04 心を読むのもほどほどに
「やい、人間。俺と勝負しないか?」
天邪鬼はそう言って俺を指さしてきた。
「なんで、俺がお前と戦わないといけないんだ?」
「別にタイマンやろうって訳じゃないぜ。おい、座敷童。ここに遊び道具はないのか?」
「あ! そんな言い方したら……」
「なれなれしく呼ぶでない!」
そう言って座敷童は人さし指を天井に向けた。すると、大きなタライが天邪鬼に落ちてきた。
「危ないっ!」
しかし、天邪鬼には当たらなかった。どうやら自分の妖力で防いだらしい。
「おいおい、危ないじゃないか。で、道具はあるのか?」
「ふんっ! 一応かるたや、パッチン、ベイゴマなどもあるぞ」
「いや、そういうのじゃなくてもっと最近のゲームソフトとかはないのか?」
天邪鬼が呆れていると、座敷童は明らかに気分を害したようだった。
「文句があるなら、今すぐここから立ち去ってもらおうか」
2人が睨みあっているので、俺が間に割って入った。
「ま、まぁまぁ。ほら、ここにオセロがありますよ?」
俺が座敷童に言うと、指さした方向に目を向けた。
「おや? 本当だね。こんなのもあったのか」
座敷童の意識がそちらに向いたので、俺は安心した。でも、なんでオセロがあるんだよ。
「まぁ、いいか。それを貸せ。人間、これで勝負だ」
なんでそこまで勝負にこだわるんだ。俺は首を傾げたが、仕方なく勝負を了承した。
「しかし、オセロは久しぶりだな。ルール覚えてるかな」
「そんなこと言ってられるのも今のうちだぜ」
確かにその通りだった。最初はよかった。白である俺が優勢だったが、後からどんどん黒の天邪鬼が増えてきたのである。
「あれ、もしかしてもう置くところが無い?」
よく見れば、ほとんどが黒で埋めつくされていた。天邪鬼の圧勝である。
「ふっ、話にならないな」
「な、なら他の物で勝負だ!」
このままでは俺もくやしい。なので、別の物で勝負をすることにした。
「な、なんで俺ずっと負けてるんだ?」
他にもかるたや、クイズ、ババ抜きもした。が、俺は全敗だった。
確かに小さい頃にやった物ばかりだけど、ここまで負けるものなのか?
「弱いな、人間。これなら学校をやめて家に帰ったらどうだ」
俺は何も言い返せなかった。
「たく坊……」
猫又が心配そうに俺を見ていた。どうしよう、これじゃ負けたままだ。
すると、俺はハッと思いついた。確か天邪鬼は人の心が読める妖怪だった。それなら納得がいく。
「お前ずっと俺の心を読んでいたのか」
「能力を使うなとは言われてないからな」
「そんなの正々堂々じゃないじゃない!」
天邪鬼の言葉に猫又が食ってかかった。
「これも勝負の1つだろ? 俺は悪くないぜ」
「なら、もうひと勝負しようじゃないか」
「へぇー、まだあきらめてないのか?」
「お前も知ってるだろ? 人間はあきらめが悪いんだぜ?」
俺がビシッと天邪鬼を指さすと、天邪鬼は笑い出した。
「はははっ! 確かにそうだったな。で、何の勝負をするんだ?」
「かくれんぼだ!」
俺の言葉に全員がぽかんとしていた。あ、お雪は本を読んでいたが。
「かくれんぼだと? そんなのでいいのか」
「ふっふっふ。かくれんぼを甘くみたらいけないぞ? 意外と面白いんだぜ」
「まぁいいか。後で後悔するなよ?」
「大丈夫だって。早く校庭に行こうぜ」
俺がひらひらと手を振って天邪鬼を促した。しぶしぶと天邪鬼は部室を出ていった。
「なぁ、たく坊。本当に大丈夫なのかい?」
「平気だよ。俺には秘策があるからね」
俺が人差し指を口に当てた。猫又と座敷童は顔を見合わせた。
そして、全員が校庭に集まると、俺は天邪鬼に近づいた。
「一応、鬼は天邪鬼ってことでいいかな?」
「別に構わないぜ。すぐに見つけてやるよ」
「それはどうかな?」
「なんだと?」
「ほら、早く目を閉じて10数えてよ」
天邪鬼は何か言いたそうだったが、俺が急かしたため言うのをやめて数を数え始めた。
校庭にはたくさんの木や、うっそうと茂った草むらがある。他にも隠れるところはいくつもあるが、俺はある場所に身を隠した。
「……8、9、10。よし、数えたぞ。すぐに見つけてやるからな」
天邪鬼は辺りを見回した。
「力を使うなとは言われてないからな。これで終わりだ!」
そして天邪鬼は意識を集中させる。すると、声が聞こえてきた。
(ここの木に隠れれば大丈夫だな)
「よし、その木の後ろだな!」
天邪鬼はすぐに木の後ろを確認した。しかし、俺の姿はなかった。
「」あれ? 確かにここにいるって……
(この草むらにいれば見つからないだろ)
「なら、ここか!」
草むらを探してみたが、また姿はなかった。
「もしかして、俺を利用しているのか……」
それから天邪鬼は、色んなところを探したが俺の姿を見つけることは出来なかった。そして下校のチャイムが鳴った。
「おい、天邪鬼。時間切れだぞ」
座敷童にそう言われて、天邪鬼はすごく悔しそうだった。
「仕方ない。俺の負けだ。おい、人間! ずっとどこに隠れてるんだ!」
「俺はここだよ」
そして俺は猫又たちの後ろからひょいっと顔を出した。天邪鬼は口を開けて驚いていた。
「ずっとそんな近くにいたのか?」
「そうだよ。お前が力を使うのはわかってたし。だから皆に協力してもらったんだ」
すると、天邪鬼はがくっと膝をついた。慌てて俺は近づいた。
「おい、大丈夫か?」
「俺は自分の力に溺れたということか。人間もやるじゃねぇか」
「その人間って呼び方やめてくれないか。俺は前橋 たくやって名前があるんだよ」
「なら、たくや。今回は俺の負けだ。だが、次は負けないぞ?」
「それなら天邪鬼もあやかしクラブに入らないか?」
「あやかしクラブ?」
「そう! それならいつでも勝負が出来るだろ?」
「ふんっ。なんだかつまらなそうな部活だな」
天邪鬼は反対の言葉を言うから、面白そうということか。わかりづらいな。
「これからもよろしくな、天邪鬼!」
「おぅ!」
そして俺たちは拳を突き合せた。こうしてまた1人メンバーが増えました。