第33話 消毒・殺菌・洗浄
作品タイトルは適当です。懐かしい響きの題名にしてみました。
多分、内容とは関係ないと思います。
真っ白なクルマは、静かに先程出てきた入り口に向かって
走り出した。静かである。最近増えてきている地球の電気自動車
と比べても静かである。
恐らく自転車(ゴルフ場のカート)程の速度しか出ていないと
思われるのだが、それにしても静寂だ。
いや勝手に自転車くらいと思っているだけで、本当はどの程度
の速度が出ているのかは解らない。比較する対象が無いのだ。
トンネルにはつなぎ目がないし、路面も真っ白で模樣も何も無い
からだ。車体は揺れないしスピードが出ているのかゆっくりなのか、
それすら解らない。
それとモーターの音がしない、電気自動車特有のインバーター
が発する高周波ノイズも無い。小川のせせらぎの上に流れる
笹舟の様に静かに滑らかに進んでいく。
進んでいる道は、長方形のトンネルみたいな構造で、これも
真っ白で表面自体が発光している。高さが四メートル程、幅が
八メートル程度であろうか。この乗っているクルマが二台並んで
走れるほどである、片側一車線の道路といった所か。
但し路面にはセンターラインも何も描かれていない。
その右側を走行している。運転しているのは、やはりアメリカ人
なのであろうか。テンガロンハットを被って南部訛の英語を
喋っていたことだし。
「あぁ、悪いんだが、先に風呂みたいな所で身体を綺麗に
してくれるか? ここはな、外部から隔絶されてるんでな、
余計なモノを入れない様にしてるんだ。
いやぁ本当に面倒なんだけど」|(英語)
テンガロンハットの男がクルマを運転しながら、喋りかける。
風呂に入れるのか、と雄二は少し喜んだ。日本人はどうしても
湯船に浸かりゆったりまったりしたいという欲求が強いのである。
今が朝なのか昼かそれとも夜なのかも判らないのだけれど、
出来ることなら入りたい。その後、食事でも出してもらえたら
嬉しいんだけどな、と高望みをしていた所、壁に突き当たる。
しかしながら衝突しそうになると、壁が自動で開きその中に
白いクルマは入っていく。
「おい、ここだ、コイツから降りろ。ほら、早くしろ」|(英語)
なめらかに真っ白のクルマが停止しましたけど。
このおっさん、いつブレーキを掛けたんでしょう?
減速Gが全く感じられなかったんですけど・・・
まぁそれは良いか。降りろ、と言われたので椅子から立って降りる
としますかね、と立ち上がろうとした。
したのだけれど、身体が椅子から離れないんです。
動けない、なにコレ?
隣りに座っている陳さん、助手席のジムさんも同じ
様に不思議がってモゾモゾと藻掻いているみたいです。
「何してる早く降りろ。田舎者はクルマの降り方も知らんのか?」
|(英語)
「いや、椅子から身体が離れないんですけど、なんですかこれ?」
|(日本語)
「何だ? 背中が、尻が、張り付いて動けん」|(英語)
「うぅ、動け、ない・・・」|(広東語)
三人が椅子の上で何とか立ち上がろうと足掻いているのをチラッと
確認して、帽子のおっさんはまたニヤリと嗤う。
「あぁ、ウッカリしてた、それ安全装置だ。ベルトは無いが椅子に
固定はされるんだ。それを外さないと動けん」|(英語)
おっさんが[座席]のボタンを押すと、その明かりが消灯した。
その途端、身体が椅子の束縛から開放されたように動けるようになる。
「え? 何これ・・・」|(日本語)
「シートベルトの代わりだな。いちいちあんなモノ身体に巻き
つけるの面倒だろ。後ろの荷物も落ちんと言ったろ?
同じだ。運んでみろ。ほら、デカいお前さん、やってみろ」
|(英語)
帽子のおっさんは、何とかクルマから降り、まだ不思議そうに椅子
をジロジロと眺めているジムに指図する。自分はまだ座ったままだ。
「あぁ、わかった。降ろせば良いんだな?」|(英語)
ジムはトランクにあたる車体の後部上に、ただ置いてあるだけの
雄二のキャリーケースを持ち挙げようとした。
が挙がらなかった。ピクリともしない。
ん?と訝しげな顔で、今度は力を加えて持ち挙げようと企んだ。
が、無理だった。
更に全力で動かそうとする。首に血管が浮くくらいの勢いで持ち挙げ
ようとする様は、まるで重量挙げの選手のようである。
但し、雄二のカバンは微動だにしない。ジムは唖然としている。
「な、無理だろ? このムキムキの兄ちゃんですら動かせん。
と言うか人間じゃ無理だ。ほら解除してやる。
もう一回やってみろ」|(英語)
おっさんは、クルマが動き出す前に操作した[トランク]のボタンを
再び押して、そう言うとまたニヤリと嗤う。
何が違うんだ?と不思議そう顔をして、再度ジムがキャリーケースを
持つと簡単に降ろせた。
「ん? どうなってる?」|(英語)
ジムが雄二のキャリーケースを載せたり降ろしたりを繰り返している。
普通に動かせるようになっているのに、それが不思議そうである。
「な、面白いだろ? 原理なんて俺も知らん。誰か解る奴に聞け」
|(英語)
「他にも誰か居るんですか?」|(日本語)
基地なんだから居るだろう、当たり前の質問なのだが、ここでは
地球の人間の常識が通用するのかは、雄二は確証を持てない。
「居る。が、それは後だ、先に風呂みたいな所だな」|(英語)
漸く、ここでテンガロンハットのおっさんがクルマから降りてきた。
ジムよりは背は低いし小さいが、かなり鍛えられた体躯の持ち主だ。
「こっちだ、付いてこい」|(英語)
すると、白いクルマは真横に進んで、壁際に自動で駐車された。
自動運転で動くんじゃないか! と三人はその動きを眺めながら、
心の中でツッコミを入れる。
「何してる、クルマが駐車するのが珍しいのか? 田舎者だな。
こっちだ、付いてこないと迷うぞ」|(英語)
迷うも何も、ここ何も無いんですけど・・・壁しか無いですし、
あぁそうか、どこにドアが出てくるのか解らないから迷うんだ、
と雄二は納得した。しかしながら少し上を見てみると、
[風呂]
と看板が掲げてある。日本語である。英語も書いてあるが、雄二は
読めない。他にも様々な言語が描かれているが、それらも雄二には
理解は出来ないが、恐らく意味は同じなんだろう。
「ジムさん陳さん、あれ何と書いているんですか?」|(日本語)
「あぁ、bathroom (風呂)だな」|(英語)
「広東語で、冲涼房 (風呂)と書いて、ます、ね」|(広東語)
雄二は、あぁ風呂なんだぁ、入れるんだ、旅の疲れを癒せるよ、
と内心喜んでいた。
「悪いが、植物、食物、水なんかの飲み物、土、生物は、中には
持ち込めん。諦めろ。その荷物の中身、殆どが食い物だな。
普通は下着やら着替えを持ってくるだろう? 何考えてんだ。
まぁその写真立ては許可する。割り箸は要るのか?
お前さん中国人か日本人か?」|(英語)
おっさんが、雄二が持って入ろうとしたキャリーケースを見て
指摘する。それを聞いてギクッとして思わず声が出た。
「え、何で中身が判るんですか?」|(日本語)
「は? 見れば判るだろ?」|(英語)
「いや、蓋も開けずにどうやって中身を?」|(日本語)
「は? 見れば判るだろ? あと匂いで判るだろ?」|(英語)
「に、匂い? え、え?」|(日本語)
このおっさん麻薬探知犬かよ、とジムは訝しんだ。
匂いでわかるって? パックしてるんだぞ、素人じゃなくメーカーが
密封した保存食だぞ? あぁ、そういう事か、コイツ自動捕獲機の
中の出来事を全部見てたんだな。何処かに監視カメラでも付いてた
のか。まぁ捕獲した奴が変な事をしないとは限らんしなぁ、と考えた。
すると、
(麻薬探知犬ってなんだ? カメラは付いてるけど四六時中観てる
訳が無いだろ? 俺、そんな暇人じゃねーよ。カバンの中身くらい、
レントゲンの要領で見えるし、匂いを嗅ぎ分けるくらいは俺でも
出来るぞ)|(英語)
やばい、コイツにも頭の中の考えがバレてるのか、自動捕獲機に
出来るんだ、他の奴も出来て当たり前か・・・
(まぁそうだな、敢えて聞かないってのも出来るが、まだお前らを
信用できないので、すまんな)|(英語)
「ジムさん、どうしま、した? 顔色が悪い、ですよ、怖い顔、です」
|(広東語)
「あぁ、何でも無い」|(英語)
今のこのおっさんの声、俺にしか聞こえなかったのか?
なんてこった・・・
「言った通りだ、今持ってるモノを全部出して机の上に置け。
そのカバンも置け。
無機物なら消毒・殺菌・洗浄して、後で返してやる。
お前さんの大事な、嫁さんの写真入りロケットもな?」|(英語)
おっさんはジムの胸元を指さしながら、またニヤリと嗤う。
「え、何でジムさんのペンダントの事を?」|(日本語)
「あ、観てた、のか。ここまで、来る途中の様子を、全部」|(広東語)
「全部は観てねーよ。そんな面倒な事するかよ」|(英語)
おっさんは、両手を振って否定する。だが恐らく全部知っている
のであろう。
そして、いつの間にか、床が静かにせり上がり机の様に成っていた。
「そっちが風呂みたいなモノだ。入って服を脱げ。箱が有るから脱いだ
服は全部その中に入れろ。消毒・殺菌・洗浄して、後で返してやる。
俺のお勧めは睡眠コースだ。寝てた方が楽だぞ。
どうする?」|(英語)
また壁に扉が現れた。音もなく開いていく。そこにドアなんて有った
のかどうかすら判らないほど平坦な壁であったのに。
[男湯][女湯]
二つの入口が出来た。いつの間にかその上に表示まで現れていた。
雄二には日本語に見える。
二人には彼らの母国語で読めるようになっているのかな?と疑問を抱く。
これ、銭湯か温泉の大浴場?
この物語は創作です。
作者の空想・妄想の塊です。




