第28話 月面
作品タイトルは適当です。懐かしい響きの題名にしてみました。
多分、内容とは関係ないと思います。
「そろそろ月に到着します。綺麗ですよ、どうぞどうぞ。
近くに寄って観てみたら如何でしょう?」
自動捕獲機のその声掛けによって、三人は一斉に窓に近寄る。
雑談に花を咲かせるのに忙しく、全く外の景色を見ていなかった為、
窓一面に映る丸い月の姿を目の当たりにした三人は、それを観て
固唾をのんだ。
その美しさを目にしてに暫くの間、三人の誰からも声が出ない。
いや、出せないと言うべきか。既に陳は、泣きそうである。
もう、目を真っ赤にして涙が溢れそうになってきている。
「これが、月、なん、ですね・・・俺、泣きそう」|(広東語)
「あぁ、綺麗だ・・・」|(英語)
「えぇ、凄いですね・・・」|(日本語)
その後、また三人の口からの言葉が無くなった。
大昔のテレビのCMの様に、楽器店のショーウィンドウ越しに憧れの
トランペットを見つめる少年の如く、三人並んで窓に手を付き目を
離すこともなく、その美しい月の光景を凝視していた。
目が離せなかったのであろう。
一分間ほど沈黙の時間が流れた後、自動捕獲機が再び声を出す。
「月の裏側に行きます。しかし、その前に何処か見たい場所があれば
行きますよ。お勧めは原住民の乗ってきた機械が放置された所です」
「何! アポロ宇宙船のか? 有るのか?」|(英語)
その自動捕獲機の声に真っ先に反応したのはジムだった。自国の
宇宙探査の残骸があると聞かされれば、見たいと思うのは至極当たり
前であろう。
「ちゃんと残っているんですね。是非とも見たいです!」|(日本語)
「そう、ですね。良いです、見たい、です」|(広東語)
「捕獲した皆さん、大抵は同じ様な事を仰ってますね」
「その台詞、何度か聞いたことありますね」|(日本語)
雄二が微妙な違和感を覚える。普通に会話しているけど、やはり
コレは機械なんだなぁと、同じ言葉で応答をするように出来ている
んだろうなぁ、と思いを馳せた。
人間は自分たちの行動に似ているモノに対して、本能的に知らぬ間に
親近感を覚える様に出来ているんだな、と改めて実感した。
ただ、この自動捕獲機の場合、部屋みたいな構造である為、何処に
向かって喋るべきなのかが、中々要領を得ない。
監視カメラや、モニター、ピカピカ光るランプなどでも有れば、そこに
向かって喋りかけるし、擬人化もしやすいのになぁ、とも思い始めていた。
映画「2001年宇宙の旅」のコンピューターのHALの様に。
「アポロが、着陸した場所は、静かの海、です、かね?」|(広東語)
「11号はそうだ。ニール・アームストロング船長とバズ・オルドリン
の二人だな」|(英語)
暫く月に見とれていて次第に少しずつ感動が冷めてきたのか、二人の
間に会話が始まる。
アメリカ人にとっては世界に誇れる自慢なのであろう、彼の口からは
宇宙飛行士のフルネームが直ぐにスラスラと出てくる。
「詳しいですね、ジムさん。好きなんですか?」|(日本語)
「まぁな、俺はどちらかと言えばヘリの方が好きだが、アポロは
アメリカの栄光のシンボルだからな。間近で見れるなら見たいさ」
|(英語)
「このまま行っても宜しいですか?」
「皆さん折角なんで行きましょう! アポロの着陸船の後、
見たいですよね?」|(日本語)
「当たり前だ、行ってくれ」|(英語)
「はい、行き、ましょう」|(広東語)
「はい、いいですよ。どうぞ」
全員の意見が纏まったので、自動捕獲機は進路を「静かの海」に変更した。
今は、もう窓の外は月面にある地表のクレーターが手に取るように観える
ほどに近づいている。
「近くで見ると意外と穴だらけなんですね。クレーターでしたっけ?」
|(日本語)
「あぁ、そうですね。月には大気がありま、せんから、隕石が燃え尽きずに、
そのまま、堕ちてクレーターに、なるし、それを風化させる雨や風なん、
かもありません、からね」|(広東語)
「なるほどな。だからこんなにボコボコなのか」|(英語)
拡大望遠の機能を使わずそのままの映像なのか、月面に有る大小の様々な
クレーターを確認することが出来る。それを見せるてくれる為なのであろうか、
自動捕獲機は敢えてわざとゆっくりと移動しているように思えた。
「そろそろ原住民の機械の放置してある場所に到着します」
まだ高度が高いため、三人の肉眼では確認することが出来ない。自動
捕獲機は敢えて拡大機能を使わずに焦らしてでもいるのだろうか。
「どこだ? 見えんぞ?」|(英語)
「解りませんね・・・」|(日本語)
「まだ高度が高い、のかも、しれない、です」|(広東語)
「今は原住民の放置している機械の真上います。拡大望遠しますか?
それとも、このままの映像で宜しいでしょうか?」
矢張り焦らしているのであろう、機械のくせに生意気だな、と雄二は思った。
「このままにして下さい、ゆっくり降りて行ってアポロの宇宙飛行士と
同じ気分を味わいましょうよ、ね?」|(日本語)
「お前、良いことを言うな、ホンダ」|(英語)
「良い、ですね。捕獲機さん、ゆっくり、と降りて下、さい」|(広東語)
「はい、いいですよ。どうぞ」
みんなが同意してくれた。そりゃそうですよね、味わいたいですよね。
俺たちはみんな当時は生まれていないから、リアルタイムのテレビ中継を
知らないないけど、それを観た気分になりたいですよ。
いやぁ、楽しみだなぁ、アポロの着陸船かぁ、どんなのだろう?
と雄二は考えていた。
「何か見えた? あれ、ほら、あそこ」|(日本語)
何やら見えてきたので、雄二が窓を指を指して二人に場所を教える。
岩では無い人工物の様に見えたのだ。
「え? どれだ、どこだ?」|(英語)
「判りま、せんね。どこ、かな?」|(広東語)
まだ二人は気が付いていないのか、違う方向をキョロキョロと見回している。
無理もない、ゴマ粒ほどの大きさである。恐らくあれだと思うのだが、雄二も
確信を持てるほどではない。
が、確実に大きくなっていくそれは、矢張りそれは岩ではないような気がする。
「ほらあそこ、アレじゃないかな?」|(日本語)
「ん、判らんな」|(英語)
「あぁ、あれ、かな?」|(広東語)
陳が明後日の方向を指さしているのを訂正したのだが、まだ解って
いないらしい。またキョロキョロと視線を動かしている。
ジムは目が良くないのかそれとも興奮しているのか、全然気が付いて
いないらしく少し苛ついている。
しかし、どんどんと高度が下がると、その無機質な機械の姿が肉眼
(と言っても自動捕獲機の窓越しである)でも何とか視認できるほど
になってきた。
「お、あれか! あれだよな?」|(英語)
「あぁ、そう、ですね、あれだ」|(広東語)
どうやら、二人も見つけられるようになったらしい。着陸船らしき四角い
物体が見えている。
近づくに連れ、それが金色で四隅に着陸脚が出ているのも確認できる
ようになってきた。
「もう少し、高度を下げますか?」
自動捕獲機が、三人に確認の質問を投げかける。
「あぁ、ギリギリまで頼む。だが、当てるなよ、貴重な人類の宝だ」
|(英語)
「で、ですよねぇ。あれを壊したら、地球の人全員に怒られちゃう」
|(日本語)
「本物だぁ、俺、俺、も、もう、泣きそう、ぅぅ・・・」|(広東語)
陳は、泣きそうでは無く、もう既に涙を流しボロ泣きである。
ハンカチを持っていないのか、服の袖で目を吹きまくっている。
鼻水もダラダラ垂れている。それを見かねた雄二は、服やズボンの
ポケットを探して、その中に持っていたポケットティッシュを差し
出してやった。
実はこれも母親が渡してくれたキャリーケースに入っていたものだ。
陳は、黙って頷いてそれを受け取ると、チーンと鼻をかむ。
自動捕獲機は、着陸船の残骸の真上に静止した。およそ30メートル
くらいであろうか。それでは良く見えないであろうと気を回したのか、
水平に移動し、更に高度をほぼ月面に接地するくらいまで下げた。
「こ、これが! おい、見ろ、あそこに星条旗がまだ有るぞ!」
|(英語)
ホコリと言うか砂埃であろうか、少し汚れて入るがアメリカの国旗
である星条旗がしっかりと建てられていた。
着陸船の下部も同じく少し砂埃を被ってはいるが、テレビ等で見た
金色の胴体と四本の着陸脚がハッキリと窓に映し出されている。
上部はLEM (Lunar Excursion Module)の二人の飛行士が
乗り込んでいた帰還部の離陸用のロケットエンジンの延焼の影響で
あろうか、少し焦げているように見える。
「あ、そうだ携帯電話で写真を撮ろう。凄い記念ですよ」|(日本語)
「良い、ですね、俺も撮ろう、かな」|(広東語)
陳はポケットからスマホを取り出し、パシャパシャと撮影した。
雄二もポケットから昔ながらの二つ折りの黒い携帯電話(所謂ガラケー)
を取り出して、カメラ機能を起動しようとしていた。
それを見たジムが疑問を投げかける。
「ホンダ、何だそれ? 携帯電話か? エラく古臭いのを持ってるな。
今でも使えるのか? アメリカじゃそんな物もう無いぞ」
|(英語)
「え、あぁこれですか。俺、どうもこっちの方が好きなんです。
これね、一応は4G (第四世代)なんで、今でも使えるんですよ」
|(日本語)
「そう、ですね、珍しいです、よねぇ。所で、ジムさんは?」|(広東語)
「俺か? ティーンエイジャーの女じゃねーし肌身離さずスマホを
持ってたりしないぞ。それに夜中だったしな。あれば撮ってるぞ。
二人とも、後で俺にもその写真を送ってくれ」|(英語)
「はい、地球に帰ったら絶対に送りますよ!」|(日本語)
三人は交代で窓の景色の撮影や並んで自撮りをやり、撮った画像を
見ては、俺が見切れてる、目を瞑ってしまった、もう一度撮ろう、等と
あーだ、こーだ、まるで日本の女子高生のように、はしゃいでいた。
この物語は創作です。
作者の空想・妄想の塊です。




