・・ 真に受けたのかよ

馬鹿なのかコイツは・・・  と教官は、少し呆れた顔でジムに語りかけた。

 教官は、思い切り背中を強打したジムの姿を観て、彼の身体の中の人体機能

補助強化小型装置を自分の中の同装置を使い、生命の徴候(バイタルサイン)、つまり呼吸数、

血中酸素飽和度、血圧、体温、心拍数、脳波、意識状態、並びに骨折の有無

などを読み取り、一応は大事が無いことを瞬時に確認・把握をしていた。

 ついでに、間抜けな三人に対して、後ろ向きには転けない方が良いぞ、頭から

落ちて打ち所が悪い場合は下手すると死ぬぞ? と取り敢えずの忠告はした。


「教官その助言はもっと早く言ってください。ジムさん死んでしまいます...

 いや、さっきのは本当に死んじゃったかと思いましたよ。

  つ、ついでに俺とホンダさんも、思い切り頭を打ったんですけど。

 あの玉も、凄く重たいから下敷きになって肋骨が折れそうになったし!」

 |(広東語)


 陳は、もしかすると自分もジムと同じ様な酷い目に合ってしまうのでは、

と少し恐怖し、近くにある白い玉に指をさしながら教官に苦言・不満を吐く。


「お前ら、これくらいで死ぬなよ、情けない。それで一人前の歩兵になれ

 るのか? まぁ危なそうなら最低限の補正はしてやる、だから怖がらず

 に乗れよ。今のジャクソンも大丈夫そうだから、何もしなかっただけだ。

 仮に骨が折れても直ぐにくっつけてやるから問題はない、心配するな」

 |(英語)


 優しいのか厳しいのか怖いのか酷いのか・・・判断に苦しむ、と言いたげ

に三人は顔を見合わせて苦笑いをした。

 死なないと保証されているなら、一応は大丈夫かな? 重力いや引力制御

なのか? 原理は解らないが、それで首が折れたり頭が割れない様にもして

くれるのか、もし危なそうなら宙に浮かしてくれるのか? と訝しんでいた。

 でもなぁ、転んだ時の痛みは緩和してくれないんだよな、そこだけは頑な

に絶対にやってくれない、痛がらせでないのは解ってはいるけど。

 だが、夜に寝て次の朝に起きると筋肉痛にも成っておらず、打ち身や捻挫

擦り傷程度はすっかり治っている。身体の中に入れられた、あの小さい機械

の身体修復機能は凄い。成長ホルモンを強制的に大量に分泌させて治癒力を

大幅に促進しているのか、それとも地球ではまだ本格的に実用化すら出来て

いない万能細胞で無理矢理にでも補修・修繕・再生治療? しているのか。


「じゃぁ乗りますよ。本当に死なないんですよね? 嘘じゃないですよね?

 絶対に本当に本当に嘘じゃなく死なないんですよね?」|(日本語)


 雄二は念を押すように詰め寄るが、サンダー教官は鰾膠も無く言い捨てた。


「煩いな、さっさと玉に乗れよ。俺が”大丈夫だ”と言ったんだ。

 早くやらんと、お前らのケツを蹴り飛ばすぞ?」|(英語)


 ニヤけながら、野良犬を追い払うように手の平をひらひらとさせている。

ジムはその言葉を聞いて、ビクリと反応して自分の尻を両手で庇う。最初に

転けて尻もちを付いた時の痛みは、相当なものだったのか。

 その教官の指示ではなく叱咤もしくは下命なのか? それに従い、三人

とも眉を顰めて渋々とまた嫌々ながら、白い玉に手をかけて訓練を再開した。

 ジムは、もう棒を使うのを諦めたのか横に置いた。今回は白い玉をしっか

りと両手で持ち動かないように抱えている。そして、ゆっくりと慎重に左脚

の膝小僧を玉の上に乗せ、その上で四つん這いの姿勢になろうとしている。


「よーし、次は、そうっと静かにゆっくり、右脚の膝を...」|(英語)


 ジムは自分自身に言い聞かせるように、ブツブツと呟きながらその言葉

の通りに動いている。かなり用心深く慎重にゆっくりと。


「よし! こうだ、出来た!」|(英語)


 と叫んだ瞬間、四つん這いの姿勢で前方に玉がゴロリと転がり、先程の

陳や雄二と同じ様な姿勢で、頭から床面に転けた。またしても受け身を取る

ことが出来なかったようだ。


 ゴツン! 


 と良い音が訓練場に鳴り響く。ボウリングの下手くそな人間が、レーンに

玉を投げ落とした時の音に似ている。


「ぅうぁぁぁ、ぃぃぃ、いっ痛えぇぇぇ!!」|(英語)


 ジムも雄二や陳と同じ様に頭を強かにぶつけて痛めたのか、両手で頭を抱

えて床面で呻吟して、必死におでこや頭頂部を擦って痛みを誤魔化そうとし

ている。

 彼の髪型は、陸軍式のツーブロックのGIカット、耳の上5cmくらいは殆

どバリカンで剃り上げたような丸刈りに近く、頭頂部でも1cm弱程の長さ

である。その短髪の為か、他の二人よりも頭部に伝わる痛みは強く酷いのか

もしれない。殆ど頭皮を直に床にぶつけたのに近いのだろう。先ほど背中を

強打し悶絶した時と同じ様に、また眼を真っ赤にし涙目に成っている。


 どうもこの白い玉は、地球の自動車や機械などの軸受に使用されるボール

ベアリングの外径と内径の摩擦抵抗を減らすために入れられている玉並みの

真球度があるのか、少しでも平衡を崩したり力が加わると即時に転がるみた

いだ。しかも、地球で運動に使われているバランスボールとは違い、ジムの

ような巨躯の男が上に乗っても、ほんの少しも凹んだり歪んだりなど変形は

しない。完全な真球に乗るのである。


 月面基地の床面も滑らかで完全に水平で、白い玉や上に乗る人間の重さな

どでは、全く凹みもしないし傷も付かない。白い玉と基地内の床面の摩擦係

数も限りなく低い。ほんの少しの力で白い玉は転がるのである。トレーニン

グジムや家で椅子の代わりにバランスボールに乗るのとは訳が違い、かなり

難易度が高いのである。あのボールは中空構造で人が上に乗ると変形し、床

との接地面積が広がる。だから、意外と簡単に上に乗れるのだ。


「教官殿、お願いがあります! 頭部を守るためにヘルメットかヘッドギア

 の装着の許可を頂きたく存じます!」|(広東語)


 ジムの痛ましい姿と自らの痛い経験からか、これは危険だと察知し何故か

軍隊調の喋り方で、陳はサンダー教官に懇願している。両方の腕を身体の横に

ピタリと付け両手の指先までピンと伸びし両方の足の踵をもピタッと揃えた、

正に絵に書いたような完全直立不動の起立の姿勢である。

 その姿を観た雄二は、え、何どうしたの陳さん? と吃驚仰天した表情で

あったが、いやいや、そうだ! と頭を振り思い直して彼の真横に並び、全く

同じ様な姿勢を取って教官に嘆願・懇請・懇願・直訴した。


「教官殿、自分からも具申致します! これは危険であります。頭が割れてし

 まいます。我々の頭がいくつ有っても足りません。何卒、顔面及び頭部保護

 の為にヘルメット着用の許可を頂きたく存じます!」|(日本語)


 そう言うと最後に雄二はその場で土下座した。隣のその土下座姿を観た陳も、

はっ! と意表を突かれたような顔になり、同じ様に膝を付き両の手の平を床

に付いて頭をその間に入れておでこもつける姿勢になり、更に頭を何度も地面

(ではなくて月面か?)の床に打ち付けた。

 雄二と違い、陳のやっているのは、中国の昔ながらの叩頭(こうとう)か、

いやそれとも、三跪九叩頭(さんききゅうこうとう)の礼かもしれない。

それ程までに何度も頭を上げては月基地の床面に押し付けている。


「お前らなぁ・・・ 根性や矜持って物が無いのか? 諦めるのが早すぎだ。

 補助するから死なない、仮に骨が折れたり頭が割れても直ぐにくっつけて

 やる、とさっき言っただろう?

  仕方がない、解ったよ。お前らの気持ちが落ち着くんなら、そうだなぁ、

 道具入れの中の何処かにヘルメットみたいに頭に被る物が入ってる筈だ、

 それを使え。確か今もまだ残っているだろう、廃棄した覚えはないからな。

  言っておくが、被っても被らなくても、変わらないぞ? それがあれば、

 納得して玉乗りの訓練を続けるんだな?」|(英語)


 教官は、頭を床に擦り付けている二人に、親指を立ててくいっと後ろの道具

入れの方に向けてあっちだと示しながら、顔を歪めて吐き捨てるように言った。

その後、不思議な事に懐かしそうな表情に変わり、左手で自分の顎を撫でた。

 一方ジムはその時、まだ白い玉の横の床で寝転んで頭を抱え、手の平で擦り

痛みにのたうち回っている。


「ありがとうございます! 神様、仏様、サンダー教官様!」|(広東語)


 原住民が神に祈る時のように両腕を前に出して、頭と一緒に何度か上げ下げ

してひれ伏しながらながらそう言うと、陳は道具入れに向かって一目散に走っ

ていった。雄二はその様子を土下座の格好のまま首を起こして見て、あんなに

速く走れるんだ、先程のジムさんよりも素早いよね、と妙なことに感心した。

 暫くの間、陳は道具入れの中に姿を消した。少し時間が経った後に漸く何か

を両腕で抱えてきて、皆の居る所に戻ってきた。どうやらバスケットボール程

の大きさの物体を、三個抱えている様子だ。但し、少し困惑しているようでも

あり、不満がありそうな複雑な表情でもある。



この物語は創作です。

作者の空想・妄想の塊です。

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