第38話 食事
作品タイトルは適当です。懐かしい響きの題名にしてみました。
多分、内容とは関係ないと思います。
「所でおっさん、今俺達は何処に向かってるんだ?」|(英語)
ジムはキラキラと輝いた瞳で、運転席のサンダー教官に疑問を
投げかける。確かに、クルマで移動はしているが、何処に行くとも
聞いていないし、ただ真っ直ぐ走っているだけである。
「教官だ、忘れるなよ。今から飯だ。捕獲されてからまともに
食ってないだろ? あいつの荷物の中に入っていたビスケット
もどきしか口にしてないだろ、違うか?」|(英語)
教官は、左手の親指で後ろに座っている雄二を指差す。
後席の二人は完全に乗り物酔いでぐったりとしている。それを見越
してか、今は普通の自動車と同じ様に、前向きに前進しかしていない。
「あぁ、確かにな。そう言えば、あれからどれくらい時間が経っている
んだ? ここは時間間隔が無くなるな。地面の中で太陽も出ていない、
周りが全部真っ白だしな。これまでの場所に時計もない。
今が朝か昼か、夜なのかすら判らん」|(英語)
「お前さん腕時計を嵌めているだろう。それでも見てみろ。自分が何時
連れてこられたのか、時間を覚えていないのか?」|(英語)
そう言われてジムは慌てて自分の腕時計の表示を確認する。
「ん? 風呂に6時間も居たのか? 入る前に時間を見てんだが、
あれからそんなに経っているのか? 何をしたんだ、教官さんよ?」
|(英語)
輝いていた目が真剣な眼差しに変わる。
「最初の風呂は長いんだよ。地球の原住民は汚いからな。外も中も全部
綺麗にしたんだ。時間も掛かる。次からはもっと短いぞ」|(英語)
「中って、腹の中もなのか? それにしては腹が減っていないんだが」
|(英語)
「そう言わずに食え。食うのも仕事だ。もう着くぞ」|(英語)
また壁が自動で開き、妙なジープもどきのクルマはそこに入っていく。
少し開けた場所である。道路の右側が開けていて、駐車場みたいな空間
になっている。その奥には、見た目はアメリカにあるダイナー風の建物が
建っている。
恐らく、ここで飯を食えという事なのだろう。
看板には[Diner、食堂、飯廳]と表示されている。今回の新入り三人の
言語に合わせているのであろうか。
その食堂みたいな建物の前には何台かのクルマを停められる広めの空間
があり、教官は食堂の入り口に一番近い枠にジープもどきを前向き駐車した。
したのだが、自動でその場で180度回転して後ろ向き駐車になる。
サンダー教官は、シフトボタンの[P]を押し点灯したのを確認してから、
[座席]のボタンも押して席の拘束を解いた。
前席の二人は普通に降りる。だが、雄二と陳は完全に乗り物酔いである。
フラフラというか千鳥足というべきか、先に降りた二人に追いつけない。
それを見たサンダー教官は呆れている。
「お前らなぁ、情けないぞ。クルマに乗っただけでそんなゲロゲロに
成ってるんじゃ飯も食えんぞ? 待ってろ、治してやる」|(英語)
「あれ? え、あれだけ気持ち悪かったのに? 何で?」|(日本語)
「凄く、気分がスッキリしま、した。良かった・・・」|(広東語)
三半規管と視覚のチグハグからくる乗り物酔いなのであろう、その辺り
の器官の調整を勝手に教官にやられたのかもしれない。
「今日はここで晩飯だ。好きな物を食え。その後は寝ろ。詳細は
明日の朝からだ。理解したか?」|(英語)
「イエッサー」|(英語)
「わかりました」|(日本語)
「はい教官」|(広東語)
ばらばらな返事である。まだ訓練も何も受けていないので仕方がないか、
というような諦めの顔の教官は、先に食堂に入る。
入り口から入ると、左手にカウンターがあり、丸い椅子の席もある。
右手はテーブル席が3組ある。そこの一番奥にあるテーブル席に四人は
座る。
ウエイターのおっさんがやって来る。注文も聞かずに、左手に持った
白いお盆から白いコップを置いていった。中には水が入っている。
「何でも好きなの食べて良いんでしょ? 選択肢は無いのでしょうか?」
|(日本語)
雄二の素朴な疑問も尤もである。テーブルの上には何も置いていない。
ウエイターはメニューも持ってこないし、無言で去っていった。
「ここは好きな物が出てくる。好きなだけ食え」|(英語)
滅茶苦茶な返事が教官の口から出てくる。
暫くして、ウエイターのおっさんが器用に三人分の食事を運んできた。
皆が座るテーブルと同じ高さの代車を押してきて、その上に乗せてある物を
四人が囲む机の上に置いた。
「何だこれ?」|(英語)
「何でしょう?」|(日本語)
「これ・・・何?」|(広東語)
そのテーブルの上に置かれたのは、真っ白の白い皿の上に、白い四角い
ブロック状の物体が厳かに置かれている。フォークもナイフもスプーンも
箸も何もない。手で持って食べろということか。
大きさは日本の食パンサイズである。
「これがここの食い物だ。味は保証するぞ、但し元は何かは聞くな。
俺だって知らん」|(英語)
「日本の豆腐に見えなくもないですが、これ手に持って食べるんですか?」
|(日本語)
「トーフがどんな物かは知らんが、これを何か道具を使って食うのか?
お前、器用だな。良いから食え。美味いぞ」|(英語)
恐る恐る皆が手にとって眺めて匂いを嗅いで見てる。美味そうな匂いは
しないし、温かくもない。硬めのパンのような手触りだ。
「あれ? 何、この味・・・ 何でこれ牛丼の味が? 見た目と味の差が
有りすぎて」|(日本語)
「ぎゅーどん? 何だそれ? これハンバーガーじゃないのか?」|(英語)
「牛腩麺の味が、する・・・」|(広東語)
「な、美味いだろ? それがお前たちの食いたい物なのか? ハンバーガー
以外、どんな物かは知らんが。ここでは調理が面倒なので、これは食いたい
物の味がするんだよ、便利だろ?」|(英語)
味気ないのか美味いのか、見た目が見た目なので、食べた時の満足感が
味わえない。食感も噛んだ時の感覚も味とは合わないのである。
微妙な気持ちになる不思議な感覚である。
「好きなだけ食え」|(英語)
教官はそう言ってくれるが、食欲が湧かない。不味くは無いのである。
恐らく今まで食べた中で一番の味に近いのではあるのだが、見た目との
違いから、食べている気がしないのである。
ただ、不思議と食べているうちに慣れてくるのか、そこそこ食べてしまう。
ウエイターがまた新しい皿を三人分持ってきていた。
それを取って口に入れてみる。
「味が違う・・・ピザだな」|(英語)
「ハンバーグです。家を出る前にまともなのを食べてなかったから」|(日本語)
「これ点心の味、です。見た目は、先程のと同じ、なのに、何で?」|(広東語)
白いブロック状の物体なのであるが、先程とは全く違う味付けになっている
ようである。いや、物自体は同じだ。
「食いたい物の味がするんだよ。なんなら一口ごとに味が変えられるぞ?
やってみろよ。マヨネーズもマスタードもタバスコ、塩も不要だ、便利だろ?」
|(英語)
「ん? 何だこれ? 美味いな、目を瞑れば何を食っているか判らん」
|(英語)
「これ、ハンバーグの後に白米を食べて、人参やほうれん草も食べている気持ち
ですよ。面白い。一口を齧って噛むとさっき飲み込んだ物と違う味がする」
|(日本語)
「歯ざわりと、舌触りは、同じ、なんです、けど、味が全然違うのは、奇妙な
感覚、です」|(広東語)
三人はそれぞれ満足そうな不満そうな複雑な感情で、目の前の白い物体を
頬張っている。
「ここには、それしか食う物が無いからな。慣れろ」|(英語)
三人は敢えて、この食べ物の材料が何でどうやって造っているのかは聞か
なかった。もし聞いたら、食べられなくなるんだろう、と感じたのである。
月には豚や牛、鶏は居ない。大豆や小麦も人参もほうれん草も生息していないし
畜産・農業をやっている場所も見ていない。
地球から持ってきてる様子も無い。そもそも人間の消毒にあれ程まで気を使う
のに、生物 (なまもの)や食品を入れるはずも無いであろう。
この物語は創作です。
作者の空想・妄想の塊です。




