第60話 機械巨人兵についての講義
作品タイトルは適当です。懐かしい響きの題名にしてみました。
多分、内容とは関係ないと思います。
いつの間にか三人はDinerもどきで寝てしまっていた。2本目の瓶を空けて、
その辺りから記憶が飛んでいた。サンダー教官は黙っていたが、この月産のウイス
キーの度数は70を超えている。普通に飲むと、エライことになるのである。
此処にウイスキーしかないのは、月基地は外界と隔絶されているクリーンな環境
である為に、酵母などの所謂「微生物」が存在しないので、醸造酒が製造出来ない
からである。
食用の白いブロックやエチルアルコールの精製は、錬金術の様に月の鉱物から
人工的に自動で大量に製造している。無機物から直接有機物を清造しているので
ある。
地球上では植物が光合成で作成し、草食動物がそれを摂取し体内の腸内細菌の
酵素で必要な栄養素であるタンパク質にするのが、この月ではその工程をすっ飛
ばして、いきなり鉱物から合成して造るのである。鉱物がある限り、食物は無限に
生産出来るのである。
そのアルコールは機械の製造・維持・保守、現場の殺菌・消毒等に利用するの
だが、人間(教官や整備員たち)が飲用の為にちょろまかしているのが、実情で
ある。
アルコール濃度がほぼ100%なのを、水(これもほぼ100%)で薄めて、
好みの味付けをしている。ウイスキーなのはアメリカ人が造っているからという
単純な理由である。過去には焼酎もどきも造られていたようだが、今は月基地に
日本人が常駐していない為、需要が無いので製造されていない。有ることには有る
が、過去に日本人が居た時に生産された分が残っているだけだ。
過去にはビールもどきを再現しようとした猛者(ドイツ人の拉致被害者だった)
も居たのだが、その人物が不在の後にその製法が失われてしまい、製造が不可
になった。その人物は後世のために製法を記録していなかった様だ。但し、味は
地球産には遠く及ばない物であったらしい。色と泡や匂いはそれっぽかったらしい
が、味だけはどうしても再現しきれず酷い物だったそうだ。それでも当時はそれ
しかないので駐在員には受けていた。
この月基地には、飲みたければ酒は大量にそれこそ湯水の如く存在する。但し
純粋なエチルアルコールなので、飲用にする分だけ味付け処理をするのだ。
夕方近くになり、三人の身体の中の機械により強制的にアルコールが分解され
アセトアルデヒドになり、酢酸を経て水と二酸化炭素にさせられる。これも教官の
指示に依るものである。そろそろ起こしてやろうと云う、粋な計らいなのか、余計
なお世話なのか。
「あ、あれ、寝ちゃってたのか・・・ あ、まだ二人が寝てる」|(日本語)
一番最初に目を覚ましたのは雄二である。特に酒に強い体質と云う訳では無い。
只の偶然である。
「あ、ホンダさん、俺いつの間に寝てたんだろう? そう言えば、ジムさんも
寝てるし」|(広東語)
陳が雄二の次に目を覚ます。本人は自覚していないが、口調が普通に戻りつつ
ある。恐らく酔っ払って騒いで精神的に落ち着けたのであろう。
「うーん、何だ、ここは? おぉ、お前ら、いつの間に寝てたんだ?
ここってDinerか? みんな酔って寝ちまったのかよ・・・」
|(英語)
最後にジムが目を覚ます。口の周りが涎でガビガビである。それを陳に指摘され
て慌てて服の袖で顔を拭いている。
「殆ど全部飲んじゃいましたね。ウイスキー旨かったですねぇ。
またもらえるかな?教官に頼みましょうか」|(日本語)
「ですよねぇ、こんなに旨い酒は、地球でも、なかなかないんじゃ?」
|(広東語)
「そうだな、また休みの前にでも頼むか。流石に毎日は飲ませちゃくれんだろう」
|(英語)
機械に依って血中アルコール分が完全に分解されているので、二日酔いや悪酔い
も無い。すっかり酔いが覚めている状態である。時間も夕食に近いので、そのまま
ここで晩飯を食べ、その後にまた自分たちの部屋に戻る。
部屋に戻ってもやることが無いので、風呂に入ることにする。その後、窓に成る
壁に綺麗な景色を表示させて、三人は並んでそれを眺めながら、さっき飲んでいた
酒について語り合う。しばらくの間は話のネタには尽きないだろう。限界が来れば、
また教官に頼んであの旨い酒を出して貰おう、と話のオチになる。
それに飽きると、自然と各々のベッドに移動し就寝となる。
次の朝、いつもの様に朝食を摂った後、座学を受けるために教室に行くと教官に
言われた。
「昨日はたっぷり飲んで、お楽しみだったみたいだな? どうだ、あの酒は。
旨かっただろ? [月光]ってブランド名だ。
詳しくは知らないが、俺が拉致される前から有るらしい。
話は変わるが、今日からは実技訓練の内容を変えるか。そろそろ実機に近い
訓練にする。其の為に座学で教える。みっちりやるから覚えろよ、
理解したか?」|(英語)
三人は頷いている。いよいよ、この前に見せられたあの巨大ロボットに乗る
訓練が始めるのかと考えていた。
「はい、教官、質問があります!」|(日本語)
雄二が手を挙げて質問をする。
「何だホンダ、もう乗りたいのか? 気が早いな」|(英語)
いつものニヤけた顔である。
「いえ、違います。あのウイスキーはどこで造っているんでしょうか?
是非とも見学したいです」|(日本語)
おぉ、ホンダ良い事を言うな、そうだそうだ、とジムと陳も同意する。
「あのなぁ、お前らは工場見学の為に此処まで連れてこられたんじゃないぞ。
機械巨人兵に乗る為の歩兵として来てるんだ。忘れてないか?
まぁ観たいってんなら、その内にな。だが、観たら飲めなくなるかもしれんが、
知らんぞ」|(英語)
え、何、そんなヤバい造り方してるの? と三人は顔を見合わす。確か、いつも
食べている白いブロックの時も、そんな事を言ってたような・・・と考えて顔色が
変わった。知らない方が良いのかもしれない。知らぬが仏なのか。
その後、座学では機械巨人兵に関する講義が始まった。先ずは構造の話である。
教壇の後ろには小学校にある黒板の代わりにホワイトボードみたいな巨大な画面が
あり、そこに巨人兵を表示させて、教官がそれについて説明・講義をする。
「この巨人には、お前らが訓練で使う模擬操縦訓練機と同じ物が中心にあり、
胴体を構成している。ここにお前らが乗り込む。そして、その球体の胴体の
上部に胸部と下部に腰部が接続されている。そこに左右の腕と、左右の脚が
接続されている。
それぞれの腕と脚は全く同じ部品で構成されている。これは生産製造容易性
及び整備・交換性、部品流用の容易さ、修理の簡便性を考慮しての構造だ。
腕の上腕と前腕、脚の太腿と脹脛も同じ物だ。ついでに、腕の指は足の指と全く
同じで、四本だ。
それと、頭があるが、これも股間に同じ物がある。要するに上下左右前後対称
の構造になっている。此処までは理解したか?」|(英語)
陳は、ふむふむと頷き、熱心に電子ペーパーであるノートに教官の言葉を聴いて
何やら丁寧に書き込んでいる。興味のある分野なのであろう。物凄く真剣に聴いて
いるし色々と教官に質問もしている。
「教官、左右の腕と脚が共通なのは、万が一現場で破損し足が無くなった場合に、
歩けない事が無い様に、などを想定しているのでしょうか?」|(広東語)
陳のその質問を聞いた教官は、ほほぉ、なるほど物わかりの良い奴だ、という
顔をして関心している。
「お前さん、なかなか鋭いな。頭の良い奴は嫌いじゃない。そうだな、仮に右脚が
破損した場合は、それを廃棄し、身体を上下反転して両腕をその脚の代わりに
して歩くなんて芸当も出来るな。
それに各部の関節、肩・股関節・肘・膝・手首・足首も全て共通で同じ物
なので、どこの部品でも好きに交換・接続が出来る。
基地じゃ無く前線の現場での修繕が容易に出来るって事だ。面白いだろう?」
|(英語)
いつものニヤケ顔で説明している。ホワイトボードの表示を指し棒で示しながら
更に講義は続く。
「また、この胴体部分は球体になっているが、これには意味がある。これは胸や
腰とは独立して自由自在に回転が出来る構造になっている。例えば、逆立ち
状態になっても、この球体の胴体は常に乗員を水平状態に保つジンバルみたい
な物だと考えろ。
なので腕を利用しての四足歩行も可能だ。状況に依って姿勢を自在に変更も
出来るって訳だ。どうだ面白いだろう?」|(英語)
ジムが本物を観た時に不細工だと感じたのは、あながち間違いではない。ゴリラ
っぽく見えたのは、腕と脚が同じ長さであるが所以である。見栄えなど優先してい
ないのである。ましてや、見るものに与える心理的影響までも考慮して設計や製造
もされている訳では無いのである。この機械巨人兵を設計したモノ(地球外の高度
な知的存在?)は、見た目の格好良さなんて糞の役にも立たない物は便所にでも
捨ててしまえ、という思想で造ったのであろう。
それに、この巨人兵を間近で観た者は、恐らく他にその存在を伝えることなど
出来ない、と考えであったのであろう。見るものに与える影響等はどうでも良い事
なのである。
どうせその姿を見たものは、その後は皆殺しになる運命なのだから・・・
「ますますゴリラじゃねーかよ・・・ただ、聴いていると確かに面白い構造だな。
教官、コイツは空を飛べるのか?
散々今まで俺達に飛行訓練させてきたって事は、飛べるんだろ?」|(英語)
ジムが手を挙げながら教官に質問をする。巨大ロボットには興味は無いが、空を
飛ぶ物には、興味津々の様子である。
「あぁジャクソン、お前の好きな様に飛行も出来る。その為の訓練だったからな。
今後は、人型での自由な動作を慣熟する為の操縦訓練をやる。
前に言ったのを覚えているか? [フリーモード]がそれだよ」|(英語)
雄二は少し眠たくなってきていた。難しい話は苦手だ。
取り敢えず、あの巨人は手脚が同じなのと、空を飛べるのだけは理解できた。
この物語は創作です。
作者の空想・妄想の塊です。




