第53話 臭覚の機械
作品タイトルは適当です。懐かしい響きの題名にしてみました。
多分、内容とは関係ないと思います。
いつもの様に身体の中の機械で強制的に、起床させられた。
顔を洗い、歯を磨く、トイレに行く、その後歩いて隣のブロック
のDinerもどきに行き、いつもの白いブロック状の食べ物を
食べる。ルーティーンワークである。
「なぁ、昨日、教官が気分転換させてやるって言っていたが、
一体何だと思う?」|(英語)
ジムが毎日毎食、食べている真っ白のブロックを齧りながら、
前に座る二人に語りかける。今日はピーナッツバターのサンド
ウィッチ味にしているそれを、モグモグと噛み、次は卵のサニー
サイドアップにするかと考えながら。
「俺たちが乗る機械を見せてくれる、って言ってましたよね?
今まで模擬操縦訓練機だったけど、いよいよ実機での訓練を
始めるってことなんでしょうかね?」|(日本語)
雄二は、納豆掛け御飯の味にしたブロックをモグモグしながら
ジムの質問に答えている。次の一口は卵かけご飯にしようか、
それとも卵焼きにしようかな? と考えながら。
「俺、考えたん、ですよ。気分転換なんでしょ、多分、実機での
操縦訓練、しかも、基地の外で、じゃない、ですかね?」
|(広東語)
陳は、実家の母親がよく作ってくれていた粥の味にしたブロックを
頬張りながら、喋る。
「やっぱり、お前たちもそう思うか。だよなぁ、そろそろ実機による
基地の外での操縦訓練だと考えるよな。でも、そうすれば地球の
姿を拝めたりも出来るんだよな」|(英語)
窓に成る壁の景色を毎日のように変化させているが、宇宙(月面の
景色)にはしていなかった。其の為、自分たちが本当に地球を離れ
宇宙しかも月の裏側に居る、という実感が薄れてきているのであった。
もう、単に外界から隔絶された訓練所もしくは刑務所にでも閉じ込め
られているだけ、そのような錯覚に陥っていた。
「そうか、それが気分転換って事なのかもしれませんね。ずーっと
閉じ込められてるから、何でも良いから外に出してやったら喜ぶ
だろう、って魂胆ですかね」|(日本語)
「でも、ちょっと怖い、なぁ。下手すると、宇宙で迷子に、なって、
そのまま、帰ってこれずに、死んじゃう事も、あるんで、しょ?」
|(広東語)
うーん、と食べていた手を止めてブロックを皿に置き、腕を組んで
三人は唸っていた。で黙り込んでしまった。あんな事を教官に要望
なんてしなかった方が良かったんじゃ? と後悔の念が押し寄せる。
ただ、この毎日全く変化と娯楽も無い生活を続けるのも限界だった。
痛し痒しの精神状態である。だが、いずれは外の宇宙に出る日が来る
のだ、その時の訓練はどうしたってやらされるだろう、との予感は
三人それぞれが何となく感じていたことだ。
朝の食事も終わり、一旦宿舎の自分たちの部屋に戻り、歯を磨く。
と言っても、地球の様に歯ブラシに歯磨き粉を付けて手でゴシゴシ擦る
のではない。U字型のマウスピースのような物体を口腔内に入れて噛み
しめると、自動で洗浄、清掃、殺菌、消毒を行ってくれる。とても楽
ではあるが、これも単調な生活になる要因の一つでもある。
教本となる電子ペーパー製の本とノートを持ち、胸のポケットにペン
を入れて準備は終わる。それが済めば午前の座学を受けるために、彼らは
教室の有る隣のブロックまで歩いていく。これまで何週間も通った道だ、
目を瞑っても着けるんじゃないか、と思えるほどだ。
「今日は、まぁ、なんだ気分転換をやると言ったな。座学の時間は勉強
では無くて、新しい能力の練習でもやってみるか?」|(英語)
サンダー教官は、教室に入ってきて教壇に立つと、そう言った。
また白い箱を抱えてきていて、それを教壇の上に置いた。
何かが中に入っているのであろうか。
「はい、教官。その能力というのは何ですか?」|(日本語)
雄二が挙手して質問をする。いつもの模擬操縦訓練機の計器の読み方、
飛行機動、航法の講習などよりは退屈ではなさそうでは有るが、とても
気分転換には成りそうもないなぁ、と感じていた。
「今日は、嗅覚の強化の訓練だな。お前らの鼻の中にも機械は入れられて
いる。それにより、警察犬も尻尾を巻いて逃げるくらいに鼻が効く様に
なるんだ、どうだ面白いだろう?」|(英語)
またニヤリと笑う顔である。いや、そんなの何に使うんだよ、俺らは
犬コロかよ? 麻薬探知犬にでも成れと言うのかよ、と馬鹿にした様な
顔でジムは左手で頬杖をついて不貞腐れている。
陳の顔はやる気が無い。また、何かつまらない事をやらされるのかよ、
もう良いよ、みたいな表情である。右手で器用にペンを回している。
「箱の中身を匂いで当てる、簡単だろう? 先ずは誰でも知っている
分かりやすい匂いの物を、俺のこの目の前の箱に入れてある。
その匂いを嗅いで、中身の物が何かを当ててみせろ。
答えが嗅ぎ分けできたら、自分のノートに書いて俺に見せに来い。
昔にやった赤外線視の時と同じやり方だな。理解したか?」|(英語)
「はい、わかりました」|(日本語)
「了解、嗅げば良いんだな」|(英語)
「匂いで、当てるん、ですね」|(広東語)
三人とも、あまり乗り気ではない。そもそも、この数日はやる気が出ない
状態が続いている。だから教官に直訴したって言うのに、こんな下らない
クイズみたいな事で誤魔化されないぞ、と考えていた。
「よし、今からお前たちの臭覚機能の制限を解除する。これは常に開放する
とキツい能力である故に、今の所は必要な時のみ制限解除とする。
慣れても使いっぱなしは辞めておけよ。自分でもオン・オフ出来る様に
してやることも出来るからな」|(英語)
その教官の言葉の直後、三人の目の色が変わった。
何だこれ? おいおい、何だよコレ。物凄い量の情報が鼻から入ってくる。
うわっ、これはキツイ・・・強烈だ。
犬たちって、いつもこんな世界に居るのか。アイツらよく平気な顔して
居られるな、と顔を歪ませている。
「どうだ、箱の中身が解ったか? 嗅ぎ取りやすい物を入れたつもりだ」
|(英語)
三人は、電子ペーパーのノートに、ペンでサラサラと文字を書く。
一切の迷いが無い様子である。何となく微妙に嬉しそうでもある。
「はい、教官。出来ました、見せに行きいます」|(日本語)
雄二が真っ先に書き上げ、挙手をして教官に発言する。
「おぉ、見せに来い、ほら二人には見せるなよ。
まぁ日本語なんて、アイツらには読めないと思うが。
どれどれ・・・ あぁ、正解だな。な、面白いだろ?」|(英語)
次はジムが、さっと手を挙げた。結構やる気を見せている。
と言うか、匂いで中身が解った途端に目の色が変わったのだ。
「教官、俺も解った、見せに行く」|(英語)
大きな身体の胸の前にノートを裏返しにして書いた文字を隠し、教官の
前に行き答えを見せた。でも、この中身は本当にコレなのか? という顔
をしている。
「うん、正解だ。これは簡単だったか」|(英語)
少し笑顔にもなっている。答えが当たったからだけでは無い。
最後に陳が最後に教官にノートを見せる、もう他の二人は正解を出して
いるので隠す必要は無いと思ったのか、座ったままノートに書いた文字を
教壇の教官の方に見せた。
「おう、チェンも正解だ。どうだこの能力は、面白いだろう?」|(英語)
そもそも、箱の中を開けないので正解かどうかが解らない。でもこの月に
そんなモノってあるのか? という代物なのである。
教官は、徐ろにその白い箱の蓋をパカッと持ち上げて、中身を取り出して
見せた。三本の黄金色の液体(恐らくウイスキー)が入った瓶であった。
それを三人に見えるように、箱の前に置いたのだ。
三人は、それを間近に見て唾を飲み込み喉を鳴らした。
匂いを嗅いで解った、答えは書いた、でも、でも、本当にそれがそこの机の
上にあるなんて、信じられなかった。実物を見せられてもだ。
しかも、そのウイスキーらしきの瓶の蓋は開封されていない。普通の人間
なら、まず当てることなど不可能であろう。
ラベルも何も貼られていないので、本当に中身がそうなのかも確認できない。
でも匂いでその中身は理解できる。芳醇なウイスキーのアルコールの物だ。
「教官、それって本物なのか? この月にウイスキーなんて有るのか?
とても信じられないが…」|(英語)
ジムの声が少し震えている。信じられない物を観たみたいな様子で、大きな
手の指で目を擦りながら教官に聞いている。
もしかして、それを飲ませてもらえるのか? と瞳をキラキラと輝かせている。
雄二や陳も同様の表情である。先ほどまでの、やる気のない顔から瞬時に一変
したのだ。
「まぁ、これはこの月で造った模倣品だな。純粋な本物の地球産では無いな。
どうだ、次の問題が出来たら、コイツを今晩お前らにやっても良いんだが、
やるか?」|(英語)
はいはい! やるやる! 何をやれば良いんだ! と手を挙げて、三人は
椅子から立ち上がり興奮状態に成っていた。
「宝探しゲームと呼ぶのか? それが次の課題だ。まぁ警察犬がやるような
内容と同じだな。お前たちはこの匂いを覚え、それが何処にあるか探し出す。
面白いだろう? この三本のウイスキー瓶を俺が今から何処かに隠して
くるからな、それを探し出せ。全部を見つけられたら、お前らにやるよ」
|(英語)
よっしゃー! やってやるぞ、今日は酒盛りだ! 飲むぞ、覚悟しろよ
ホンダ、マイケル、今夜は吐くまで、ぶっ倒れるまで飲ますからな?
とジムは万歳三唱の大喜びである。
二人は、ジムのデカい手の平で背中をバシバシ叩かれても笑って同じ様に
殴り返している。もう、デカい張り手で背中を叩かれても、それ程は痛く
無い身体に、自覚が無い内に、鍛えられていたのである。
「お前ら、やる気が出てきたな。どうだ、良い気分転換だろう?
先ずは、この三本のウイスキーの匂いをしっかりと覚えろよ。
その後はちょっと待ってろ。俺が隠してくるまで、ここで自習でも
していろ。その間は、嗅覚は元に戻す。良いな、理解したか?」
|(英語)
いつものニヤけた顔で教官はそう言い残し、教室から出ていった。
この物語は創作です。
作者の空想・妄想の塊です。




