表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/77

第69話 新しい訓練 その6

作品タイトルは適当です。懐かしい響きの題名にしてみました。

多分、内容とは関係ないと思います。


 やはりサンダー教官のクソッタレ野郎は、俺達のことをサーカス団員か何か

にしようとでも思っているのであろう。今度は玉乗りをやれ、と言ってきた。

竹馬の次は玉乗りだ。俺達は歩兵になると言っていなかったか? どこの世界

の軍隊で兵隊の訓練として玉乗りなんてさせるというのだ? そんな事はサー

カスか大道芸の曲芸師のやることだ。最初にこの月の基地に連れてこられた時、

教官は、射撃訓練もやるからな、とも言ってた記憶がある。

 それが実際はどうだ。馬鹿でかいハムスターの回し車に入れられて死ぬほど

走らされる。竹馬に乗せられる。何も無い基地での訓練生活に飽きたと嘆けば、

警察犬の様に匂いで酒を探させる。模擬操縦訓練機での巨人兵の操縦の仕方を

教わってはいるが、それ以外の事はとても歩兵を鍛える教練と言えないのでは

ないのか? と三人は疑問を持っていた。


 軍隊の新兵の訓練と言えば、徹底的に身体を鍛えられながら、教官たちに

これでもかと罵倒を浴びせかけられ、精神も鍛えられる。殺戮の為の兵士に

成るために必要な技術(銃器や武器の使い方など)も叩き込まれるのでは?

しかし、玉乗りは必要なのか? こんな物、何をするのに役に立つんだ? 

これで平衡感覚を養うためか? それにしたって、こんなに科学技術が進んで

いる月面の基地でやるには原始的すぎないか? もっと他に、上手いやり方が

有るのではないか? と思いながら、三人はそれぞれ自分たちの前に置かれた、

地球のトレーニング・ジムにあるような運動用のバランス・ボールより一回り

大きめの直径の真っ白な玉を見つめ、項垂れていた。


 機械巨人兵でやるのではなく、また自分たちが実際に乗ってやるのかよ...

いや、巨人兵に乗ってもやらされるのかもしれない。竹馬の時もそうだった。

なんとか無理矢理にでも乗れるようになったら、模擬操縦訓練機に乗り込み

巨人兵でも竹馬に乗せられた。足の指で竹馬の代わりのただの棒を握り、腕の

指でも握り、そして歩く。言うのは簡単であるが、やるとなるとそうでは無い。

何度も転けた、転倒しすぎて体中が痛くて痣だらけに成った。だが、一晩寝る

と元に戻る。いや、身体の中の機械によって強制的に元に戻っている、又は

戻されている、と言うべきだ。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 この玉乗りの訓練の前の日の晩ことだ、何度目か忘れてしまった竹馬に

乗る実技訓練が終わった後のダイナーもどきでの夕食の時に、雄二がある

ことを思い出し、向かいに座るジムと横に座る陳に喋りかけたのだ。


「昔、映画の「キング・コング」を観たんですよ。迫力があって面白くて

 凄く好きでDVDを買って何度も観てたくらいです。いや、大昔の物では

 なくて、でも公開が2004か5年だったかな? まぁ20年位前で、

 もう結構な昔の作品になるんですけど。

  そうじゃなくて、ほらロード・オブ・ザ・リングの監督さんが撮った

 映画ですよ。ナオミ・ワッツさんがヒロインで出ています。ジムさん、

 陳さん、その映画を知ってますか?」|(日本語)


 雄二は、口の中に残っていた白いブロックをコップの水で流すようにして

飲み込んでから、一気に二人に話した。時折、自分の胸を両腕で叩く所謂

ドラミングという、ゴリラが威嚇する際に行う動作の真似をしながら。


「だから何だよ。その映画は俺も観たぞ。しかしなぁ、今どきDVDか?

 ケーブルテレビのビデオ・オン・デマンドか、インターネットでのサブ

 スクリプションの動画配信なんかで観るんじゃねーのか?」|(英語)


 ジムは、雄二が喋りだした映画の話題にはさほど興味が無さそうな様子で、

いつもの白いブロックを、がぶりと齧り咀嚼しながら答えた。それよりも、

DVDなんて買って観てる奴がまだ居るんだな、と変な所に関心を持った。


「いやほら、前に見せましたけど俺はスマホを持ってないじゃないですか。

 ノートパソコンは持っているんですけど、どうも小さい画面だと映画を

 観てる気分が出なくてですね。だから映画館で観るか、家のリビングの

 大きいテレビで放送してるのを観るか、レンタル屋さんでDVDを借りて

 観るか。でも良く通っていたレンタルのお店も、何年か前に潰れて...

 いつでも好きな時に観たいので、買ったんですよ。

  いや、今はそんな事では無くてですね、キングコングの事を話したい

 んですけどね?」|(日本語)


 そのやり取りを聞いた陳が、二人の会話に加わってきた。


「あれ、役者さんがゴリラの動きを動物園に行って研究して演技して、その

 動きをモーションキャプチャーで取り込んで3DCGのキングコングにした

 んでしたっけ? 着ぐるみやストップモーション・アニメーションと違い、

 動きが自然なんですよねぇ。

  それよりも、あの映画ってキングコングが出るまで物凄く長くなかった

 ですか? 途中で寝てしまいそうになりましたよ」|(広東語)


 陳もジムと同じ様に、ムシャムシャと白いブロックを頬張りながら喋る。

口に食べ物を入れて噛みながら話しては駄目だ、とお父さんやお母さんに

教わらなかったのかな? などと雄二は訝しんだが、今その事を言うのは

野暮なのでやめた。国が違えば文化や風習、常識が異なる。日本では駄目

な事が、他所の国ではそうでは無いのかもしれないな、と思ったからだ。


「そうだ、思い出したぞ。あの映画は髑髏島に行くまでがクソ長いんだよ。

 コングが出たら迫力があって格好良かったんだが、前半は大幅にカット

 するべきだな。

  ホンダ、それが何なんだ? 俺達のやった忌々しい訓練と何か関係が

 有るのか? いや、別に無くても構わない、気晴らしになるからな。

 例えつまらんことでも話題は何でも良い。なぁマイケル、お前さんも

 そう思うだろ? 竹馬に乗れと言われて、しこたま転んで体中が痛む。

  気晴らしや鬱憤晴らしが必要だ。自分の好きな映画を言いあうのか?」

 |(英語)


 今日の訓練でかなり空腹に成ったのか、ジムの前の皿には白いブロックが

沢山積まれている。これ全部を食べるつもりなのだろうか? 兵隊は食べる

事も仕事だぞ、とは言ってたけど、単なる食いしん坊なだけなのでは?

元々身体が大きいし、昔はボディビルダーだったと聞いているし、食べるの

も人の倍はいけるのかな? でもビルダーの人たちは、カロリーや糖質制限

があって食事のメニューには気をつけているのでは? まぁ、もう引退して

陸軍に入隊したんだし、今は既に地球ですら無い場所に居るしなぁ。

 いや違う、そんな事ではなくて・・・と雄二は考えていた。


「あの映画、アクション・シーンが凄かったでしょう? チラノサウルスか

 アロサウルスみたいな恐竜なのかな? それとキングコングが戦う場面

 が好きなんですけど、覚ていますか?」|(日本語)


 雄二は左手に食べかけの白いブロックを持ち、右手を鳥の嘴みたいにして

パクパクとさせてそれを挟むジェスチャーをした。恐竜が口で噛みつく動作

を表現しているつもりなのであろう。


「あぁ、あったあった。確か、コングがその恐竜の口を思い切りこじ開けて

 止めを刺していたな。恐竜と戦うのは、白黒の1作目からあった筈だぞ。

 実は、俺もあの映画は好きでな。

  子供の頃にGIジョーやヘリ以外で、親父に強請って買ってもらった玩具

 が、コングとその恐竜だった。懐かしいな。で、それが何なんだよ?」

 |(英語)


 ジムは遠くを眺め昔を懐かしむ様な顔で頷きながら、ブロックをガツガツ、

ムシャムシャと食べている。

 余程お腹が減っているのかな。物思いに浸る時は、普通は食べる手が止ま

るのでは? と雄二は疑問に思ったが話がややこしくなるので、今は口には

出さない。


「ホンダさん、ひょっとして何か思いついたんですか? 竹馬の乗り方の

 コツというか、ヒントというか、そのキング・コングの映画から?」

 |(広東語)


 陳も、食べる手は止めず、モグモグとブロックを頬張りながら雄二に質問

する。あれだけ運動いや違う、訓練をさせられたんだ、そりゃあお腹も空き

ますよね。俺だって腹ペコですし、と雄二もブロックをモグモグと食べる。

白いブロックを一口齧って咀嚼して飲み込み、その後にコップの水を一口

飲んで、また話の続きをする。チーズバーガーとレモネードの味にしてみた。


「あの場面は、キングコングと恐竜が戦って崖みたい所から落ちるんです。

 そこで、恐竜の攻撃を受けてナオミさん演じる生贄にされた金髪美女を、

 コングが手から落としてしまうんです。でね、その金髪美女を足の指で

 器用に掴むんです。なるほどね、キングコングもお猿さんなんだもんね、

 足の指でも手と同じ様に物を持てるんだよなぁ、と感心したんです。

  竹馬の訓練やっていて何でか知りませんが、それを思い出したんです」

 |(日本語)


 それを聞いて、陳はポンと膝を打った。そうか、そうだった・・・

自分も竹馬の代わりの棒を足の親指と人差し指で挟んで何とか歩こうとして

意外な事に出来た。そうだよ、機械巨人兵は上下左右対称の形をしている。

腕と足が同じ形で指も全く同じ物が付いている、直立状態だけど逆立ちして

るのと同じなんだ。そう云う事か! 足の指も自由自在に使えるように成れ

と暗に示していたんだ。だから、あの竹馬には足を乗せる所が無い、ただの

棒だったんだな、と思い至った。


「ホンダさん! 俺、今やっと理解しました、あれは足の指が器用に使え

 るように成るための訓練も兼ねていた、そう言いたいんですね? 

 そうか、どうも巨大ロボットだという俺の勝手な思い込みが邪魔をして

 いたのか。

  なるほどなぁ・・・平衡感覚の強化と同時に足の指を使う訓練、あれ

 にはそんな意図があったのか」|(広東語)


 陳は雄二に語りかけているのか、独り言ちているのか。だが食べるのは

やめていない。一方で、ジムはイマイチ理解が出来ていないのか、まだ腑に

落ちない表情をして、ブロックをがぶりと齧りモグモグと食べているいる。


「それは何だ、俺達にゴリラやチンパンジーみたいな類人猿にでも成れ、

 とでも言ってるのか?

  やはり先祖返りじゃねーか。マイケル、そんな凄いことなのか?」

 |(英語)


 ジムが口をモグモグさせながら、不満げな表情で陳に聞いている。

もしかして解っていないのは俺だけかよ? と不貞腐れたような顔つきに

なりかけている。


「そうですね、人間は手や指を使う事で道具を造ったり使ったり、それで

 頭が良くなるように進化した。チンパンジーやゴリラや猿よりもね。

 でも、樹の上で生活をする彼らは、足の指でも器用に木の枝などを持って

 動き回ります。

  人間は二丁拳銃などで2つの武器を同時に使えますが、もしその時に

 両足も使えたら?

  巨人兵は空も飛びます。その時は歩かなくて良いので足が空くんです。

 両手両足で武器を使えたら、どうです?」|(広東語)


 陳が、ジムに向かって両手を拳銃の様に人差し指を差し出し、二丁拳銃で

撃つ動作をしながら早口で喋る。陳のその説明を聞いたジムの表情と目つき

がさっと変わり、モグモグと咀嚼していた口の動きを止めた。


「クソッタレ! それを言えよ、あの帽子のオヤジ。そうか、そうなのか、

 面白い機械じゃねーか。そう言えば、俺は前に教官に言われたな。

  お前は誕生日のプレゼントの箱、中身を聞いてから開けるのか?

 みたいな言葉だった。俺は回りくどいのは好きじゃねーが、なるほどな、

 面白いやり方だ。頭ごなしに新兵に怒鳴りまくる陸軍式の訓練とは違う、

 次は何をやらせるんだ? びっくり箱を開ける楽しみがあるってもんだな。

  だったら何でもやってやろうじゃないか!

 おいホンダ、お前さんのお陰でスッキリ出来たぞ。俺のもやる、食えよ」

 |(英語)


 そう言うと、自分の前の皿に積まれていた白いブロックの一つを雄二の皿

に置いた。そのジムの顔は、新しい玩具を貰った子供の様な表情であった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 その次の日の実技訓練である。白い玉を出されて、これに乗れとサンダー

教官に言われて、即時にジムが嘆いた。


「何でもやってやろう、とは言ったが、よりによって玉乗りかよ・・・

  やはり俺達は兵隊ではなくて、クラウンをやらされるんだな」

 |(英語)


 目の前の白い玉を、手でコロコロと転がしながらブツブツ呟いている。


「クラウン? 何で自動車の話なんですか、ジムさん?」|(日本語)


 雄二がポカンとした表情でジムに聞く。確か、日本ではタクシーによく

使われるトヨタの高級セダンだよね? と間の抜けた疑問を投げかける。


「何だホンダ、お前はクラウンを知らないのか? それか身体の中の機械で

 上手く翻訳が出来てないのか? サーカスに居るだろ、顔を白く塗って

 鼻に赤い丸い飾りを付けたりした、おちゃらけの役目をする奴のことだ。

  あれを”クラウン”と呼ぶ。お前は観たことが無いのか? バットマン

 の敵役でジョーカーと言う奴が居るだろ? あんな格好だな」|(英語)


 ジムのその説明を聞いて、雄二が同じ様に玉を転がしながら喋る。

これ地球のバランスボールと違って堅いな。凹まないんだな、中身は詰まっ

ているのか、それとも中空構造になっているのかな? と考えながら。


「ふむふむ、それは日本だと”ピエロ”と呼びます。知らない事も沢山ある

 んですねぇ。俺は英語と思っていたけど、実は”クラウン”なんですか。

  あれ? じゃあ、トヨタの自動車は・・・

 いつかは道化師? いや、高級車でそれはおかしい、んん? スペルが

 違うの???」|(日本語)


「それはクラウンだな。道化師クラウンとは発音が違う。

 まぁどっちでも良いけどよ」|(英語)


 やれと言われれば、何でもやってやるよ、よっこらしょと白い玉に乗り

ながらジムが答える。が、当然上手く乗れずに、体勢を崩して派手に転倒

して強かに尻餅をつく。

 雄二はその姿を観て、うわぁあれは痛そうだなぁ、と眉をひそめた。


「クソッ、痛い! また転けるのかよ。俺もいい加減に平衡感覚が鍛えら

 れてきたと思っていたんだが、運動神経か反射神経が付いてこないのか。

 クソ痛ってェ...」|(英語)


 白い玉に一番乗りしたが早々と転げ落ちたジムは、盛大に地面(ではなく

月面になるのか)に打ち付けた自分の尻を擦りながら、悪態を吐いている。


「crownは王冠で、clownが道化師ですね。日本人には発音の区別が難し

 いのかもしれませんね。ホンダさんが知っていたのは王冠の方でしょう。

 ピエロは、恐らくフランス語ですかね」|(広東語)


 雄二の頭の上に「?」マークが出ている様に見えたので、陳が補足の説明

をしてくれた。ジムが転倒した姿を見て、玉に乗るのに少し躊躇したのか。

もしかしたら、少しでも乗らないようにするための理由作りなのかも。


「そうですか、英語だとclownですか、いや発音が難しいな、クラウン?

 クゥラウン? クレェウン? クレィウォン?

  そう言えばトヨタのあの車種のマークは、冠だったかな?」

 |(日本語)

 

 陳の説明で納得が出来たらしく、コクコクと頷いている。


「お前ら言葉の発音はどうでも良いから、早く玉に乗れよ。立って乗れる

 ように成ったら、片足、逆立ち、片腕でも乗れるように訓練だからな?」

 |(英語)


 いつもように腰に手を当ててニヤけた顔で、さらっととんでもないことを

言うサンダー教官。その言葉は続く・・・


「それに、竹馬に乗りながら玉乗りも楽しいぞ、ほら、どんどん乗れよ」

 |(英語)


 嘘だろ... 絶対に曲芸師の修行だろ、これ?

 矢張り俺達はサーカスに売り飛ばされるんだ、と三人は顔を見合わせた。



この物語は創作です。

作者の空想・妄想の塊です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ