初めての蜜の味
パソコンをいじったという事は父にはバレていないようだった。
あれから一週間。私は、画面に映る水着を着たあのアイドルの姿が嫌に目に焼き付いてなかなか頭から離れてくれなかった。
私はあれから、なぜかパソコンを遠ざけていた。ここ一週間、放課後は必ずマミちゃんと外で遊びチャイムが鳴り終わって少ししてから家に帰った。それから部活終わりの姉とご飯を食べ、テレビを見て過ごした。
なるべく一人の時間を減らしたかったのだ。
ある時、いつものように姉とテレビを見ていたら、あの水着姿のアイドルがバラエティ番組に出ていたのをたまたま見つけた。
姉は「ゆあちゃんだ!かわいい〜〜!」と言って、目をキラキラさせながらテレビの画面の真ん前に座りその姿を目で追っていた。
私は、何故だか急に顔が赤るんだ。
私の脳裏には水着姿の彼女しか浮かばない。
姉がそのアイドルを、純粋に「かわいい」として見ている傍ら、妹である私は薄いピンク色の水着を着たアイドルの姿を思い浮かべてしもうのは異常なのではないか。
私はどこかおかしい。
急に自分に吐き気を催してトイレに駆け込んだ。
私は、普通の子が見てはいけないものを見てしまった異常者である。
そんな事を思った。
ある日の放課後。
私はずっと遠ざけていたパソコンの前にいた。
理由は特にない。ただ、もう一度だけ、あのアイドルの笑顔が見たかったのかもしれない。
水着姿の彼女を見るや否や私の目線は、自然と顔の下の膨らんだものに動く。
私は最初から彼女の笑顔なんかではなく、身体を見たかったのだ。と気づく。
彼女についている膨らみと、自分のものとを見比べてみる。
まだまだ成熟していない自分の身体の、全然違うその大きさに、落胆する。
お風呂場で母の裸姿を見る事があるが、それともまた全然違う彼女の大きくて綺麗な膨らみは、ハリがあって、それなのにとても柔らかそうだった。
初めての「憧れ」だった。
私は懲りる事なく、気つけば画面の左側に連なるファイルにマウスを進めていた。
この間のと同じファイルをクリックしたつもりだったのだが、どうやらまた違うファイルを押してしまったようで若干焦る。
今度は画面いっぱいに再生ボタンが広がっていた。
再生してみないとどんな動画か分からないような荒々しそうなものばかりで、私は興味と好奇心に苛まれていく。
恐る恐る再生ボタンを押す。
そこには聞いた事のない大きな声を出す若めの女の人が尻を突き出し、机にもたれながら体を揺らす姿が映っていた。
私は唐突のその大きな声にも、動く女の人にも、ひどく動揺してしまって、咄嗟に動画を止めた。
なんだ、今のは。吐息まじりの女の人の声、見た事の無いあの行為。
私は息を呑むも、感じた事のない胸の高まりを動機に、音量だけを最小限にまで下げてまた再生ボタンを押した。
急に自分の下の部分が熱くなってきているのが分かった。
尿を我慢している時みたいに、下から脳に何か指令をかけているようだった。
私は、その指令の意図がよく分からず、とりあえず近くにあった小さいテーブルの角で押さえた。
動画の中の女の人は、終始同じような声を上げ、途中で何かを叫んでいるようだった。が、音量を最小限にまで下げていたので、何を叫んでいるのかは分からなかった。
最初は、この動画自体のインパクトが大きすぎてこの女の人が一体何を叫んでいるのかはあまり気にならなかった。
だが、動画を見ているうちに何度も繰り返し同じ言葉らしきものを口ずさんでいるように見えて次第に彼女が何を叫んでいるのかを知りたくなった。
だが、音量を大きくするわけにもいかない。途中で誰かが帰ってきてしまうかもしれない。
そんな事を考えて、姉が母に、もう寝なさいと言われてから布団の中でこっそりゲームをしている時に耳に何かをつけていたのを思い出す。
それがもし、自分にしか音が聞こえないようにする為の道具ならば。
一度パソコンを閉じて、部屋に向かい、姉の道具箱の中身を探る。
「これだ」
その物を、パソコンの縁にある穴に手探りで差し込んでみる。フィットした穴に奥まで差しこみ、耳にその道具をはめ込み再生ボタンを押した。
音が耳に直接入ってくるのが分かった。ものすごくリアルで立体感のある音に私は更に画面にのめり込んでいく。
女の人が同じような声を繰り返しながら、やはり何か叫んでいる。
「とし...とsh...」
動画を撮っているであろう、男の人らしき吐息も、新たに聞こえ始めた。
女の人は続けて言う。
「としあきさん」
私は耳を疑った。
としあき、という名前は、紛れもなく、私の父の名前だった。
するとしたら、この女の人は私の母なのかと顔をよくよく見てみても明らかに違う、五個か十個は下の少し若めの女の人で、聞き慣れている母との声とも遥かに違った。
結婚している相手以外ともこういう行為をして良いものなのか。
いや、良いはずがない。
まだ幼かった私にとっても、流石にこの行為が良いのか悪いのかだけは分かった。
私は急に青ざめて、動画を止め、パソコンを閉じ、とぼとぼとした足取りでリビングへ戻った。
少ししてから、母が帰ってきた。
母の姿を見るや否や、私は泣き出しそうになってしまった。
あんなの、見なければよかったと思う気持ちとは裏腹に私の下の部分はなんだか湿っていて、ドクドクしているように感じた。