第47話 操縦訓練 その2
作品タイトルは適当です。懐かしい響きの題名にしてみました。
多分、内容とは関係ないと思います。
「おい、お前らジャクソンを運んでやれ、ってこの巨体を
運ぶのは・・・ちと骨が折れるな。
まぁ、そこでそのまま寝かせとけ。後で起してやるとする。
で、次はどっちがやるんだ、ホンダかチェンか?」
|(英語)
サンダー教官のその言葉を聞いて、二人はブルブルと首を
振っている。あんな酷い状態のジムを見た後に、乗りたい、
やりたい等と口が裂けても言えない、と内心思っているので
あろう。
自動掃除機械が数台また壁から出てきて、ジムが吐いた汚物を
綺麗にするために掃除している。
「どっちだ? 早くしろよ、それか二人同時でも良いんだけ
どな。そうするか?」|(英語)
あぁ、もう逃げられない、諦める? と雄二と陳の二人は
顔を見合わせて意気消沈した。
「あ、あの出来れば、ジムさんと同じ回転速度は速すぎるので、
もう少し控えめにして頂けると・・・」|(日本語)
雄二が何とか妥協案を出してみたつもりであるが・・・
「あぁ、初めからお前らにあんな回転数ではやらん。無茶だろ。
ジャクソンは楽しみにしてそうだから、やってやったんだよ。
人間はプラスGにはそこそこ耐えられるが、マイナスGや
今みたいな横回転方向の重力加速度には意外と弱いんだよ。
それに耐える為の訓練でもあるんだが・・・慣れろよ?
慣れるためにやるんだからな。
逆に言えば、慣れるまでやるんだぞ」|(英語)
心配するな殺しはしないよ、と言わんばかりな感じではあるが、
死ぬほど辛いことはするぞ? という言い草でもある。
「教官の、その言い方、死刑宣告に、近い、ような気が、します」
|(広東語)
もう、陳の顔は真っ青である。訓練機に乗る前から死にそうだ。
出来れば今直ぐにでもここから逃げ出したい、と考えている筈だ。
「ヨーイングは、まだマシなんだよ。ピッチングが辛いぞ。
先ず最初にこれに慣れておかないと、他のも同時でやると冗談
抜きで死ぬからな。
まぁお前たちの身体には機械が入れてあるから、ある程度の
Gに対する耐性はある。大丈夫だよ、死なねーよ、心配するな」
|(英語)
ニヤリと笑いながら、体の前で両手を振っている。いやいや、
その顔が怖いんですって、と二人は怯えているのであるが。
「あの、そのピッチングって何ですかね? 球を投げるんですか?
意味がイマイチ解らないんですけど・・・」|(日本語)
聞きたくはないけど、知らないことをやらされるのも、それは
それで怖い・・・と思い雄二が教官に質問してみた。
「あ、ピッチングなぁ、ジャクソンに説明させようにもコイツはまだ
ノビてるから無理か・・・ まぁ前後方向の回転だな。
操縦席の右腕で握る操縦桿を前後に傾けると、球もそっちの方向に
傾く。やってみせるか?」|(英語)
そう言うと、教官は模擬操縦訓練機の球の方を見ろと、指を差した。
先程ジムが乗っていた機械が今度は上半分が赤色、下側半分が白色に
なった。傾きが分かりやすいように、色を変化させたのであろう。
これ、どっかで見たことがある配色だなぁ、何だっかな?と雄二は疑問を
持ったが、それよりもこれからやる恐怖で頭が一杯で、思い出す余裕が
無かった。
「それじゃ、それぞれ模擬操縦訓練機に乗れ。どっちでも好きな方を
選んでも良いぞ。何なら、専用機にして色でも塗るか?
好きな名前を付けるのも許可するぞ?」|(英語)
ジムが乗った真ん中の奴では無く、残りの左右の二台を指差しながら、
ほらどっちにする? と二人に聞いている。
「い、要りませんよ、そんなの・・・ 専用機って赤くして角でも
付けてくれるんですか。
もしかして、通常の三倍速く回したりしませんよね?」|(日本語)
雄二さんは訓練機を赤く塗って欲しいのかな、でも50年以上前に
拐われたアメリカ人に、そのネタを言っても通じないんじゃ?
と陳は考えていた。
「何だそりゃ? 日本じゃそういうのが流行ってるのか?
それが望みならやってやるぞ?」|(英語)
教官は、本当にやりそうな顔をしている。角はバッファローみたいな
形で良いのか?それともトナカイみたいな感じか?とか聞いている。
陳は、多分あれ冗談で言ってると思いますよ、と答えておいた。
「い、いや冗談ですよ、三倍速く回したりなんてやめて下さい。
冗談抜きで本当に死んじゃいます・・・
それよりも、ピッチングを教えてくれるって話は?」|(日本語)
説明しないで、もう乗せる気だったでしょ?みたいに思い、何とか
理由をつけて時間を稼ごうとしているのである。
「あぁ、そう言えばそうか。ピッチングってのはこうだ、よく見て
おけよ、こうやってだな・・・」|(英語)
教官がそう言うと、模擬操縦訓練機が前後に回転しだした。
うんうんと頷くような動きをしている。
「この向きの回転をピッチングと呼ぶ。飛行機が上昇や下降する時に
機種を上げたり下げたりするだろう? その動きだな。
ついでだからローリングもやるか。
こうやるとな・・・」|(英語)
そう言うと、今後は球は左右に傾く回転をする。
うん?と首を横に傾げる様に動いている。
「これがローリングだな。自転車やバイクを運転する場合、曲がる時
に車体を曲がる方に傾けるだろう、その動きだな。理解したか?」
|(英語)
「あぁ、なるほど、解り、ましたよ、教官。これでX、Y、Zの3軸の
制御をする、んです、ね。
これに、前後上下左右の、3方向の移動を、加えると、6軸の制御
が出来るん、でしょ?」|(広東語)
陳が、なるほどなるほど、そう云うことか! と一人だけ納得して
いる様子である。
雄二は、6軸の制御? 何それ、NC旋盤で3軸制御とかは聞いた
ことあるけど・・・みたいな顔になっている。
「ほほぉ、お前は矢張りインテリだな。飲み込みが早い。
そうだ、そういうことだ。
これで3次元空間を、自由自在に動き回れるって事だな。
他にも出来る動作はあるんだが、それはまた後のお楽しみだ。
今のお前らにはまだ早い。教えてもまだ無理だし出来ん。
取り敢えずはヨーイングの操作に慣れろ」|(英語)
ほら、早く乗れよ!と言わんばかりの仕草で手を振っている。
さぁ、もう説明の時間は終わりだぞって顔をしている。
もう逃げられないみたいだ、どうする?と雄二と陳が見合わせる。
そうこうしていると、ジムが起き上がった。教官がやらずに自力で
意識を取り戻したようである。
「うーん、酷い気分だ。洗濯機で洗われる洗濯物の気持ちがわかった。
脱水された様な気がする・・・ それかジューサーでかき回される
バナナやオレンジになった気分だ」|(英語)
目をパチパチさせ首を左右に振って、小さい声で独り言を言っている。
「お、ジャクソン丁度いいタイミングで起きたな。今からホンダと
チェンが乗り込む所だ。お前もまたやるか?」|(英語)
いつものニヤけた顔でジムに聞いている。今まで気絶していた相手に
またすぐにやれ、というのも酷な話である。
「は? またやらすのかよ・・・ 少しは休ませろよ。マジで死ぬかと
思ったんだぞ、糞ったれ・・・」|(英語)
いつもの様にブツブツと小さい声で文句を言っているようだ。自分
の小言が教官には筒抜けだと解っているのであろうが、言わずにはいら
れない心境なのだろう。
「今度は、いきなりあんな回転でやらねーよ。
あれは、お前さんのイキった鼻を折る為のジャブみたいなもんだ。
次は普通にやってやるから拗ねずに、ほら乗れよ」|(英語)
ニヤけた顔をやめて真剣な眼差しでジムに向き合っている、今度は
マジだぞ俺を信じろよ、と言わんばかりだ。
「分かったよ、乗れば良いんだろ、乗れば・・・
で、今度は俺がペダルを踏んで操作が出来る様にしてくれるんだな?
さっきは踏んでも効かなかったぞ?」|(英語)
右の眉毛を上げ左目を細めて、教官にガンを飛ばす勢いで睨んでいる。
「あれは、お前がペダルを踏むのが遅いから、あぁなったんだよ。
そんなにブーブー文句を言うな。今度はあんなに速くは回さないって、
俺を信じろよ」|(英語)
右手をひらひらと振って、やらねーよと態度で示しているが、ジムは
半信半疑である、一方、雄二と陳は、今から断頭台に乗せられる死刑囚
みたいな顔をしている。
三人は、それぞれ模擬操縦訓練機に渋々と向かって行った。
教官は訓練機の球の蓋をパカッと開けると、さぁお前たち乗り込め、
乗馬の時間だぞ、と活を入れた。
ジムは先程乗ったばかりなので要領は解っているが、二人はまだ
[座席]固定ボタンの位置が解らない様で、キョロキョロと首を回して
探している。きちんと固定されないと本当にこの中でミンチにされる、
と畏怖や恐怖を覚えて心配しているみたいだ。
「これだ、この[座席]ボタンを押せば、座席に身体が固定されてボタン
が光るからな。乗った時には先ずこれを押すんだぞ、固定されないと
危険だからな。心配はするな、ジャクソンの時みたいには回さない。
足元に二つのペダルがあるだろ。これを踏み込んで制御しろ、
右を踏めば右に回る、左を踏めば左に回る。簡単だろ、理解したか?」
|(英語)
雄二と陳に、同じことを丁寧に教授してやっている。ジムには、お前は
さっきやったからもう良いだろ、あいつらと同じ内容を聞くか?と質問を
したが、彼は首を振って拒否した。
そんな事はとっくに知ってるよ、みたいな顔である。
「さぁ、やるぞ。先ずは、右に90度向きを変えてみせろ。
右のペダルを軽く踏み込め。いいな、軽くだぞ?
強くは踏むなよ、足の裏で紙一枚の厚み分だけ踏む具合だぞ。
思い切り踏み込めば、さっきのジャクソンみたいにジューサー
の中のバナナの気持ちが味わえる。
それが望みなら停めないがな」|(英語)
模擬操縦訓練機の中では、閉められたドアの内側、丁度乗り込んだ人間
の正面にある部分がモニター画面になっており、今は外に腰に手をやって
仁王立ちしている教官が映し出されている。
モニターの下側には[人工水平儀(姿勢指示器)]みたいな表示があり、
これで今の自分の状態を確認しろ、と説明された。
地球の飛行機のモノと違う点は、立体的な球体表示であることだ。
モニター画面から浮き出して空中に浮いた球体みたいな状態に見えている。
上半分が薄い青色、下側が茶色、前方(奥側)が赤色になっている。
その球体の周囲には、土星の輪の様に直行する三枚の目盛り表示が、
浮かんでいる。
その右横には[方位計]がある。細長い赤い矢印のような表示があり、
球体と連動して同じ様にそれが回る仕組みだ、と教官は説明した。
周囲には0,90,180,270と角度が刻まれている。
この計器[方位計]で自分の向きを確認するんだぞ、理解したか?
と外の教官が言っている。[人工水平儀]の左横には[回頭角速度計]が
あって、正面のモニターに、これだぞ、と矢印が表示されて、計器が赤い
丸で囲まれて点滅した。
これをよく見てペダルの踏み加減を調整しろよ、いいな?
とモニターの左上に小窓が出て、その中で教官の顔が喋っている。
ビデオ通話かテレビ電話みたいな感じである。
最初にジムが右足でペダルを踏み込んだ。すると、球体が右に向く。
先程の様にグルグルと勢いよく独楽の様に回転はしない。戦車の砲塔や
パワーショベルの上部の様に、ゆっくりと向きを変える。
[方位計]が右90度になった所で、ペダルを調整してピタリと停める。
[回頭角速度計]と[方位計]をチラリと確認して、右足をペダルから
離し、左足を軽く少し踏んでブレーキの要領でじわっと停めたのである。
「何だ、普通に動くじゃねーかよ。ビビって損したぞ・・・
やっぱり最初のは嫌がらせだったんじゃねーか、あの糞ったれの
おっさんめ・・・」|(英語)
ホッとした様子でジムが喋りだした。そして、そこそこ思った通りに
左右に球の向きを変えて試している。
ヘリパイロットを目指していただけあってか、飲み込みは早いみたいだ。
少しばかり文句を言ってはいるが、意外と気に入った様子でもある。
少し顔が綻んできている。
「ジャクソン、なかなかやるな。流石にヘリパイロットを目指すだけ
はあるな。そうだ、次は左に90度回頭してみせろ。
おい、チェン、お前は向きが逆だぞ。そっちじゃない、それは左だ。
踏むペダルが逆だ。何で間違うんだよ」|(英語)
陳の乗った模擬操縦訓練機だけ、左向きにゆっくりと回転している。
腕でやるのと足でやるのとは具合が違うのか、操作に戸惑っているの
であろう。
「えーっと、こっちで、右に、向いて、あれ? あ、違う・・・」
|(広東語)
ペダルを見ながら踏んでいるのか、正面のモニターの計器の表示を
マトモに見ていないようである。
「お前、幼稚園児のガキじゃねーんだから、右と左くらい区別が
つくだろう? 何故間違う。今赤く点滅している[回頭角速度計]
をよく見ろ。
それの針が左に振れているなら、お前は左に回転してるんだよ。
反対なんだ、右のペダルを少しだけ踏み込め」|(英語)
陳の乗った模擬操縦訓練機のモニターに、そこそこ大きく教官の顔が
表示されて怒鳴ってきている。ついでに[回頭角速度計]の計器が丸い
赤で囲まれて、ピカピカと目立つように強調して点滅している。
「あ、これ、ですか、これを、見ながら、ペダルを踏むん、ですね・・・
えーっと、こうかな?」|(広東語)
右には回転したのであるが、計器を見すぎた為か踏み込みすぎて勢い
よく模擬操縦訓練機が回転しだした。
「うわっ! えーーー! め、目が回るぅーー! うげぇぇ!」
|(広東語)
陳の悲痛な声が聞こえてくる。
「お前、焦って踏み込み過ぎだ、ペダルから足を離せ、そうすれば停まる。
だから離せって!」|(英語)
まだグルグルと回転している。ただ、ジムがやられた勢いでは無い。
1秒間に1回転もしていない。ただ陳はパニックになっているのか、回転を
停められない様子だ。自動車のブレーキとアクセルを踏み間違って事故を
起こす老人みたいな状況に陥ってしまっている。
「だから、足を離せ、そうすれば停まる。離せ、いいかよく聞け、離せ。
足をどけろ!」|(英語)
教官は怒鳴っているのであるが、一向に停まる様子がない。これは不味い
と判断したのか、強制的に模擬操縦訓練機を停止させた。
「おい、チェン、大丈夫か? おーい、返事しろよ。チェン、おーい?」
|(英語)
その頃、雄二の乗った訓練機も同じ様にクルクルと回転していた。
こちらからも「うぎゃー!」と言うような悲痛な声が聞こえてくる。
それを見たサンダー教官は、こいつら不器用にも程があるだろ・・・
と頭を左右に振って、溜息をついている。
先が思いやられるぞ・・・と目頭を揉んでいた。
この物語は創作です。
作者の空想・妄想の塊です。




