第51話 操縦訓練 その6
作品タイトルは適当です。懐かしい響きの題名にしてみました。
多分、内容とは関係ないと思います。
「よーし、これでどうだ、揺れに慣れてきたか?
そんなに怖くないだろう? これなら遊園地の乗り物の方が
ずっと速いんだぞ・・・
さっきからお前の頭の中の機械で三半規管を強化してるから、
乗り物酔いにも成り難い筈だぞ。
どうだチェン、そんなに辛くは無いだろ?」|(英語)
サンダー教官は、少し優しい声色で模擬操縦訓練機の中に居る
チェンに語りかけている。
今も訓練機のローリングの右回転はゆっくりだが継続中だ。
ただヨーイングは固定してある。二つの操作を同時にやるのは、
まだコイツらには無理だろう、と判断しての心優しい対応だ。
「いいか、右腕の操縦桿をゆっくりと左に倒してみろ。いきなり
ガクッと倒すなよ。ゆっくりジワーッとやるんだぞ。
さもないと反対向きに回転するぞ。ほら、やってみろって!
ホンダ、そんなに気持ち悪くないだろ?」|(英語)
耳の中(内耳や三半規管)や眼の中に入れられた機械の効果で、
かなり目眩も低減されて乗り物酔いも無くなったのか、二人とも
段々と落ち着きを取り戻してきていた。
「あぁ、なるほど、こんな感じなんですかね。何となくですけど、
要領が解ったような気がします」|(日本語)
[人工水平儀]の表示を視認して、操縦桿を左に少しずつ操作して
いる。右向きに横転していた模擬操縦訓練機が、少し回転速度を落
としつつ有る。
「そうだ、良い感じだ。な、怖くないだろう? 椅子に固定されて
いるから落ちないし、回転も遅いからそんなに辛くも無いだろ?
もう少し練習を頑張れよ。時間をかければ慣れてくる」|(英語)
雄二の乗る模擬操縦訓練機は、丁度天地が逆転した状態で停止した。
「よし、今お前は逆さまだ。そこから右に操縦桿をゆっくり倒して
元の姿勢に戻してみせろ。いいか、ゆっくり倒すんだぞ、いきなり
ガバっと倒すんじゃねーぞ。解ったか?」|(英語)
陳の模擬操縦訓練機は、真下に見た状態から少し左に傾いた角度で
停止した。180度で停める筈が200度くらいの傾きになっている。
「な、なんとか、停められ、ました。どう、ですか、教官。
それと、乗り物酔いは、しなくなり、ました。
ありがとう、ございます」|(広東語)
先ほどと比べて、陳はかなり落ち着いた雰囲気で喋れている。
三半規管に入れられた機械の効果は絶大なようだ。その上、精神を落ち
着かせるため、脳内麻薬物質や精神安定作用のあるホルモンを、少量
だけ分泌をさせてもいる。
「あぁ、まあまあだな。やり初めて直ぐにピッタリ狙った角度で停める
のは難しいから、まぁ無理なんだよ。何度もやっている内にコツが
掴めるように成る。頑張って続けろ。
今度は、お前も右に回転させて元の水平状態に戻せ。
ゆっくり操作するんだぞ」|(英語)
初めて自転車に乗る自分の子供に教えるように、根気強く丁寧に
しかも的確に教えている。ガミガミ怒鳴るだけが能じゃない、という
のがサンダー教官の考え方なのであろう。
嘗ての彼は、地球のアメリカ陸軍の新人訓練担当の教官時代では、
違った。鬼軍曹と渾名され、頭ごなしに心が折れる程に新人を怒鳴り
散らし、ゲロを吐くまで腕立て伏せや運動場を走らせてもいた。
それが過酷な戦場で生き残れる強い兵士にする正しいやり方なんだ、
と信じていたのだ。
だが、自動捕獲機に拉致されて、ここ月の裏側に来て地球以上の
技術を垣間見て、それまでの考えを捨てやり方を改めたのである。
褒めて伸ばし、やる気を出す様に仕向ける。しかし厳しくもする。
そうする方が上手くいく、と悟ったのであろう。
体力、筋力、身体能力はインプラント(機械)で簡単に増強が出来
てしまう。吐くまで肉体を酷使する様な鍛錬する必要性は、実はここ
では無いのである。
巨大”回し車”でのハムスター訓練も、持久力、耐久力や耐重力
加速度、低酸素状態での環境に慣れる為のモノだが、絶対に必須
ではないのである。そんな事も、身体に入れられたインプラント
(機械)で、ほぼ補完が出来てしまう。
しかしながら、数百馬力のスーパーカーを、いきなり自由自在に
時速200kmの速度で運転できるかと問われたら、そんな事は
無理だと答えるであろう。人間の身体も同じで、いきなり体操選手
の様な筋力や身体能力になっても、脳味噌の制御が追いつかない
ので自由自在には動かせないのだ。
其の為に身体の制御の仕方を、敢えて鍛錬するのである。
教官は、その方が効率的なんだ、と考え方を変えたのである。
この模擬操縦訓練機での操縦訓練も、その一環である。
頭の中の機械で全ての操作が可能なのである。今までの訓練での教官
の指導なども、実は思考制御にて実行されていた。
実際に操縦桿や遠隔操作機器等を動かしている訳では無い。
教官の自慢のウイリスジープもどきのクルマの運転もそうである。
ハンドルを握って回す必要性など無いのであるが、運転する事が趣味
なので、敢えて手でやっているだけなのだ。
4球駆動車など、ステアリングハンドルの操作だけでマトモに運転は
出来ない。思考制御を併用しているから、可能なのである。
今、雄二と陳にやらせている操縦訓練は、どうすれば機体がどの程度
動くのかを身体や頭に覚えさせる事が、本来の目的なのである。
操縦方法の取得では無く、どう動かすのかを頭の中で想像できる様に
する訓練なのである。
「教官、これで、水平になって、ますか? 自分では、かなり出来て
ると、思うん、ですけど・・・」|(広東語)
陳の乗る模擬操縦訓練機は少し右に傾いている。まだ[人工水平儀]
の表示を正しく見れていない証拠である。
「悪くはないな。だが少し右に傾いている。10度くらいか?
今赤い丸で点滅表示させている眼の前の[人工水平儀]を良く見ろ。
水平になっていないだろ? 外の景色だけで判断するんじゃ無い。
外が見えない時に、その表示されている計器だけで操縦するんだ。
計器飛行に近いか。必ずそれを見る癖を付けろ。理解したか?」
|(英語)
その教官の指摘を聞いて、眼の前の空間に浮かんで見える立体表示の
球体の[人工水平儀]を視認した陳が、なるほどな、と頷いている。
「教官、俺も出来たと思います、どうですか? 良い感じだと思うん
ですけど」|(日本語)
雄二の模擬操縦訓練機は水平になっていた。陳と比べると自動車の免許を
持っている分、操作する感覚を掴むのが少しだけ早いのかもしれない。
「あぁ、まあ良い感じだな。どうだ、慣れると楽しいだろ。
これからは、コイツをハムスター訓練の後に、毎日やるからな。
しっかりと身体に覚えさせろよ」|(英語)
その頃、ジムはアパッチに見立てた模擬操縦訓練機の操縦を楽しんでいた。
機首を内側に維持しつつ円を描くように水平飛行をしている。
所謂[ノーズ・イン・サークル]という機動である。
機首は円の中心を向けたまま、機体を右に並行移動させて、上から見て円を
描く様に飛行するのである。
何かを標的にして狙いながら、相手には撃たれないように飛んでいるつもり
なのであろう。
「おい、ジャクソン、どうだ満足したか? まだ遊ぶのか? 結構な時間
飛んでるだろ、まだ物足りないか? 今日はお前らに無理させたからな、
早めに切り上げて晩飯にするつもりなんだが」|(英語)
あれだけ吐いたんだから腹も減るだろう、そろそろ切り上げろよ、みたいな
感じでジムに声をかけた。
「あぁ教官、もう終わりか。まだ名残惜しいが、たっぷり楽しませてもらった
感謝するよ。またこのヘリ・モードをやらせてくれるか?
居残りでの訓練でも構わん」|(英語)
ジムは、お気に入りの玩具を貰い満足するまで遊びきった子供のような
笑顔で教官に答える。
「そんなに気に入ったか。でもな、フリー・モードはもっと楽しいぞ。
そっちをやった後は、ヘリなんて物足りんと感じると思うぞ。
まぁやりたければ、居残って自由に好きなだけやれば良いさ。
ソイツに慣れる訓練にもなる」|(英語)
そう言うと、三台の模擬操縦訓練機の動きを停止させた。前面の扉が
パカッと開く。三人は[座席]ボタンを押して身体の拘束を解き、座席
から立ち上がり外に降り立った。
「はぁ〜、疲れました。慣れると意外と楽しいんですね。家にいる時は
クルマの運転は殆どやってなかったから、久しぶりでしたけど、結構
良いもんですね」|(日本語)
「そうですね、俺は、運転免許を持って、ないけど、操縦するのって、
楽しいん、ですね。乗り物酔いが無いと、楽しめるのを、知りました」
|(広東語)
「おぉ、お前ら無事だったか! な、面白いだろ? 今度はヘリを飛ばして
みろよ、絶対にハマるぞ。ジェットの飛行機でも良いけどよ」|(英語)
あれだけ吐いていたのが嘘のように、三人は笑顔で談笑している。
遊園地のアトラクションを楽しんだ後の子供のような顔である。
それを見ている教官は、いつものニヤケ顔で左手を腰に当て右手で顎を撫で
ている。
「今日の訓練はこれで終わりだ。あとで飯をきちんと食えよ。
あれだけ盛大に吐いたんなら、腹も減ってるだろ。
頭の中の機械で食欲も出るようにしてやるから、たらふく食え。
Gに耐えるのはかなり体力を使うからな、しっかり睡眠も取れよ。
それと、ちゃんと風呂にも入れ。お前ら自分では気が付いていないかも
しれんが、かなりゲロ臭いんだぞ」|(英語)
そう教官に言われて、三人は自分たちの身体、胸や腕や脇の匂いを嗅ぎだした。
うわ、確かにこれ滅茶苦茶臭いよ… 先に風呂に入ろう、このまんま飯を食うの
なんて御免だよな、と顔を見合わせた。
「明日は、朝から座学で模擬操縦訓練機の計器や操縦について勉強するぞ。
疲れてるだろうから予習をしろとは言わんが、しっかりと覚えろよ。
大事なことだ」|(英語)
その言葉で訓練は終了となり、三人は宿舎に戻っていった。
この物語は創作です。
作者の空想・妄想の塊です。




