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第27話 談笑

作品タイトルは適当です。懐かしい響きの題名にしてみました。

多分、内容とは関係ないと思います。


 自動捕獲機が移動している事も気が付かず、三人はインスタントコーヒー

を飲みながら談笑をし始めた。


 どうやらコーヒーだけでは物足らず乾パンの袋を開封し、それを三人で

摘んでいる。

 ジムが端の方のベッド、残りの二人が真ん中のベッドに腰掛けている。

ジムの隣に雄二のキャリーケースを置き、それをテーブルの代わりにして

コーヒーカップや乾パンの袋を載せている。


ジムがその乾パンを一つ掴み、雄二に聞いている。


「なぁホンダ、これ何なんだ? 保存食なのか?」|(英語)


「あぁ、これは日本の「乾パン」と言って、長期保存出来るようにさせた

 乾燥パンみたいな物ですかね。地震や台風など災害の時に備えて置いて

 おく非常食です。気に入りましたか?」|(日本語)


「あぁ、これビスケットだな。悪くない。軍でも似たような物を携帯食に

 使っていたと思う」|(英語)


「へぇ、そうなん、ですね。そう言えばジムさんって軍人さん、なん、

 ですか?」|(広東語)


「そう言えば俺達は、まだきちんと自己紹介ってやってないですよね。

 名前を教えあったくらいでしょう?」|(日本語)


 朝食(朝なのかどうかは不明のままだが)の代わりに、バリバリと

乾パンを齧りコーヒーで流し込みながら、二人がうんうんと頷く。


「言い出しっぺの俺から、改めて自己紹介をしましょうか。

 名前は本田雄二。苗字は自動車メーカーのHONDAと同じですね。

 名前が雄二です。今年で28歳になります。

 中小企業の工場で働いているしがない工員ですね。

  夕方にお腹が減ったので近所のコンビニに自転車に乗って食べ物を

 買いに行ったら、帰りの道で突然自動捕獲機さんに捕まりました。


  運がなかったんですかね。

 その後、長く付き合ってる彼女の陽子さんに電話して、会って事情を

 説明して・・・帰れないかも? と思ったら・・・求婚してました」

 |(日本語)


「そうか。あのキャリーケースに入っていた写真立ての彼女か。

 返事はオッケーなんだろ? 絶対に、帰らないとな・・・」|(英語)


 雄二は声を出さずに、コクリと頷いた。

少しの間、三人の周りに神妙な雰囲気の沈黙の時間が広がる。

それを察して、この場の雰囲気を変えようとジムが敢えて明るい声を出した。


「じゃ、次は俺が言うか。名前はジム・ジャクソン、25歳で、アメリカ

 陸軍軍人だ。ただ、入隊したのは半年くらい前、いやもっと短いか。

 元々は、こう見えてトレーニング・スクールのインストラクターの

 仕事をやってたんだ」|(英語)


「いえ、見たまんま、ですよ。服を着てても、ムキムキが解り、ますよ」

 |(広東語)


「そうか? 大したこと無いと思うがな。それはさておき、俺の親父も同じく

 陸軍の軍人でな、CH-47チヌークのパイロットだったんだ。

 子供の頃からの憧れでな、俺もいつかは親父みたいになりたい、と思って

 たんだ。で、どうしても諦められなくてな、ジェミーに相談して入隊したんだ。

  あ、ジェミーは前にも言ったが女房な。昔、同じ所でトレーナーやってて

 意気投合して結婚したんだ。


  あと、俺の場合は夜中に寝てたら、隣の糞ったれな馬鹿犬が吠えまくるから

 強盗か泥棒でも来たのかと様子を見に庭に出たら、捕獲された」|(英語)


「そうなんですか、犬のお陰で・・・運が悪いですよねぇ。

 所でチヌークって何ですかね。飛行機ですか?」|(日本語)


「なんだホンダ、知らないのか。ヘリコプターだよ。タンデムローターの奴だ。

 デカいんだ、見たこと無いか?」|(英語)


「あぁ、ありますね。日本の自衛隊にも有ったかな。

 確か、プロペラが前と後ろに二枚付いてるヘリでしょ?」|(日本語)


「そうそう、それだ。陸軍で一番デカいヘリだ、格好良いんだぞ。

 あとプロペラじゃねーぞ、ローターで回転翼だ、そこは間違えるな!」

 |(英語)


 ここでジムは雄二に右手の人差し指を向け、学校の先生の様に指摘してくる。

どうもジムの心の中にある妙なスイッチを入れてしまったのを感じて、

チェンは雄二を助けるために、話題を変えようとした。

ジムの中にあるヘリに対する異常な偏執を、同じ性質である陳が嗅ぎ

取ったのである。


「話は変わります、けど、そのジェミーさん、奥さんは、その、

 美人さん、ですか?」|(広東語)


「おお! チェン、写真を見るか? 美人だぞ。ほら、この肌身離さず

 ぶら下げているペンダントのロケットの中に写真があるぞ」|(英語)


 ジムはそう言うと、シャツの襟元から太い首に巻いているロケット・

ペンダントを取り出し、一度軽くキスをし熊のような大きな手で鎖を外して

蓋を開けて中の写真を二人に見せた。


「今の時代に、ロケットに意中の人の写真を入れて首に巻いている人、

 本当に居るんですね。大昔の映画やドラマでしか観たことないですよ」

 |(日本語)


「そうです、よね。今でも有るん、ですね、ロケット。初めて、見た!」

 |(広東語)


「いや、お前らロケットに反応してないで、ちゃんとジェミーを見ろよ!」

 |(英語)


 そう言われて、二人はその小さな銀色の楕円形のロケットに入っている

ジムの妻の写真が見えるように、顔を並べて近づける。


「わ、何ですかこのポーズ、凄いですね・・・」|(日本語)


「えぇ、腕が太い、ですよね・・・」|(広東語)


 真っ赤なビキニトップ姿で、爽やかな笑顔でお馴染みのビルダー・ポーズを

取っている黒人の美人の写真が、そのロケットに入っている。

女性にしてはかなり鍛えられた筋肉の肉体美で、ジムが誇らしげに自慢する

のも頷ける。


「そりゃお前、ビルダークイーンだからな。でも腕じゃなくて顔を見ろよ」

 |(英語)


「小さいので良く見えませんが、確か映画女優に似た人が居たような?」

 |(日本語)


 ジムが捕獲された時、窓 (に成った壁か?)から見ていた女性の顔も

思い出しながら、雄二が答える。

頭の中にその女優の顔は出てきているのだが、名前が出てこない。


「誰、ですか? でも確かに美人です、よねぇ」|(広東語)


「な、な、そうだろう! お前が言いたいのはハル・ベリーだろ?

 良く言われるんだ。な、違うか? ホンダ」|(英語)


 ジムは丸太のような太い腕を伸ばしロケットを雄二の顔の前に、しかも

目に入れそうな勢いで突き出してきた。

その距離では焦点が合わないと思われるが、ジムはお構いなしである。

 眼のピントが合うように、ロケットから距離を離すため雄二はジムの

太い腕を少し下げさせた。


「あ、多分その人かな? 前にボンドガールを演じてた女優さんでしょ?」

|(日本語)


「そうそう、それだ。でもジェミーの方が美人だけどな。しかもケツが良いんだ。

 滅茶苦茶、毎日鍛えてるからな。プリッと上を向いててな。

 ジェミーの上腕二頭筋と三角筋、腹筋、それに背筋にそこから繋がる引き

 締まったケツのラインが良いんだ。

 どうだ? 俺の女房だからって遠慮はするな!

 もっと見ろ!」|(英語)


「は、はぁ、この写真には上半身しか写っていないので、お尻の線は・・・

 残念ですけど見えないので判らないですよ?」|(日本語)


 開けた蓋の部分にも、つまりロケットの中には二枚の写真があるのだが、

どちらも上半身の正面を撮影した写真であるので、ジムが自慢する妻の臀部

の綺麗な曲線は見えない。

 向かって右側が両手を頭の上に挙げているポーズ、左側が右腕の肘を曲げて拳を

顔の顎の下に持ってきているポーズである。

黒い肌に真白で歯並びの良い、爽やかな笑顔だ。


「それにしても、凄い筋肉、です、よね・・・」|(広東語)


「そんなに褒めるなよチェン。もっと見たいのか? ほら遠慮はするな!

 どうだ、どこの筋肉が好みだ? ほらほら」|(英語)


 今度は、チェンの目に入りそうな程グイグイとロケットを彼の顔の前に

突き出してる。しかも満面の笑顔に溢れているのである。

そう、陳は話題の誘導方法を見誤ったのだった。

間違ったジムの心の琴線に触れてしまっていたのだ。

 ヘリの話題では無く、こちらこそが実はジムの地雷だったのだ。

但し逆鱗では無く、あくまでも琴線なのだ。

余計にジムの喋りの熱量が増している。

陳は、あのままヘリの話題にしておくべきだったと今は深く後悔しているが、

それをなるべく顔には出さないように、慎重にロケットの写真に焦点を合わせる。


「あぁ、残念、ですね。この写真じゃ、お尻が見えない、ですよね?」

 |(広東語)


「そうだなぁ、でも絶対に気に入るぞ。お前、今度俺の家に来い! 筋肉について

 俺たち夫婦の持論を一晩中語ってやるぞ!」|(英語)


「は、はい、無事に帰れたら、是非ともお二人に・・・ぽ、ポーズを取って、

 もらってぇ・・・」|(広東語)


 陳の目が完全に泳いでいて、蛇の前のガマガエルの様に脂汗を流している。

これは不味いと雄二も感じたのか、助け舟を出そうと違う話題を振ろうとした。

が、時既に遅しであった。


「そうか、ちょっと待て、今服を脱ぐからな!

 どのポーズをやって欲しいか、ほら言ってみろ!」|(英語)


 ジムが仁王立ちの状態になり、それから服を脱ごうとし始めた。

雄二が、駄目だこれは不味い、何とかしないとジムがここでパンツ一丁に

なってしまう… と考えていた矢先に自動捕獲機が声をかける。


「少し落ち着いて下さい。暴れないで下さい」


 自動捕獲機がそう言うと、不思議とジムの筋肉談義に対する熱量が下がった

ように見えた。

その後に糸が切れた操り人形の様に、ベッドにへたり込んでしまった。


「身体に入れた機械で脳内のアドレナリンの分泌の抑制、並びに交感神経の

 興奮状態の鎮静、副交感神経の活性による精神の安定化を実行しました」


「え、そんな事まで出来るんですね・・・」|(日本語)


「あ、危なかった、です、ありがとう、ございます」|(広東語)


 先程まで、頭から湯気が出るほどの勢いだったジムは、今では呆けたような

表情になってしまった。まんまるに見開かれていた目と開き気味だった瞳孔が、

絞り込まれてきた。

その姿を見た雄二と陳は、見つめ合い「逆らえないんだ…」と内心で恐怖した。


 それから一分間ほど経つとジムはいつもの様に落ち着いた態度に戻り、

何事もなかったかのごとく普通にコーヒーを啜り出した。

その様子を確認すると、今度は陳が自己紹介をやり始める。


「じ、じゃぁ、次は、俺が喋り、ますね。名前は陳 学義チェン・シュエイーです、

 27歳です。

 昔は、香港では結構、大きめのIT企業で、エンジニアと言うか、プログラマー

 として、働いて、ました。

 でも、その競争社会というか成果至上主義、実力至上主義かな、それに疲れ

 ちゃって、辞めました。今は親父の紹介で、スーパーマーケットの店員を、

 してます。

  少し、喋り方がぎこちないの、その時の、影響です、かね、ごめんなさい。

 また出てきちゃい、ましたね。店員をやり始めて最近は治ってきてたん、

 ですけど。捕獲されて精神的に重圧が掛かっている、からかな?


 俺の場合、仕事の最中に小便をしたくなって、店の外にあるトイレに行こうと、

 した時に、捕獲されたん、ですね。俺も運が悪いです、よね」|(広東語)


それ聞きながら、ジムはペンダントを再び太い首に巻いていた。

もう、先程とはうってかわって完全に普通の精神状態に戻った彼が、

その陳の話に答える。


「チェン、さっきは興奮して悪かったな。そうか小便か、最悪だな。

 喋り方は、まぁ大丈夫、聞き取れるさ。精神的な事なら時間が解決する。

 そんなに気に病むな。戦場帰りの軍人でも良くある事だと聞いている。


  そう言えば、香港人って英国式の名前が有るんじゃないのか?

 ブルース・リーやジャッキー・チェンとかよ。

 中国人の名前は、俺には発音しにくいんだよ。そっちの方が問題だ」|(英語)


「そうそう、ジェット・リーやチャウ・シンチーが居ますよね?」|(日本語)


 雄二も陳の喋り方の変化に少し前から気が付いていたが、あまり触れないで

いたし、これ以上は深入りは止めようと考え、ジムの発言の内容に合わせていった。


「俺のは、マイケル・チェン、ですね。でも、何で皆さんアクションスター、

 ばかり挙げる、のですか」|(広東語)


「そりゃ、香港って言えばカンフー映画だろ?

 名前はマイケルだっけ? お前もやるのか、今度教えてくれ」|(英語)


「いや、俺は、技術系の人間です、から、そっちは全然、やってない、ですよ」

 |(広東語)


「そうですよジムさん。日本人の俺だって忍者じゃ無いですし、侍でも

 無いですよ。日本刀や手裏剣なんて持った事も無いですよ」|(日本語)


「そうなのか? ある意味、偏見だな。悪い癖だよな・・・

 最近世間で流行ってるPTSD、ポリティカル・コレクトネスってやつだな。

 この俺だって、時々マッチョだって弄られるからな」|(英語)


「いや、それは、見たまんまですから・・・ それとLGBTじゃないですか?

 PTSD (心的外傷後ストレス障害)はトラウマの方でしょ」|(日本語)


「LGBT? あぁそれか・・・さっきの精神的な話と混じってるな。

 でもな俺よりもデカい奴なんて、ビルダーの大会じゃゴロゴロ居るぞ?

 俺なんて、まだまださ。前に大会に出た時なんてな・・・」|(英語)


「そう、なんです、か?」|(広東語)


 また危険な香りがしたので、雄二は慌てて話の矛先を転じようと陳に違う

質問をする。ジムに筋肉の話題を振るのは駄目だ「禁忌だ」と心に刻んだ。


「あ、そうそう陳さん、あの可愛い彼女さんの名前は? 捕獲された時に

 アパートに会いに行ってたでしょ?」|(日本語)


「え? 知ってるん、ですか? お二人は、上から見てたん、ですかね。

 あの子の名前は、李 秋燕リー・シュウエンちゃん、ですね。

 英国式だと、ルーシー・リーちゃん、ですね。可愛い、でしょ?

 

 仕事に疲れて転職して、それから疎遠になってたん、ですけど、捕獲されて

 もう帰れないと言われて、慌てて、スーパーの仕事を放り出して会いに、

 行ったん、ですよ。でもね、”帰ってきてね、好き”って言ってくれて、

 俺、俺、泣きそう・・・」|(広東語)


 今度は違う意味で危険だと感じたので、雄二は陳の肩を抱いて慰めてやった。

どうも、仕事を辞めてからの陳の感情の起伏の変化が垣間見れた様な気がした

のである。

 まだ情緒不安定気味なのかもしれないな、それとも単に涙もろい性格なのか?

と、雄二はこれも心の中に留めておく事にした。


「そうですか、みんな地球に大事な人が居るんですね。

 帰りましょう、何としても」|(日本語)


「そうだな」|(英語)


「そうです、ね。帰り、ましょう」|(広東語)



「そろそろ月に到着します。綺麗ですよ、どうぞどうぞ。

 近くに寄って観てみたら如何でしょう?」



 先程から月のほうが地球よりも大きく見える様になっていたのだが、

三人は話に夢中になって気が付いていなかった。

今は窓一面が殆ど月になって見えている。


この物語は創作です。

作者の空想・妄想の塊です。

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