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第54話 狩猟犬(ハウンド)たち

作品タイトルは適当です。懐かしい響きの題名にしてみました。

多分、内容とは関係ないと思います。


 三人は、教室の中で上機嫌であった。久しぶりの多幸感である。

Dinerもどきに行き、あの白いブロック状の食べ物を自分たちの

部屋に山程持って帰り、酒の肴にして盛大に飲もうと企んでいた。


 雄二とジムは、あの背中にケーブルの付いた無口なウエイターに

ブロックを小さく刻んで貰い、酒のつまみっぽくしてもらおうか?

つまみは何が好きですか? ナッツ、フライドポテト、チーズ?

等と談笑をしている。

 一見すると、陳は一人だけ電子ペーパーの本を読んで真面目に

自習をしてる様に見えるが、旨い酒のつまみは何があったか、

その味を想像する為に色々と資料になりそうな料理本を探している

のである。今まで、そんな本を読む気すら無かったのだ。味は再現

出来ても、見た目と歯ざわりは変わらない。無意味な行動だと考え

ていたし、虚しくなるので敢えてやらなかった。


 しかし、酒、ウイスキーが飲めるとなると、話は別である。

どちらかと言えば、陳はビールの方が好みであるが、この際そんな

我儘は捨ててしまおう。出会ってから一度も、三人で酒を飲み交わ

した事が無いのである。皆で腹を割って盃を交わせるのが楽しみで

仕方がない。

 それから30分ほど経ってから・・・


「よーし、お前ら、用意が出来たぞ。さぁ頑張って探してこい!」

 |(英語)


 ニヤけた顔をした教官が、そう言いながら教室に戻ってきた。

その姿を見た三人は、もう既に立ち上がり今直ぐにでも外に出て

探そうと躍起になっていた。


「おい、お前ら少しは落ち着けよ・・・

 目の前に骨をぶら下げられた犬みたいに成っているぞ。まだ嗅覚

 機能の制限を解除していないんだ。そのまま行っても何処に隠して

 あるのかなんて一生たっても解らんぞ。それでも良いのか?」

 |(英語)


 そう言われてみれば、サンダー教官が出ていくと同時に嗅覚の鋭さ

が無くなって居たのをすっかり忘れていた。もう頭の気持ちがそっちに

回っていないのである。酒が飲める、その想いで頭が一杯になっていた。


「頼む教官! は、早くしてくれ! 速攻で探し出してやる」

 |(英語)


「そうです、余裕ですよね。今の俺達は飢えた野犬と同じです!」

 |(日本語)


「もう、すぐに、持って帰ってきます、からね。午後の、実技なんて、

 やめて、教官も一緒に、飲み、ましょう!」|(広東語)


 もう、今しがたの教官の言った言葉も聞いていない。本当に飢えて

早くその餌をくれ!と懇願し飛び跳ねる犬のようだ。


「おすわり! と言うべきか・・・お前ら少しは落ち着けって。

 まだ嗅覚の制限解除はしていないぞ。今やってやるが、外に出ると

 強烈だからな。嗅覚って奴は慣れていないとかなりキツいから、

 覚悟しろよ。だから俺の話を聞けよ、お前ら・・・」|(英語)


 サンダー教官は教壇に立ち、三人に対して指を差しているのだが、

もう既に彼らは小躍りしてる。それを見た教官は、駄目だ、コイツら、

俺の話なんてこれっぽっちも耳に入っちゃいないなぁ、と胸の前で腕を

組みながら首を左右に振り、呆れている。


「それじゃ、行って来い。だが俺は警告したからな。強化された嗅覚は

 強烈だからな。無理なら無理で、降参しても別に構わないんだぞ?」

 |(英語)


 そう言うと彼ら三人の嗅覚の制限を解除してやった。その途端に三人の

鼻の中には周囲の匂いが、一斉に入り込んできた。


「うわっ! これキツいなぁ。でも、教官の匂いが・・・あぁ、なにコレ

 歩いてきた跡が、匂いで視えるような気がします」|(日本語)


「た、確かに、そう言われると、匂いが視えるな。この周囲の様々な中

 から選び出すのか・・・これ結構難しいぞ。どうだマイケル解るか?」

 |(英語)


「は、はい、強烈、ですね。犬って凄い、ですね。これをやってるんだ。

 本当に、こんなに色んな、匂いの中から、選ぶのは、大変、ですよ」

 |(広東語)


 三人とも先ほどの僥倖から一転、険しい顔つきになり、腕を腰にやり

頭を傾げて考え込んでいる。こりゃ、一筋縄ではいかないな、気合を

入れて頑張るか、と本気マジになっていた。手分けをして探すか、

若しくは協力して探すか、どうする? と真剣な表情で相談し始めた。

 その間にも、ジムが喋る時に吐く息の匂い、陳の髪の毛の香り、雄二の

脇の下などの匂いが止めどもなく感じられる。視覚なら、見なければ良い

だけだが、嗅覚は呼吸をする度に大量の情報が一度に入り込んでくる。

その大量の匂いの情報の取捨選択のやり方を学ばないと、頭の中が混乱

してしまう。もしかして、さっきの箱の中身を当てる時は、教官は敢えて

感覚を弱めていたんでは?と疑問に思う程だ。


 三人は、一度少し落ち着こうと決めた。陳が、先にウイスキーの匂い

をしっかりと思い出そうと提案したのである。その匂いの痕跡を辿れば、

自然とお宝にありつけるのでは? 三人一緒に探して、どっちの方向が

より匂いの痕跡が強いかを、確認し相談しながら行き先を決めよう、もし

意見が別れたら多数決で決めようと提案した。流石に陳は頭の回転が速い。

闇雲に別々に探し回るよりも利口なやり方だな、と二人も賛成した。


「おぅ、漸く落ち着いたか。まぁ頑張れよ。

 別に終了時間の期限を設けるなんて、野暮な事は言わねーよ。

  そうだな、午前中の座学の残りの時間全部を使えよ。

 何なら午後の実技の時間を使っても構わない。好きなだけ探し回れ。

 どうだ、良い気分転換だろう? ほら行けよ、狩猟犬ハウンドども!」

 |(英語)


 また、いつものニヤけた顔の前で手をヒラヒラと振り、さぁ、お前ら

行って探してこい、というジェスチャーをやっている。

 今回は意地悪な罠などは仕掛けてはいないのであろう。単に、単調で

変化の全く無い生活に辟易している俺達を喜ばせてやろう、その善意の

行動からの訓練だと思いたい、と考えていた。教官の話す言葉の響き、

喋り方、それと何より”匂い”でそう嗅ぎ取ったのだ。


「先ずは、教室を出てどっちの方向に行くかを決めましょう。みんな

 嗅いだ感触はどうですか?」|(日本語)


「そうだな、俺はこっちの方が匂いが残っていると思う」|(英語)


「ジムさんに賛成、ですね。こっち、でしょう。ホンダさんも、良い、

 ですか?」|(広東語)


 雄二は陳の言葉に頷いた。そして三人は教室を出て捜索の旅へと向かい

始めた。こっちか? いや、そっちは匂いが薄い、あっちじゃないか?

そうですね、と喋りながら彼方此方を探して歩いている。

 普通の人間だと想像できないであろうが、空間に目的の匂いの痕跡が

あるのが解るのである。犬の様に地面を鼻でクンクン嗅ぎ回る必要が無い。

恐らく犬たちよりも数段性能が高いのであろう。普通に立った状態で

すーっと普通に鼻で息を吸い込めば、周囲の匂いが全て解る。そこから

覚えている目的のウイスキーの匂いを嗅ぎ分ける。

 教官とウイスキーの匂いがする所を嗅いでいく。教官の匂いは、そこら

中に漂っているが、ウイスキーの匂いが残っている所は殆ど無い。

そう、滅多に無いモノなので痕跡を辿るのは、それ程難しい事では無い、

と暫く探索して彼らは気が付いた。


 そうやって強烈な嗅覚の敏感さと使い方にそれなりに慣れてくると、

探す効率が上がってきたような気がしてきた。曲がり角で、どっちだ?

と相談する回数が減っていくのである。こっちだな?と誰かが指を差す

と、そうだと皆が頷く、それを繰り返す事が多くなっていた。

 そうこうしているうちに、教官のご自慢の四球駆動車のジープもどきが

駐車されている外の駐車場に出てきていた。その助手席に無造作にポツンと

ウイスキーの瓶が一本置かれていた。それを見つけた三人は狂喜乱舞した。


「よっしゃ〜! 一本取ったぞ〜!」|(日本語)

「やったー! ザマァ見ろ、あの糞ったれ教官」|(英語)

「やりましたね、意外と早く、見つかった!」|(広東語)


 陳が一番先に見つけたので、その瓶は戦利品としてお前が持て、とジム

と雄二が言う。これでこの匂いをもう一度確認できるし、それを追跡して

いけば・・・なんだ楽勝じゃねーか! と喜んでいたジムと雄二に対して、

陳は諌めるように言う。


「これは、ここに置いて、おく方が、良いかも。もしくは、先に教室に

 持って、いくか。そうしないと、俺が持って歩くと、この匂いが、他の

 を探索する、邪魔になる、気が散る、と思うん、です」|(広東語)


 陳は、一度は喜んで取ったウイスキーの瓶を、助手席に元から有った

様に置いて、それを指差しながら二人にそう説明した。


「なるほど、そういう事か、でもな、これと他の二本は微妙に匂いが

 違うんじゃないのか?」|(英語)


 とジムは主張する。確かにそうかも知れないが、今の俺らの嗅覚なら

違いも判別が出来るかもしれない。それくらいは余裕だろう?と言う。


「いや、余計な情報は無い方が良いですよ。陳さんの言い分は尤もです。

 この瓶はここにこうして置いておきましょう。教官も、別に時間制限は

 無いぞって言ってくれてたし、一応は気分転換を兼ねた”訓練”ですから、

 そっちもきっちりとやりましょうよ」|(日本語)


 雄二が、陳に意見を合わせるような一丁前な事を提案した。それを聞いた

ジムも何となく納得したのか、そうだな、と頷いた。

よし、この調子で残りの二本を探すぞ、と鼓舞して三人はまた歩き始めた。

ただ、ジムだけは少し名残惜しそうに、一度クルマの方を振り向いた。


この物語は創作です。

作者の空想・妄想の塊です。

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