第66話 新しい訓練 その3
作品タイトルは適当です。懐かしい響きの題名にしてみました。
多分、内容とは関係ないと思います。
「最初からやり直すぞ。先ずは[歩く]それだけを考えろ。余計な事を頭で
考えると、忠実にその動きを機械巨人兵はやる。
だから不要な事は考えるな。理解したか?」|(英語)
サンダー教官のその説明に、三人は頷く。
先にそれを教えろよ、これじゃ操縦桿なんて別に要らねーじゃねーかよ。
何だよ、これ・・・散々今までやってきた訓練が、馬鹿みたいじゃねーか!
とジムは少々苛ついている様子だ。
陳は、それでもお目々がキラキラなのだ。思考制御で自分の思い通りに巨大
なロボットが歩くなんて!と感激しているのであろう。先程の転倒の原因は、
自分が脚の動かし方を間違えたからだ、両足を同時に挙げれば誰でも転ぶ。
でも、この巨人は拒否もせずにそのまま行動してくれた。なんて忠実な機械
なんだろう!と心揺さぶられている。今の教官の言葉は、まともに耳に入って
いない様に見える。
雄二は、そうか先程は宙に浮いていたから歩けなかったんだ。自分が余計な
操作をしなければ、あのまま歩けたんだなぁ、と納得した。
「いいか[歩く]と考えろ。右足からまたは左足を出して歩き出す、ただそれ
だけで良い。その機械巨人兵は後は自動で歩いてくれる。お前らが自分の
脚で歩く時も、そんな感じだろ?
巨人の脚や足の感覚を、身体に入れられた機械でお前たちの頭に再現する
事も出来る。その方が良いのならそうしてやるが、どうする?」|(英語)
お目々キラキラの陳は、その言葉を聞き、なるほど、なるほど、と納得した
表情で頷いている。上の空ではなく、ちゃんと聞いているのであろう。興味の
有る事は聞き逃さないのである。オタク気質と呼ぶべきか。
「教官、それはフォース・フィードバックと言う事ですかね?
いや、それとも感覚フィードバックと呼ぶべきでしょうか?」
|(広東語)
え、何それ? また難しい言葉が出てきたのでついて行けない・・・
と雄二は戸惑っている。一方、ジムもコイツは何を言ってるんだ? 何の事
だか意味が解らんぞ、と困惑気味の顔だ。
「チェン、お前は矢張りインテリだな。だが鈍臭い。運動神経が良ければ言う
事が無いんだが・・・ そうだ、お前の言う通りかな。フォース・フィード
バックも出来るが、俺はセンス・フィードバックを勧めるな」|(英語)
いつものニヤけた表情だ。これ笑っているのか嘲笑っているのか、判断が
難しい。その教官の顔を無視して、陳が二人に説明しはじめた。
因みに、雄二とジムの二人の乗る訓練機には、教官の表示されている左の小窓
の様な枠の隣に、陳の顔も小窓で表示されている。喋りかけると、自動で小窓
の様な表示が出てくるのだ。パソコンのウインドウ表示みたいな感じだ。
訓練機同士も、テレビ電話もしくはビデオ通話の様に通信が出来る。何処に
カメラなんて物が付いているのかは、知らない。そんな物が有るようには見え
ないのであるから。モニターになっている蓋その物が、カメラに成っているの
かもしれない。訓練機の内部の壁の全てが、昆虫の複眼の様な構造で、とても
小さなカメラまたはレンズになっていて、更にそれらが液晶(LCD)や有機
ELディスプレイのドット表示の様に、様々な映像
を映し出している構造なのかもしれない。
教官の横に表示された陳が、二人に説明しだした。オタク系の人間の特徴で
得意な分野の事を話す時には早口になる。最近は、以前の辿々しい喋り方から
殆ど普通に会話が出来る様に成ったと感じる。
「ジムさん、ホンダさん、ビデオゲームのレースゲームを遊んだことはありま
せんか? 操作している車が、壁にぶつかると持っているコントローラーが
振動するとか、そんなのをやった事はありませんか?
それがアクション・フィードバックなんです。何か行動した時、その感覚
を操作している人間に伝える事を、そう呼びます。
スマホなどのタッチパネルを操作した時、ボタン表示を押したかどうか、
分かりにくいですよね? その時にパネルが振動すると、今このボタン表示
を押したな、と人間は理解しやすくなります。それがフォース・フィード
バックです。パワーショベルの操縦桿が、バケットが何か物に当たった時に
わざと動かすのを重くするのも、それの一種ですね。
感覚フィードバックは、今の人間の技術ではあまり実用化され
ていないかもしれません。機械の腕や指が触った物の硬さや感触、温度など
を伝える技術は、まだ確立されていないと思います」|(広東語)
その言葉を聞いたジムが何となく理解した。そうかアレか。航空機の操縦桿
で有れば良いと思っていた機能だな、と頷いて納得した。確か民間航空機では
失速しそうになると、操縦桿が震えてパイロットに危険な状態を知らせる機能
がある、と聞いた気がする。
雄二も何となく判ったような気がした。ゲームのコントローラーが振動する
のも、それなんだ・・・ もしも義手で物を掴んだ感触がその人の脳味噌に
伝われば、物凄く便利なんだろうなぁ、と想像した。昔、会社の年配の先輩に
工場のプレス機の事故で指を失くした人の話を、聞いた事がある。
そんな人に、この機能があれば・・・ でも、俺達はそれを歩兵として戦争
の道具に使うのか、と少し寂しく、そして悲しく感じた。
「巨人の足の指を机の脚にぶつけた痛みが、お前らの脳味噌に行くって訳だ。
便利ではあるが、キツイ時もある。どうする、使うか? 好きなようにして
やるぞ」|(英語)
模擬操縦訓練機のコックピットの裏蓋のモニター画面の左上の小窓状の枠の
中に表示された教官が、右手で顎を擦る動作をしている。この時の教官は、何
かを考えながら相手の答えを待っている体制だ。暫く付き合っていると、その
人の癖が何となく解るようになってきた、と雄二は思った。
「やってくれ。感覚が伝わる方が歩きやすそうだ。でも強弱の調整やオンオフ
も出来るんだろう? 全部を受けてたら、仮に被弾した際に死にそうになる」
|(英語)
ジムのその言葉を聞いた教官が、またニヤケた顔をして答える。
「流石に一応は軍人の端くれだな。そうだ、出来るぞ。お前は飲み込みが早い。
頭は悪いがな」|(英語)
この教官、いつも一言多いんだよ、糞ったれ!と思ったが、口には出さない。
でも、どうせこの考えも読まれているんだろう、と観念している。
これは褒められているんだろう、と言うのも理解が出来たからだ。この嫌な
笑い顔のおっさんは、先ずは難しい事をやらせてから、後で少し優しい方法を
出してきやがる、それがやり方なんだろ、と想像した。
「機械巨人兵の感覚が解るようにしてやる、その状態で歩いてみせろ。これなら
同時に両足を挙げるなんて事もやらんだろうし、自分で自分の足を踏んで転ぶ
事も無いだろう。お前らが余程の間抜けじゃなければな。ほら、歩いてみろ」
|(英語)
糞ったれ、言い方がいちいち癇に障るんだよ、歩けば良いんだろう、やって
やるよ、赤ん坊じゃねーんだ、歩くのなんて出来るってんだ、ふざけんなよ!
とジムの頭の中は文句だらけである。そうすると巨人は地団駄を踏んでいた。
苛ついていつもやってしまう考えや行動を、そのままを身体の動きとして
トレースしたみたいである。
雄二は、なるほど、本当に足が地面に付いている感覚が解るんだ、と関心して
いる。へぇ、これは凄いや、どれどれ右足を出してみて、っと、っとっと。
ヤバい、これ上手くバランスも取らないと転けてしまう。自分の足と同じ様に
感じるのだけど身体が違うからなのか、普通に歩く時のバランスの取り方とは
何かが違うと思った。
陳も、雄二と同じ様に僅かの違和感を覚えたのであろう、彼の操作する機械
巨人兵が少しふらついている。しかし雄二と違うのは・・・
「教官、これオートバランスの機能みたいな物は無いんでしょうか? 自分の
身体の感覚とは違って歩きにくいんですけど、腕が長いからかな? それか、
巨人の身体の体型か関節構造が、自分自身いや人間と違うからでしょうか?
あと、先程はこんな違和感は有りませんでした。何か切り替えましたか?」
|(広東語)
と教官に質問している。
「お前は鋭いな。身体能力と運動神経が鈍いのが欠点だが・・・
有るぞ、自動平衡感覚補正機能だ。それがあれば、片足立ちやY字バランス
でも、片手で逆立ちでも体操選手並になんでもござれだ。面白いだろう?
まぁ、その巨人兵には逆立ちも起立も同じなんだがな。
お前が気が付いたように、先ずはそれ無しでやれ。自転車と同じだ。
それで歩けるように、何度も転んでも身体で覚えろ。それが歩兵の仕事だ、
理解したか?」|(英語)
一発でそれが解るってのは面白い奴だな、ロボット・マニアなのは本当なの
だろうなぁ、と教官は内心では感心している。先程は自動平衡感覚補正機能を
作動させた状態であった。だから歩けと考えるだけで簡単に歩行は出来たのだ。
今は感覚を伝えてはいるが、補正機能は無しである。自力で巨人の身体の平衡
を保たないと転倒してしまう。補助輪の付いていない自転車状態である。それ
に直ぐに気が付いたのだ。なかなか出来る奴だな、とニヤリと笑う。
人間の身体は二足歩行用に生まれている、と言うか長年かけてそう進化した。
足の裏にはアーチ状の凹みがあるが、巨人にそれは無く扁平足と言える。
指は有るが腕の手と同じ4本で前に2本後ろに2本である。全て同じ形状だ。
人間の足の親指は大きく体重を支える時に関与する。人間と足の裏の形が違う
から、身体の平衡の取り方も異なるのである。脚部の構造もである。人間の背骨
や首が横から見るとS字に湾曲して体重を支える構造で自立しているが、巨人は
違う。胴体は球状で腰部と胸部が同じ形状である。全て真っ直ぐなので直立の
姿勢も異なるのだ。股関節の形状も異なる。両方の脚と脚の間に頭も有る。
その人間と機械巨人兵の身体構造の違いを、体で覚えて平衡感覚を掴んで
歩けるように成れ、それに慣れろ、と教官は言っているのだ。
モーションキャプチャー機能で、身体を動かしてその動作を真似て動くので
あれば比較的簡単であるが、それでは操作する間、中の人間は常に動いていな
くてはならなくなる。それでは長時間の作戦行動では疲れてしまう。それと、
人間と身体構造も違う為、その方法でも完全に操作するのは無理なのだ。
巨人の身体を動かした時の感覚は脳に反映されるが、それを制御するのが
難しいのである。
ある程度の自動化は出来るのであるが、先ずは補助無しの手動で操作・運転
させるのがサンダー教官のやり方なのである。すべての操作を手動で出来る様に
覚えて、その後に面倒な事を自動で機械に任せる。何でもかんでも最初から機械
に任せるのは危険なのだ。いざという時に困らないように成れ、との配慮である。
マニュアル・トランスミッションの自動車で運転が出来る様になっておけば、
オートマチック・トランスミッションの車の操作を簡単に出来る。最初から簡単
操作で慣れてしまうのは危険なのだ。臨機応変に器用で機転の効く人間に成れ、
それが教官の考え方なのだ。
「こうか? 歩くって意外とバランスをとるのが難しいんだな。でも何となく
感覚が掴めてきた気がする。なるほどな、そうかこんな感じなんだな。
自分で歩いているような、そうでないような奇妙で不思議な感触だ」
|(英語)
ジムは転生の才能なのか飲み込みが早い。元々は、トレーニング・ジムの
講師をやっていたので、身体を動かすのが得意だったのも大きいのであろう。
彼の操る機械巨人兵は、そこそこ歩けている。
雄二は、つかまり立ちが出来ようになった幼子の様なぎこちない歩き方だ。
ロボットダンスの様な感じと言うべきか、まぁロボットに乗っているのだが。
陳も似たような物である。へっぴり腰みたいな、ヨボヨボの年寄りの様な
頼りない歩き方である。完全に片足を上げて歩くのではなく、すり足で両方の
足を地面(いや、この場合は月面?)から離さないで歩いている。
「なるほど、実際の二足歩行のロボットが何であんなぎこちない歩き方をする
のか、理解できました。難しいんですね。いや、これは俺がキチンと想像、
思考が出来ていないのが原因なのか・・・
うーん、これはなかなか厄介ですね」|(広東語)
陳は、そんな独り言をブツブツと呟きながら、しかしお目々はキラキラと
させて[歩行訓練]をやっている。これこれ、これだよ、これがやってみた
かったんだよ! 巨大ロボットに乗ってノシノシと歩く、これだよ!
うん、こうすると・・・ふむふむ、なるほど、なるほど、こうなるんだ!
などと、何かするごとにその都度いちいち喋るので五月蝿い。
もう少し静かにしてくれないかなぁ、集中して歩けないよ、と雄二は辟易
としている。ビデオ通信かテレビ電話と言うのかな、この通信機能を切る事は
出来るのかなぁ、と考えた。
その瞬間、陳の表示されていた小窓が消えた。なんだ、出来るんだ・・・
「あいつ、ブツブツと五月蝿いよな。通信を切れる様にしてやったからな。
これで集中出来るだろう、どんどん歩く練習をやれよ。ハムスター訓練と
同じだ、自分の身体みたいに動かすことが出来るようになる迄、これから
毎日やるからな」|(英語)
恐らく、ジムも同じ様に五月蝿いと感じていたんであろう。見かねた教官が
気を利かせてくれた。とても熱心なのは理解できますけど、心の声をダダ漏れ
にするのは止めて下さい・・・集中ができません。
この物語は創作です。
作者の空想・妄想の塊です。




