03 キュウビにからまれ、雪女がやってきました。
校庭では、たくさんの妖怪の生徒が呼びこみをしていた。俺たちも負けていられない。
「俺たちはあやかしクラブという部活をしてます! 皆で遊んだり楽しく過ごす部活です! 入ってみませんか!」
一応呼びこみはしてみたが、皆こちらをちらっと見るだけで素通りしていった。
「あやかしクラブです!」
「たくや、皆嫌そうな目で見ているぞ。一旦戻った方がよくないかい?」
「うー……」
「おや、たく坊ではないか。面白そうなことをしているな」
俺ががっくりしていると、猫又が寄ってきた。
「あやかしクラブ?」
「そうだよ。でも、人数が集まらなくて困ってるんだ」
「ふむ」
猫又は少し考え、こちらを振り向いた。
「なら、あたしが入ってあげる。猫の交流会とかけもちだけどね」
「本当! ありがとう!」
俺が喜んで猫又の手を握ると、猫又は恥ずかしそうに顔を背けた。なぜだ。
「自覚がないのは困りものだな」
「どういうことですか?」
俺の問いかけに座敷童はにやにやしていた。俺が首を傾げていると、また声をかけられた。
「あやかしクラブ? なんだ、この部活は?」
俺たちが振り返ると、9本のしっぽが生えた妖怪が立っていた。とても美しい女性である。
「わらわはこんな部活を許可した覚えはないぞ。ただちに撤退するのだ」
「座敷童さん、まだ申請してなかったんですか?」
「あぁ、僕が勝手に作った部活だからね」
「それは怒られるのー……」
猫又が呆れていると、女性が近づいてきた。
「お前は確か人間だったな。もう有名になってるぞ。珍しいからな。わらわは、生徒会長でキュウビのタマモだ。どうだ、一緒に生徒会に入らないか?」
「え?」
「わらわのところで、その力量を試してみるがいい。悪いようにはしないぞ? こんな部活なんてやめたらどうだ?」
タマモがちらっと座敷童を見た。なんだろう、俺の中でモヤモヤしたものがこみあげてくる。
「すみませんが、それはお断りします。ここは俺が俺でいられる場所なんです。やめる訳にはいきません!」
「たくや……」
「たく坊らしいな」
俺が意見を言うと、タマモは呆れたように肩を落とした。
「つまらないな。なら、また人数が集まったら申請に来なさい。まぁ、認めるかは別だがな」
そう言ってタマモは歩き出した。そしてぼそっと呟いた。
「わらわの申し出を断ったこと、後悔するでないぞ」
そしてタマモは去っていった。なんだか、最後に怖いこと言ってなかったか、あの妖怪。
それからは、やはり人数は集まらず俺たちは一度部室に戻ることにした。
「人数集めって大変なんだな……」
そう言って俺がドアを開くと、中から冷気が襲ってきた。
「うわっ! 寒っ! なんでこここんなに寒いんだよ!」
「おかしいな、冬はまだ先だぞ?」
確かにおかしい。ここに来るまでは普通の温度だったし、この部屋だけが寒いのだ。
「と、とにかく中に入ってみよう……」
中に入ってみると、隅の方に髪の長い和服の少女が椅子に座って本を読んでいた。
「あれ? 同じクラスのお雪ちゃんじゃない」
俺の後ろから猫又がひょいっと顔を出すと、相手の名前を呼んだ。確かによく見れば、クラスにいたな、雪女。
多分この部屋が寒いのは、この少女のせいだろう。早く元の温度にしてほしいんだが。
「この部屋をこんなことにしたのは君かい?」
座敷童が問いかけると、お雪という少女はやっと本から顔を上げた。なんとも整った美しい顔である。さっきの生徒会長とはまた違う美しさだった。
「ここ、ちょっと暑かったので冷やしました。何か問題でも?」
「いや、寒すぎるだろ! 早くこの寒さをなんとかしてくれ!」
「私にはこのくらいが丁度いいのです。じゃないと本が読めませんから」
俺はなんとかしてもらおうと頼んだが、お雪の方も一歩も引かなかった。なんてこったい。
「じゃぁさ、お雪ちゃんもここの部活に入ったら? そしたらいつでも本が読めるぞ?」
「部活?」
「先生が言ってただろ? 何か1つ部活に入れって」
俺の言葉にお雪は首を傾げたが、途中で何か思い出したようだ。
「あぁ……確かに言ってたわね。でも、文芸部はなくてここで本を読んでたの」
「なら、ここに入っちゃいなよ。ここは妖怪と人間が楽しく過ごす部活なんだって」
「へぇー……」
「まぁ、そういうことだから、好きなだけ本を読んでいいぞ。ただし、部屋の温度は寒すぎないでほしいな」
俺が笑いかけると、お雪もふっと笑った。
「わかったわ。なら、私もここの部活に入ります」
「やったー!」
猫又は喜んで座敷童に抱き着いた。座敷童の方はうっとうしそうにしていたが、なんとか話がまとまってよかった。
「あの、まだ本が読みたいので、邪魔しないでもらえるかしら」
「あ、騒がしくしてごめん……」
こうして、またあやかしクラブのメンバーが増えました。
「へぇー、ここが例の人間がいるって噂の部室か。なんだかつまらなそうなところだな」
「君は確か同じクラスの……」
「俺の名前は天邪鬼。別に覚えなくてもいいぜ」
天邪鬼と言われた少年は、制服を着くずしていて、少しチャラチャラしている印象だった。そして笑っていたので、何かまた起こりそうな予感が俺の中でしていた。