第55話 実機
作品タイトルは適当です。懐かしい響きの題名にしてみました。
多分、内容とは関係ないと思います。
二本目のウイスキーを探す旅に出た三人は、ふと疑問に思った事
がある。匂いがするけど、途切れている。そこには壁があるのだ。
壁にぶち当たると云う比喩的な意味では無い。物理的に壁が有る
様に思えるのだ。其処は今迄、行ったことが無い場所なのだが、
別に何も無いし用事が無かったから、来なかっただけなのだ。
サンダー教官に出された課題である「宝探しゲーム」をやって匂い
を探索してそっちに行っても、そこで途切れるのだ。そこから先に
匂いは無い。本当に完全に途切れている。川でも有って匂いが流さ
れた訳でも無い、そもそも月の地下深くの基地にそんなモノは存在
しない。もしかして、教官のブービー・トラップなのか? と三人は
最初は訝しんだが、同じ道を戻って別の場所に・・・等をやった形跡
も嗅ぎ取れないのだ。
三人は色々と考え話し合ったが、先にもう一本の方を探すかどうか、
の多数決を取ったのだ。それで、これは後回しにしようと決めた。
残りの一本は、これは見つけられそうな気がしていた。今日午前
の座学の殆どの時間、この警察犬ゲームをやって慣れてきたのか、ある
程度の範囲内の物体の存在が、何となく理解できる様に成ってきた。
但し、これは自分たちの知っている匂いに限った事である。一度嗅い
だ匂いの場所が、目を瞑っていても視えるのだ。これは凄いと彼らは
気が付いた。例え、モノが自分の後ろにあってそれが動かされても、
大凡その位置を把握出来る。だから、教官のご自慢のジープもどきに
置いてきた最初に見つけたウイスキーの瓶の位置も、何となく解るのだ。
陳は、邪魔になるし気が散るからと言ったが、そうでは無かった。
まるで頭の中に嗅覚・臭気レーダーが有るかのように、そこに有るの
が匂いだけで解る。ジムの言う様に三本の瓶の微妙な違いすら、判別
出来ると悟ったのだ。
但し、これは風の流れが殆どない閉鎖空間だけである、この基地の中
だから可能なのかもしれない。地球上の様に、風雨で匂いが消されて
しまう状況だと難しくなるが、限定的な状況、例えば建物の中での
捜索・索敵には十分通用するのではないか? と彼らは気付いたのだ。
なるほど、これは歩兵には有効な機能だな、訓練する意味もある、
と実感させられた。躍起に成って探していただけだが、一本目を
見つけ、少し冷静さを取り戻した故にそう考える事も出来たのかも
しれないが。
三人はこのブロックには無いと思った。隣に有る自分たちの宿舎の
方に教官とウイスキーの匂いが行き、その後は異なっているのが把握
出来た。これはあっちに行ってウイスキーを隠して来た証拠では?
と陳が言い出した。雄二とジムも同じ匂いを嗅ぎ、その言葉に納得した。
隣のブロックに繋がる扉を開放して宿舎に向かった。扉を開けた瞬間
にウイスキーの匂いが嗅ぎ取れた。
確かに臭う。この近くに有る、もしくは、この辺りを通過した跡が匂い
で視える、と彼らは確信を持った。
「こっちじゃないか? 俺達の部屋の方が匂いが強い様な気がする。
ホンダ、マイケル、お前たちはどう嗅ぐ?」|(英語)
ジムが自分たちの部屋の方を指差して、二人に意見を聞いた。
「そうですね。そっちが臭いですね。行きますか?」|(日本語)
「俺も、そう嗅ぎ、ますね。行き、ましょう!」|(広東語)
皆の意見が一致したので、部屋の中に入っていく。しかしながら瓶は
見当たらない。だが、彼らはすーっと鼻から胸に深く一息だけ吸い込む
と、ぼんやりとではあるが、その位置が匂いで視えた。雄二の机の横に
置いてある凍結処理されたままのキャリーケースの裏から匂うのだ。
急いでそっちに向かうと、ケースの裏に隠すようにウイスキー瓶が置か
れていた。
「やった〜! 見つけた!」|(日本語)
「よし! やったぞ! 余裕じゃねーか」|(英語)
「やりましたね、あと一本、です!」|(広東語)
三人は、交互に両手でハイタッチしあい喜んでいた。残りは一本だ、
何だ意外と簡単だったな、最後の奴はどうすると話し合っていた。
その頃、教室の教卓の後ろにある椅子に腕を組んで座り、こっくり
こっくりと船を漕いでいたサンダー教官が、ふと目を開けた。
「なんだ、もう二本目を見つけたか、意外とやるなアイツら。
こっそりと耐性は付けてやったが、不要だったかな・・・
そろそろ、お披露目といくか」|(英語)
ニヤけた顔で独りごちていた。
二本目を見つけた三人は、もう最後の一本の在り処も、ほぼ特定
できているので、回収して持ち帰ろうという事になった。
特定は出来てはいるが行けそうに無いのが歯がゆい。一本目も
回収して、一旦教室に戻り教官に質問する、と云う事になった。
これは何となくだが、試されてる気がする、と雄二が言ったのも
大きかった。
そもそも、この模倣品のウイスキーはここ月の基地で製造した物
と教官は言った。だったらこの三本しか無い筈がない。絶対に他に
沢山あって保管されている筈だ、だがその匂いは嗅ぎ取れないのだ。
そこから考えられる結論は、自分らが知らない一度も行った事が
ない場所がこの基地にはまだ有る、という事だ。それを教官に突き
つけよう、そしてそこに行けるようにしてもらおう、と意見が一致
したのだ。
「教官、二本を見つけましたよ、やりました!」|(日本語)
「でもな、もう一本の匂いが、何処にもしねーんだ」|(英語)
「おかしいでしょ、あっちの方の壁で、匂いが途切れてるん、です」
|(広東語)
雄二と陳がそれぞれウイスキーの瓶を持ち上げ戦利品かトロフィー
の様に教官に見せびらかしながら、教室に入るなり問いただしたのだ。
「あぁ、バレたか・・・何処にあると睨んだ、いや嗅いだんだ?
ノートに地図を書いてみろよ。チェンお前がやれ。
多分、他の二人じゃ下手糞すぎて読み取れん」|(英語)
そう言われた陳が、自分の席に慌てて戻って座り電子ペーパーの
ノートに地図を書き出した。その姿を覗き込んだ雄二とジムが、
ここだ、いやこっちはこうなのでは? と色々と横から文句を言う。
陳は、その二人の横槍をほぼ無視して、迷いなくさらさらと地図を
書き、それに「ここ」と矢印を書き足した。そこから先には行けないが、
そこでウイスキーと教官の臭いが途切れている。ウイスキーを持って
いった後の教官の匂いしか残っていなかった。
それを教壇に起つ教官に見せて、ペンで地図を指して説明した。
「うん、中々良い鼻をしてるな、お前たち。
場所は合ってる、そこには扉がある。
その奥に、まだお前たちに教えていない場所がある。
今から一緒にそこに行ってみるか、どうだ?
ついでに、良い気分転換になったろ?」|(英語)
教官は右手で顎を撫でながら、三人に確認をとる。その言葉に
対して三人は一斉にうんうんと頷く。それじゃ、お前たちが先に行け、
俺はその後ろを付いていく、と言うと連れ立って教室を後にした。
模擬操縦訓練機の置いてある体育館の様な広いブロックに四人は
来ていた。その一番奥の何も無い壁に立った。
「ここです、教官。ここの先に有るんですよね?」|(日本語)
「そうだ、ここで匂いがプッツリと途切れてる」|(英語)
「そうです、ここ以外は、考えられ、ない」|(広東語)
三人がみな同じ場所を指差して言う。教官はその様子を腰に手を
当てながらジーッと見ていた。
「ここで良いのか? そうか・・・ まぁ当たりなんだけどな。
この先には、前に言ったお前らの乗る予定の機械が置いてある。
見たいか?
後、ウイスキーも見つけろ。それが今日の課題だろ?」|(英語)
毎度のニヤけた顔である。いつも被っているテンガロンハットの
つばを右手の親指で持ち上げた。
その言葉を聞きいた目の前の三人の頷いた姿を確認すると、教官は
何も無い壁の前に立ち、右手で横に払う動作をやった。
真っ白い壁が、音もなく静かに左右に開いた。その先には巨大な
空間が広がっていた。
「ここが、機械の置いている場所だ。さぁウイスキーを探してこい」
|(英語)
教官は両手を挙げて、さぁ行けよ、狩猟犬野郎ども!
と三人に発破をかけた。
「こ、こんなに広い場所が、まだあったんだ・・・」|(日本語)
「確かに広いな、こりゃまるで格納庫だな」|(英語)
「えぇ、そう、ですね。広いです。あっちに、何か匂い、ますね」
|(広東語)
陳が指差した方に三人は歩き出した。左側には、その空間の半分を
占める程の仕切りのような壁がある。それが邪魔であちら側に何が有る
のかは、今の場所からだと見えない。ただ、すーっと深く息を吸うと
ウイスキーの匂いが視えた。その手前の壁の向こう側にある筈だと。
その匂いを手繰ってその壁を超えた所で、最後のウイスキーの瓶が
床にポツンと置かれているのが目に入る。だが、それ以上に存在感の
ある物体に、三人は目を奪われてしまった。
そこには、機械の巨人が起っていたのである。
この物語は創作です。
作者の空想・妄想の塊です。




