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蜜を知った蜂  作者: 愛菜
6/7

蜜なんて

 姉と杉下君は私が中学を卒業するちょうどの年に別れたという。

理由は価値観の違いだという。



3年後、姉は5つも年上の商社マンとゴールインした。

すごく幸せそうだった。


姉に物凄く罪悪感が湧いたのは、私が高校2年生になってからだった。

初めて恋という恋をし、付き合った相手と高校生活のほとんどを一緒に過ごした。

この人と一生を添い遂げたいと思うぐらいには彼にのめり込み、愛し愛されていたような気がする。

”初体験”というものなんてとっくに終わっていたはずなのに、私にとっての”初体験”は間違いなく彼だった。

彼と戯れる中で、行為の真ん中に愛が存在しているとこんなにも違うものかと思い知らされた。

私は今までなんという無駄な時間を過ごし、なんという無意味な行為をして姉に対する無意味な裏切りを働いたのか。全部の”無駄”が私を渦巻いて私を嫌悪させた。

私と杉下君の真ん中に存在していたのは間違いなく優越感たるもので、まだ体も成熟仕切れてない”女”というより”女の子”の私を求めてくれた悦びにあったのだと思う。

ただそれだけの話。

杉下君は一体どんな感情で私を抱いた後に姉を悦ばせていたのだろう。

彼の心情を考えると、未だ身震いを覚える。


そんな事があったのも知らないで現在に至り、姉は能天気に幸せそうにしている。

この世の中、知らない方がいい事は知らないままでいたほうが幸せな事が多い。

高校時代の青春を全て捧げた彼には、最終的に浮気をされて終わった。

その時私は、神の存在の有無を再確認させられたのである。

間違いなく神はいて、神は悪事を見逃さないのだと。

浮気相手は私の仲の良い女グループの中の1人だった。いつから始まって、どこまで何をしたかも知らないが、もし神が見ていて同じような苦しみを私に与えようとしたのならきっと、私と付き合ったすぐから密かに会っていたのだろうと思う。

普通だったら喚き散らし怒鳴り散らしていたところだが、私が過去に姉にした事がまるっきり裏で行われていたと思うと、もはや笑うしかなかったし責め立てられる権利なんてこれっぽっちもなかった。

ただ、姉に対する罪悪感だけが残ったのである。








高校を卒業してからは、アルバイトをして過ごした。

大学なんかに行って”大学卒”を手に入れたとしても、大きな会社に勤めて周りの人達とうまくやっていける気が全くしなかったからである。

それにこの歳になっても、やっぱり自分は他の人とはどこか違う、異常者だと思い込んでいたからである。


アルバイトは、新宿の大きなデパートの中にある小さな下着屋さんだった。

洋服ブランドのアルバイトの人達はどこかセカセカして見えて、女子特有の匂いを感じて苦手だった。

その点、その下着屋は大したノルマもないし、働いている人達の年齢層が高かった為末っ子の私はそっちの匂いの方が安心して働けるような気がしたのだ。

現に、よく可愛がってもらえたしそれなりに給料も良かった。

場所が新宿という喧騒な街とだけあって、色んなお客様が来店した。

電話しながらウィンドウショッピングをしにくる若い女の客や、遠くから東京にわざわざ遊びにきたと見られる高校生のキャピキャピした女子グループ、明らかに恋人では無い年上の男性を連れた綺麗な女性や、衣装で使うからとびきり派手なものをちょうだい!と言ってくるダンサーの女性、どこかの動画で見たことのあるえっちなお姉さん、出勤前だからこのまま着て出ても構わない?と聞いてくる夜の女の人。


面白いものを見るのなら、大学なんかよりよっぽどこっちだと思った。

それに、私が学びたいのは勉強なんかよりこういうものなんだ。

そんなことを思いながら、色んな女性の胸のサイズを測り続け、月日は経っていった。


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